なんとかマン(puzzzle)
大抵朝飯は食わない。350ミリリットルサーモス携帯マグにインスタントコーヒーを用意して、休日の朝から明かりを消してバットマンを観ていた。扉の隙間からチラチラと光が漏れていたので何か不審に思ったのだろう。妻に部屋を覗かれ、彼女は一言だけ漏らすと再び扉を閉めた。
「健全だね」
ひどく不満だ。休日の朝から部屋を真っ暗にしてタブレットを眺めている俺のどこが健全なのだ。あまり超人的とは言えない、闇を抱えたヒーローに、自分を投影する男のどこが健全だというのか。エロ動画でも観ていれば不健全だったのか。チラチラ漏れる光が羽虫を焼くライターの火であったらよかったか。
今日のガチャ、もう回した??
不意にタブレットからメッセージが現れた。あ、まだだった。俺はそのメッセージをタップしてガチャを回す。1ポイントゲット。毎日欠かさずにやっていることだが、4等の10ポイントにすらお目にかかったことがない。ハズレの日が以前より増えているようで気にかかる。時間にして20秒程度だが、日々、一喜一憂するだけの価値があるのか。もっと戦略的にポイ活をされている方にとって、それは価値のある行為なのであろうが、タブレットにでてくるメッセージにのせられて、1ポイント1円でしかないガチャを回し続ける日々に、本来あるべき男の姿とはほど遠いような気がしてならない。作業時間としては20秒程度なのであろうが、俺はガチャ一つにこんなに悩まされ時間を浪費している。
「死ぬのは怖い。ここで死ぬことが。焼かれるゴッサムシティーが救えないことも」と、ブルース・ウェインは言う。
俺は腹筋に力を込め、明日こそはガチャなどしないと心に誓う。そして、あえてなんとかマンと名乗るならばサラリーマン。1%のニンゲンだけが大金持ちになれるシステムの中で必死におこぼれにあずかるサラリーマン。
「死ぬのは怖い。ここで死ぬことが。焼かれる家計が救えないことも」と、俺は言う。
ゴッサムシティーが核の炎に包まれる危機から救われたことを見届け、ペンを取る。否、タブレットにブルートゥース・キーボードをつなぐ。
何のためにというのはあんまり考えたくはないですね。作文に取り付かれると、それによって自分自身の生活がどんどん浸食されていって、24時間戦わざるを得なくなる。何かに突き動かされるような、自分自身でもコントロールできないようなものが原動力なのだろうと思いますね。だからこそ、これまで打ち破ることができなかった壁を打ち破る、そのブレイクスルーにつながるというのが作文の作文たる所以であると、そのように説明したいですね。近視眼的に目の前のものを解決しようということとは縁の違う世界に作文屋は生きていると強調したいと思います。
ある憲法学者の「学問」とは何かに対する発言を模したものだ。とても優れた個人たちが、システムの中でもがき苦しんでいる。
妻が再び顔を見せた。
「昼、昨日のカレーでいい?」
「ぜーんぜんオッケー」
生卵をのせるか、納豆を乗せるか悩んでいると、タブレットから再びメッセージが送られてきた。今日の1位はおとめ座、ラッキーカラーはベージュだそうだ。