トメィトゥ(モンゴノグノム)
僕は今、ポケットの中にトメィトゥを入れています。
トメィトゥですよ、トメィトゥ。知らないでしょうね、トメィトゥ。トメィトゥとは、ナス科の真っ赤なまん丸い果実で、衝撃を与えるとものすごい威力で爆裂するんですよ。ほほほ。ぽりぽり。この威力というのが、それはもう絶大な威力で、たとえて言うならば、東京ドーム1つ分といったところですね。つまりテニスコート180つ分。右ポッケの中で弄んでいるわけですけど、ちょっとでも爪を立てたら、ボンっ、ですよ。ボンっ。このショッピン・モールの人々はその時点で御陀仏です。南無。ほほほ。ぽりぽり。
どうです?わくわくしてきたでせう?
ほうら、スキップなんかしちゃってます僕。衝撃を与えると東京ドーム1つ分、テニスコート180つ分なのにもかかわらずスキップ!では、テニスコート180つ分は、ショッピン・モール何つ分だろうか?2つ分くらいかしらん?ほほほ。ぽりぽり。お手手の皺と皺を合わせて幸せ。先刻から皆さま冷ややかな眼球で僕のことを見つめてますがね、何ですか。そんなに僕の顔の火山が気になりますか?貴方がたの運命は僕が握っているんですよ言っておきますけど。ほうら、これが貴方がたの真っ赤な運命。またの名をばトメィトゥ。ほほほ。ぽりぽり。お手手の節と節を合わせて不幸せ。人類の歴史は、二足歩行により道具を手にするところから始まりました。より強大な道具を持つということは、種の繁栄に直結することだと本能が覚えているのです。最新兵器であり最終兵器であるトメィトゥを握り締める実感に本能が喜んでますー。万能感が全身に漲ってますー。動脈の躍動が宇宙律の打刻にシンクロしているというか、曼陀羅のプールでシンクロナイズド・スウィミン的な感じみたいな。わかります?わかりませんよねやっぱりこの感覚は体験してみないと。
痛っ。なんだなんだ人がせっかく曼陀羅ナイズドしているというのにこのバカップルは!
「いてえなおいこら何処みて歩いてんだよひとりごと言って気持ち悪いんだよ」
「すいませんすいません、トメィトゥ」
あっ、あげないあげない、このトメィトゥは絶対にあげない。危うくあげそうになったけど。ほほほ。ぽりぽり。
「トマトがどうしたんだよ気持ち悪いな」
「痛いっ、駄目です駄目です衝撃を与えたらテニスコート180つが」
「うわなにこいつやばいんじゃないの」
「もうやめとこやめとこ触んない方がいいよなんか気持ち悪いし」
きょっ、今日のところはこれくらいで勘弁して差し上げつかまつりまつるー。あっ、喰いしばった勢いでトメィトゥに指喰い込んでますけど。うわなにこれやばいんじゃないの。もうやめとこやめとこどころじゃないですよねこれ。とりあえず指を抜いたらやばいんじゃないの。んでもね、心は穏やか。
何故って?それはテオブロミンですよ、テオブロミン。知らないでしょうなトメィトゥも知らない人が、テオブロミンを。僕が先刻からほほほ。ぽりぽり。してるでせう?これはチョッコレイトを食べる前の悦びを「ほほほ」、チョッコレイトを食べている時の悦びを「ぽりぽり」というオノマトペであらはしているのです。そして、チョッコレイトを食べ終えた時の悦びは敢えてあらはしていないのです。何故ならば、この悦びをあらわすことのできるオノマトペが太陽系に存在しないので行間から読み取っていただきたいというのが一点。そしてもう一点は、この悦びを独り占めしたいの。ああっ、深海で妖しく光るチョウチンアンコウのイリシウムのやうなテオブロミンを!でも独占禁止法に抵触してしまふかしらん。そして先刻から僕は階段を降りていると思ったら、いつのまにか登っているんですねー。不思議ですねー。ザ・ワールドを感じますねーこれは。あっ、間違えて登りエスカレイターに乗ってたんですねー。無駄無駄無駄無駄、この一段一段が無駄。ああっ、そんな眼球で見ないでくだちい登りエスカレイターの皆さん。そんな眼球で見られたら、僕、顔の火山が一斉に噴火してしまう及び僕自身が真っ赤なトメィトゥに成り果てますから。だから見ないで見ないで見ないでください見るなっつってんだろ聞こえてんのかよ耳付いてんのかよ耳の穴かっぽじれってかっぽじるってなんだよかっ見てんじゃねえかっ見んなみんな皆さまやめて止めてとめてかっ止めてとめてとめトメィトゥとめてとめトメィトゥに成り果てますから。
そして、はい、今成り果てましたー。
こんにちは、僕トメィトゥでーす。
AB型でーす。AだかBだかわかりませーん。てんびん座でーす。右だか左だかわかりませーん。出身は町田でーす。東京だか神奈川だかわかりませーん。趣味は陸上でーす。高校時代に「陸上 命!」と背中に印字してあるティーシャーツ着てたら「じゃあお前、陸上 命!なら水中はどうなんだよ」って友だちにプールに沈められる遊びをしてうんこ漏らしたことありますー。そんな素敵なおもひでを回想しながらーー。嗚呼もうなんだか破裂しそうですよ。僕の頭蓋とトメィトゥはよもや一心同体ですよ。つかこのエスカレイター、登りを降りているのを抜きにして、長すぎません? 降りても降りても湧いて出る漆黒のステップ。いつまで続くのでしょうかこの羞恥プレイ。ああっ、恥ずかしい恥ずかしい。そうだ、登りエスカレーターの皆さんの頭蓋をカボチャだと思えば恥ずかしくないぞ。僕の頭蓋はトメィトゥだけどね。ほほほ。ぽりぽり。シンデレラに登場する伝説の妖精ババアのフェアリー・ゴッド・マザー(名前そのまんまじゃんうける)は、カボチャの馬車の製作に当り、ビビディ・バビディ・ブーというマントラを唱えたと巷でもっぱらの噂になってますが、僕はそんな脆弱なマントラは唱えません。いいですか。そうれ!微々濔・バビ濔・無宇!えっ、なんて読むかって?ビビデイ・バビデイ・ブウですけどへっへっ。さあさっ、カボチャカボチャ。あれ?皆さんの頭蓋をカボチャにしたはいいんですけど、カボチャももしかして爆発するんでしたっけ?そうしたらこの登りエスカレイター、爆弾コンベアーと化してるっていうことですか?そういうことなんですかカボチャのおぢさん?ああっ、トメィトゥはナス科でカボチャはウリ科ですか、そうですかそうですか。あらやだ恥ずかしいわ。このオタンコナス。もうやだ恥ずかしくて恥ずかしくて震える。震えたくて震えたくて会う。てか前々から思ってたんですけどー、瓜ってなんなんすか。メロンもスイカもカボチャもキュウリもゴーヤも瓜ってどういうことなんすか全然「瓜二つ」じゃねえんだよふざけんじゃねえよおたんこナース!ああっ、ごめんなさいごめんなさいつい取り乱してしまって、ごめんあそばせ。頭皮が表面張力だけで均衡を保っている感じなんです。つかさっきからカボチャ達の芽がクールすぎると思ったら、僕、思考がダダ漏れですよね?お口は表面張力保ててない的な、感じ、みたいな?落ち着け落ち着け、カボチャの皆さま。むしろこちらは、ご覧いただきありがとうございますってスタンスで。手前から、べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつスキップ、べっぴんさん。リバースからのドローフォー。ってUNOじゃなーい。UNOじゃなーい。はい、UNOって言ってなーいから2枚追加!え?またダダ漏れてる?やばいもうはずかちいはずかちいああっ、やめてとめてとめトメィトゥ。僕の頭脳をメルカトル図法にしてくだちい。海馬は処女航海に発ち、側坐核は即座にビビッド、ユカタン半島は海綿体のようで、頭脳がね、頭脳が、ずの、はちきれそうだー、とびだしそうだー、生きているーのがー、す、ば、ら、し、す、ぎ、るぅっ。
あっ、着いた。やっと着きました地下一階。思えば遠く来たものだ。つかトメィトゥから汁垂れちゃってますけどね。ほほほ。ぽりぽり。ということで、腹が減っては戦はできぬ!いうことで、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる!ということで、腹拵えということで、立派なお腹を拵えるために、ここ、食料品売り場に来てみましたー。はい。
世界中から集められた海千山千の食物達が売り場に犇めき合って蠢き合って轟き合って姦しいですね。ほほほ。ぽりぽり。
僕ね、人の心が読めるんです。あっ、今「嘘つけ」って思ったでせう?あっ、今「なんだこいつ」って思ったでせう?あっ、今「突然気持ち悪っ」って思ったでせう?そして今さっき「しきりにチョッコレイト食べてるじゃん」って思ったでせう?
ちっちっちっ、人差し指を振り子のように振りながら。チョッコレイトは曼陀羅ナイズドの依り代なのです。テオブロミン万歳。あっ、テオブロミンというのはアルカロイドの一種ですどうせ知らないだろうから教えます。密教系のお寺の裏庭にはチョウセンアサガオが沢山咲いていたっていうのは有名な話ですね。通称:曼荼羅華。チョウセンアサガオにアトロピンが含まれているというのは余りに有名ですが密教は曼陀羅ナイズドにアトロピン・イン・チョウセンアサガオだったわけですけれど、僕はテオブロミン・イン・チョッコレイトってわけなんです。おかげさまで、顔にはほうら。沢山の火山。あっ、ちなみにチョウセンアサガオもナス科。曼荼羅華とマンドレイクの類似性についても話しておきたいところですが、その前に、ぬるま湯の“ま”ってなんなんだろうね。
エニウェイ、売り場には、ほうら。マグロ、絹ごし豆腐、豚の腸詰め、ヨーグルト、米、ビール、レトルトカレー、ほうじ茶、側頭葉、シリアル、味の素、牛フィレ肉、カップ焼きそば、たべっこどうぶつ、たこ、チョッコレイト、木綿豆腐、食パン、皆さん一級品。みんな違ってみんないい。みんな素敵。ぜいたくは素敵だ!僕精神総動員、パーマネントでいきましょう。ほほほ。ぽりぽり。それに食物連鎖の頂点、って感じが実感できて万能感ミナギリン。展開された頭脳の減量バルブが解放されてクンダリニー倍増。ド・ジッター宇宙の膨張エンジンのうなりが頭蓋骨でうねるますー。
でも唯一悪いのはこの山ね、トメィトゥの。
なんでトメィトゥが山積みになって憚らないのでせう。危機管理がなってないでせうこれはあまりにも。モラルハザードですよモラルハザード。トメィトゥ・ハラスメントですよ。だって1トメィトゥにつき、1東京ドーム、180テニスコートでせう?この山は何トメィトゥだっていう話ですよ。地球全体がもはやトメィトゥになりますよっていう話ですよ。地球は赤かったってなりますよって話ですよ。非常口のマークは僕の肖像権を著しく侵害していますよって話ですよ。責任者呼びに行かせる店員を呼びに行くからちょっと待っててね、トメィトゥ達。ほほほ。ぽりぽり。心は穏やか。ほうら、スキップなんかしちゃってますしね僕。衝撃を与えると東京ドーム1つ分、テニスコート180つ分なのにもかかわらずスキップ!店員さん、店員さん、どこにいるのよ店員さん。ひとつ飛ばして店員さん。あっ、発見!小走りしてる小太りの小男!素早さは圧倒的に僕の方が上ですので、すぐさま追いついてお肩をトントントン。
「あっ、あのちょっとすいません」
「はい?」
この「い」の語尾上げる、人をおちょくるやうなお返事ですよ。僕は極めて遺憾に思ったので彼にこう言ってやりました。
「あっ、あの、トメィトゥ達がテニスコート180つ」
「はい?」
「いや、あの、トメィトゥ達が山積みになってまして」
「それがどうかしましたか」
貴方、やっぱり危機管理能力なさすぎ。一瞬の判断取りが命ミスですよ。じゃなくて、一瞬の判断ミスが命取りですよ。今、僕は貴方にとってのハザードですよ。そして、紛れもないトメィトゥですよ。ナス科の。
「あの、じゃあ」
「はい?」
「爆発保険には加入されてますか?」
「なんだこいつ」
おい、作業を再開するでない!そして賞味期限の近い商品を奥に詰めるな!上下サカサマで陳列するな!「いらっしゃいませ」を「しゃせーい」っていうな!
「あっ、あの」
返答なし。
「あの、すいません」
見向きもせず。
「あの、あの」
無視ですかそうですか。はい、もうはちきれましたー。飛び出しましたー。
我、一塊のトメィトゥ也。AB型のてんびん座。 頭脳がハザードマップを描く今、共に赤い爆裂の鉄槌を振り下ろそうぞ山積みにされた同志達よ!ほほほ。ぽりぽり。
町田の三段跳び王者たるわたくしトメィトゥ(29)は、精肉売り場から最終コーナーを曲がって野菜売り場に一気に加速してゆきます。蹴り出すたびに脚がポンプのようにアドレナリンを噴出します。海千山千の食物達が次々と視界の外にふっ飛んでいきます。迷えるカートの群れも次々と四方八方にふっ飛んでいきます。ほほほ。ぽりぽり。スポーツは健全な精神を養い、有害図書は闇の中の足下を照らす灯りとなり、魚は僕らを待っており、
散るをいとふ世にも人にもさきがけて散るこそ花と吹くトメィトゥ
トメィトゥ聞こえるか?僕の、新しい歌だ。
握り締めた激烈の感触が四方八方に閃光を放ち、側坐核が唸りを上げながらフルスロットルの先へ針を振り切り、走馬灯の輪廻の速度をも超越し、新記録への驀進、
そして、最高速度に達して、今、曼陀羅の向こうへ、
ワン、
トゥー、
スリー!