殲滅、直ちに一掃せよ(井沢)

「うちはリサイクル屋だけど、箒とちりとりがあると思った?」
なんだこのヒョロヒョロは。そう言われればそうか、みたいな顔をしている。
「あー」
目線を空に滑らせる。
「中古では誰も買いませんもんね」
「中古を誰も売らないんだよ」
「あー」
今度はなるほど、みたいな顔だ。
「待ってなさい」
奥に行く私を微動だにせず見ている。
昨日この商店街に引っ越してきたと言うその若者は、通り沿いの店を端から順に覗いてうちに来た。
「ゴキブリを駆除する煙を焚いたんです。それで部屋に戻りましたら、まあすごい数倒れていまして。その状態で寝れないので一晩外で凌ぎました。あれって倒したところで処理するのは自分なんですよね。」
思わず顔を顰めるところだったが、僅かに眉が上がっただけに見えただろう。あそこは元トンカツ屋だから、空き家になって一年以上経っているとはいえ、その二階となると、まあ、いなくはないだろう。いや、すごくいるだろう。
「これ持っていきなさい」
「あるんですね」
「うちのだよ」
「え!いやそれは」
「要るんでしょう」
「あ、お金」
「持ってきなさい」
両手で箒とちりとりを受け取り、一瞬何を言うか迷ったようだが
「ありがとうございます」
と言って玄関先でお辞儀をして去っていった。
早く処理して寝なさい。

30秒ほどして箒とちりとりを握りしめたまま若者は戻ってきた。
「バイトの募集してませんか?」
「してないね」
「そうですか。失礼しました」
すぐ帰った。早く箒で掃け。お前が掃かないと頭の中で倒れてる軍隊が消えないだろう。

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