樋口一葉『にごりえ』 第四章 現代語訳
第四章の主な登場人物
・お初: 源七の女房。28歳、29歳。
・源七: お初・太吉という妻子がありながら、お力という情婦が忘れられない。
・太吉(たきち): 源七とお初の子。「坊主」や「小僧」と呼ばれる。太吉郎とも。
第四章は、源七・お初・太吉の3人家族の話です。
第四章
同じ新開の町外れに、狭い路地があり、八百屋と床屋が並んでいます。雨が降る日は傘もさせないほど窮屈で、足元には落し穴がある溝板が所々にあります。両側に立つ長屋は、突き当りのゴミ置き場には、非常に狭い家の玄関があった。雨戸はいつも不用心な様子。もう一方には草ボウボウの空き地があり、青紫蘇、えぞ菊、インゲン豆の蔓(つる)が竹の荒垣に絡んでいた。
この家は源七の家であった。彼の妻は「お初」と呼ばれ、28歳か29歳くらいだった。貧しくやつれてたので7歳も老けて見えて、彼女の歯はまだらで、眉毛はほとんど見えず、洗濯した鳴海の浴衣を前後に切りかえて、目立たないように小さな針でツギハギして、狭い帯をキリリと結んでいた。蝉表(せみおもて)という履物の内職に励んでいます。盆から暑い時期にかけて、これがチャンスだと思い、大汗をかきながら仕事をし、揃えた蝉表を天井から吊るして、売れ行きを楽しみにしている様子は、何とも言えず哀れです。
「もう日が暮れたのに太吉はなぜ帰ってこない? 源さんもまたどこを歩いて居るのかしら」
と思いながら仕事を片付けて一服吸い、疲れた様子で目をパチつかせていました。さらに土瓶から水を汲み、蚊取り線香を火鉢に入れて椽に持っていきます。杉の葉を上にかぶせて吹き立てると、煙が立ち上り軒下に逃げる蚊の音が怖ろしいほど大きくなります。
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樋口一葉『にごりえ』現代語訳
樋口一葉『にごりえ』現代語訳したものです。 現代語訳: 西東 嶺(さいとう みね)
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