移住ってのはさ、不可逆なのか?(5月16日〜5月22日)
5月16日(月)晴れ
休日に全く休まなかった体を引きずりながら会社へと向かう。今日は大事なミーティングがあるため、無理矢理にでも気持ちを作る。
今、ブランドは岐路に立たされているなぁとひしひしと感じる。「この人が言うなら」と思えるリーダーの下で働けることは幸せだけど、「この人が言ったから」を動機にはしたくない。今まで築いてきたブランドの価値を失わないまま、より素敵に生まれ変われるのだろうか。もう少し一人ひとりに考える時間が必要だなと思う。
夜は、車で恋人を送り届けてくれた親切なマルコメボーイが家に立ち寄ってくれた。ジンジャーソーダを飲みながら、睡眠の大事さについて分かり合う。
一日の終わりに恋人とゆっくり話せる時間があると、こんなにも一日の後味がいい。スピッツの「幸せは途切れながらも続くのです」という歌詞がずっと脳裏で流れている。
5月17日(火)晴れ
「大切ならば、大切にしよう」と思い、自分よりも相手が望むことを優先してみる。自分のエゴを打ち負かして、相手の幸せを大切にできたときの方がよっぽど幸せを感じられるのだ。
・・・とひとつ成長した気になったのも束の間、彼とコミュニケーションのすれ違いがあり、すぐに心が波立つ。私は瞬発的に怒りの感情を出すことがとても苦手だけど、深夜に彼からかかってきた電話で、かつてないほど冷たい対応をした。おかしな話だけど、そんなスピード塩対応ができてしまったことに、私はほんの少し喜びを覚えた。好きな人を相手に、言いたいことを飲み込まなかったのは進歩だ・・・!
とはいえ、顔の見えない相手にあれこれ伝えるのはナンセンス。言いたいことはたくさんあったけど、「もういい」と伝えて寝た。
5月18日(水)晴れ
昨夜の怒りも、一晩寝たら忘れていた。この頃、「寝たら忘れる」くらいがちょうどいいのかも、と思う。お互いが心地よく一緒に居続けるために、小さなことでも伝え合うことを大切にしてきたし、今だって変わりはないけど、するとしばし相手を「変えられる」と思ってしまう。話して、自分が変わろうと思えるのはいいけど、相手を変えようとする気持ちが働くと、自分が苦しい。
好きな人と一緒に生きられるだけですでにハッピー極まりないのだから、細かなことは許し合いながら、なるべく笑える時間を増やしたい。
夜は、私たちにとって弟のような友達がご飯を食べに来てくれた。彼はとても温かく味のある写真を撮る人で、初めて我が家で写真を撮ってもらった。キメることもなく、一緒にご飯を食べる夜をそのまんま。私はやっぱりそのまんまの写真が大好きだ。だってそのまんまで、たったそこにしかない最高の瞬間なのだから。この先も、弟のような彼に写真を撮ってもらえたらうれしいな。
恋人の予想通り、途中で彼の上司も加わって、特別においしいワインを持ってきてくれた。笑いすぎて、ご近所さんからクレームが入らないか心配になる。やっぱり、大好きな人たちがお家に遊びに来てくれるって、最高にうれしい!!
5月19日(木)雨
今日は一週間ぶりに二人で過ごす、ゆったりとした夜。半年貯めたレシートの処理をしていた彼は少し疲れた様子である。私もお金の管理は苦手な方だけど、励まし合った。大丈夫と思えば、大丈夫なのだ・・・!!
大好きな映画の10本の指に入る『はじまりのうた』を一緒に観た。私は、「自立していて、何にも縛れない自由な女性の話」が好きだったんだなと過去の嗜好に気付く(笑)この頃は、ごくごく身近な輝きを守れる人の物語を積極的に観ている。
『はじまりのうた』はもう数え切れないほど観ているけど、何度観てもいい。恋人でもなく友達でもない、関係性に名前の付かない、思わぬ人物に人生をガラリと変えられたりする。ジョン・カーニーは、立ち上がり前を向く人間の強さ、美しさを描くのが本当に上手だなと毎回感動してしまう。
恋人とは、大好きなものを分かち合えるからいい。「めっちゃええやん」「うますぎ」そんな喜びが、冗談でなく2倍になる。映画を観た後、ずっとアダム・レビーンの曲を口ずさむ彼が愛おしかった。
5月20日(金)曇り
今日は明日からの東京に備えて大人しく過ごした夜だった。恋人が突然早く帰ってきてくれて(23時半だけど笑)うれしい。サプライズってだいすき!
5月21日(土)晴れ
ちょうど3ヶ月ぶりの東京。久しぶりの山手線と中央線にどっと疲れる。大学時代、常磐線直通千代田線から中央線へと乗り継いで2時間ほどかけて大学に通っていた。どんどん高くなるビルを眺めながら、東京への憧れを募らせた。何が私を幸せにするのかも知らないままに。
私が岡山に住み続ける理由は、「岡山が大好きな恋人と出会ったから」だと思っていたけど、違った。恋人の存在だけでなく、今ともに働き、酒を飲み交わす人の存在が自分の中でとてつもなく大きくなっている。整えられすぎていない自然があり、ほどよく人間が住む、今の街は私にとってとても住みよい。「住めば都」になり、離れ難くなる。
私は変わる、容易に変わる。昔ときめいた景色に心躍らず、息苦しさを感じる。もう、東京を棲家にしていた頃の私には戻れない。カルテットの「不可逆なんだよ」という台詞がこだまする。こんなにも簡単に自分が変わってしまうなんて、自分がないなぁと思う(本当にそうなのか?さて、どうなのか)。
JRで向かうは、先日旅立った恩師のご自宅。やっと挨拶をすることができた。先輩の大のお気に入りだったであろう広いベランダ。大事なボタニカルちゃんたちを育てるためのベランダ。そこから見える空は、東京の一角とは思えないほどに広い。遠くに新宿のビル群が望む、淡い景色があまりにも美しくて切なくて、心震える景色とはこういうものかと思った。
先輩は、好きな街で、好きな人と、好きな家に住んでいたのかな。そう信じたいし、きっとそうだったはず。一緒に訪問した女の先輩(ほぼ女友達)と帰り道に恋愛話をしながら、「やっぱりこういう話はあの人に聞いてもらいたいよね」と恋しさを分け合った。
夜も懐かしの築地で、絵に描いたような港区レディである先輩としゃべり倒し、いい夜だった。今を愉しみ、豊かであることに自覚的な人が好きだ。
東京に帰ってくるたび、過去と今の価値観を行き来して、自分にとっての幸せの輪郭がくっきりするなぁ。
5月22日(日)雨のち快晴
今日は大学時代の友達の結婚式。惚気話をするのも聞くのも好きな私は、結婚式が大好物だ(好物?)。趣味に「結婚式に行くこと」を加えたいほどである。間違いなく人生の大切な1ページになるであろう特別な日を一緒にお祝いさせてもらえるって、うれしすぎる。八芳園の新緑がとても美しかったので、携帯のメモに「結婚式をやるなら5月」と書き留めた。
久しぶりの友達と会うと、年齢的にも「今の彼と結婚とか考えてるの?」とめちゃめちゃ聞かれる。すると「結婚という形かはわからないけど」と前置きを置きながら、「彼と一緒にいると、コンビニのおにぎりも超おいしいからずっと一緒にいたいとは思ってる」と答えていた。そう答える自分のことが、好きだなと感じた。「ずっと一緒にいたい」その純粋な気持ちに支えられて、ずっと一緒にいたいのだ。
結婚式で幸せオーラを全身に浴びた後は、ホクホクした状態で高円寺へと向かった。図らずも、憧れの人たちとサク飲み(「図らずも」と言いながら、会いたかったからすかさず連絡をしたアクションの勝ちである)。東京で物書きを生業にする人たちは会話も雰囲気もイカしていて、「岡山から来ました」と結婚式のドレスを着て参加する私は、少し浮いている気がした(きっと「気がした」ではない)。私は「東京から逃げた自分」にまだまだまだコンプレックスがあるのだろう。今度会ったら、もっと堂々と話せる自分でいたいねぇ。
それでも念願の小杉湯でミルク風呂に浸かり、彼の会社が岡山と東京の架け橋になっていて、さらに唐琴の海と素敵なエッセイが飾ってあり、心までぽかぽかになる。こうやっていろんな街の温度を感じながら、「どこも違っていいね」を繰り返していきたいな。