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東京和菓子ラブストーリー

…懐かしいなぁ。
昭和の人だから、このタイトルが一番に浮かんだんだな。

80〜90年代にトレンディドラマという文化があった。
日本経済がどんどん成長してゆきバブルに至る頃、だいたい月曜日21時あたりに放映されていたドラマである。
毎週決まった時間にテレビを観る行為が苦手だった私は、実際にどのドラマも観たことがなく、切り取られた名場面しか知らない。
タイトルに使っておきながら、なんだけど。

広くてお洒落な一人暮らしの部屋に住み、流行りのブランドのファッションに身を包む登場人物たちの姿を遠目に見て、社会人になった私が、ドラマの風景のような豊かな社会の中で暮らしている姿を想像することは、それほど難しくはなかった。
というよりも、疑っていなかった。

バブル崩壊後の東京に上京したのは90年代半ば。
振り返れば今より少し社会に余裕があったように思う。

ネットが十分生活に溶け込んでおらず、情報を得る手段は、まだ雑誌やテレビが主であった。
私は書店や美容院にある情報誌から、美味しものが食べられそうなお店の情報を入手しては、いそいそ出かけて行き、東京の街と社会人生活を満喫していた。

ある日、東京の老舗和菓子屋を特集した雑誌を見つけた。
表紙には白い花弁に赤い花芯の練り切りが、ひとつだけ載っていた。
すっきりと美しい佇まいは、小さなひとつでも広い余白が必要なほどの存在感だった。

なぜ20年以上前の雑誌の表紙を細かく説明できるのか。それは、雑誌で紹介された店を順番に訪れたのち、店の写真を切り抜いて貼った横に感想を書いたスクラップブックが、今も手元にあるからだ。
紙版食べ歩きブログである。

そのスクラップブックの一番最初に記録した店が、上の写真の豆大福で有名な、虎ノ門にある岡埜栄泉だ。

この豆大福は、私の食の嗜好を一瞬で変化させた。
それまで殆ど口にできなかった甘いお菓子への抵抗を無くしただけでなく、スクラップブックを作るほどの和菓子への探求心を芽生えさせたのだ。
ひと口食べた瞬間、真っ逆さまに恋に堕ちた。

岡埜栄泉の豆大福の美味しさは、バランスの美である。

食べたことがある方はご存知かと思うが、えも言われぬ柔らかさの餅に、しっかり形がありながらもふんわりした食感で、ほのかな塩味の赤えんどう豆。中の餡は甘みと小豆の風味が、どちらも主張しない程よさで、餅、赤えんどうまめ、餡の3つが、見事なバランスを成している。
美しい調和の豆大福である。

ただただ感服。

そんなに美しい調和の豆大福を作る、敬愛してやまないお店からヒントを得て、譚埜音泉としたのだ。
という、名前の由来の譚。

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