三者三様 西陣織屋建を訪れて
2022年11月26日土曜日「三者三様 西陣織屋建を訪れて」を開催しました。古材文化の会企画部会主催で今回は14名の方にご参加いただきました。織機を置いている町家は一度に大勢入ることができないので2班に分かれて訪ねて、その後専用住宅として改修された町家を訪ねました。
織屋建町家とは
「織屋建(おりやだて)」とは京町家形式のひとつで、オモテから見ると他の町家と同じく、出格子や平格子の意匠で他の町家と同じように見えますが、中へ入りトオリニワを抜けるとその奥には広い土間と天井板が張られていない、大梁などの木組みがダイナミックに見られる大空間が広がっています。
オモテの2階の高さは低めで大屋根がかかり、奥では土間からその大屋根の屋根裏までがひとつの大空間になっています。
背の高い大きな織機を置くために大空間が必要とされていたのです。織りに関わる職人が住まいを工場として使う職住一体の町家が西陣には数多く建ち、西陣織で知られる西陣ならではの町家の形式です。
また、織物製造は織工場だけでなくさまざまな工程があります。大きな釜が必要な、糸練り工場や糸染め工場も大空間を確保するために同じような形式となっています。出格子の奥にそんな大空間が広がるとは驚きです。
木組みの美しさ、吹き抜けの広々とした空間は、織工場として使われなくなってからも、快適な住まいとして改修される事例も増えています。
今回訪ねる町家も改修履歴や建物の使われ方、受け継がれ方は三者三様です。それぞれの所有者の方に織物産業のお話や織機、手機の実演、住まい方、思うことなどお話をうかがいました。
服部綴織工房
受け継いだ家を若手職人育成のための作業場と活用している服部綴工房。
職場兼住まいとして紋掘職人が3代にわたって住まい、数年前から空き家、その後倉庫として使っていましたが、現所有者さんが家業(爪掻本綴織工房)へ入るのを機に町家の活用を考え始めました。
経年劣化や台風被害等で傷んでいた外観を数年前に改修。出格子や平格子、軒先一文字の通り庇など建物の痕跡を探しながら復元しています。
京都市の歴史的風致形成建造物に指定されました。
織物業ーIK家
所有者さんはこの家で生まれ育ち、家業である織物業を継ぎ西陣織とともに生きてこられました。
明治35年に建てられた織屋工場兼お住まい。多い時は職人さん6人が奥の大空間で作業をしていたそうで、家族の住まいは道側の部屋やダイドコ、2階です。
おもしろいことに織屋建町家では、道側の部屋を「オクノマ」と呼んでいたとのこと。(他の町家、商売をしている町家では「ミセノマ」「オモテノマ」と呼びます。)織職人にとっては作業場こそが「オモテ」だからだそうです。
この「オクノマ」が他の町家と違う点は、天井高さが他室よりも高いという点も挙げられます。(すべての織屋建町家で共通しているわけではありません。お住まいなので写真はありません。)
「オモテ」である作業場では糸繰り機や織機の稼動の様子も見せていただきました。
快適な改修ーAK家
江戸時代後期に建てられた元織屋工場。京都へ移住してきた現在の所有者さん家族が出会ったのは数年前のことです。歴史的な価値を大切にしながら現代の暮らしに合わせ快適な住まいへと改修されました。
京都を彩る建物や庭園で認定されています。
所有者さんが設計者&研究者でもあることから、この町家を丹念に調査したのちに復元改修しながらも、現代の暮らしに合わせたよりよい設備を取り入れて、このうえなく快適な住まいが仕上がっていると感じます。
ファサードだけでも設計者のこだわりは尽きることなく、見過ごしてしまいそうな細部の意匠が考え抜かれていて、今回ご参加いただけなかった方にもぜひ見てほしいなと思っています。
(たとえば、腰板の向こうに隠れているものは、、、何だと思いますか?)
玄関入ったところにある土壁は、塗り仕上げの様子が順番にわかるようにわざと左官仕上げを途中までの段階で止めて見学者へ説明できる仕様にしています。
昔、織機の置かれていたであろう大空間はリビングへと変わりました。耐震壁を入れながら、天窓や大きな窓の工夫でとても明るく、床暖房も入り居心地のよい部屋です。大きな吹き抜け空間の解放感。
新しく生まれ変わり、新たな家族へと受け継がれた町家の改修事例。家もとても喜んでいるのではないでしょうか。
ご参加のみなさまは、お座敷が並ぶ一般的な町家とは違う「織屋建」町家に初めて入る方々がほとんどで、3軒訪れることでそれぞれの建物の違いも比べることができる興味深い見学会となりました。
所有者のみなさま、貴重な機会を設けていただきありがとうございました。ご参加のみなさまもありがとうございました。
主催・認定NPO法人古材文化の会(企画部会)
この催事は(一社)京都府建築士会・まちづくり地域貢献活動の補助を受けています。
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