憎まれ役
品川区民であったころのこと。
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待合室でおばあさん達の四方山話を聞く。
「○○銀座もさびれちったねえ。不景気なんだねー。風呂屋までつぶれちまったよー」と赤い目をしたおばあさんが言う。
「どこもそうよ。みんなヨカドーみたいなおっきなスーパー行くもんね。風呂だってみんな自分ちにあるんでしょ」と真ん中の眼鏡のおばあさん。
もうひとりのおばあさんは補聴器を外しているのでちょっと聞こえが悪いらしくウンウンと頷いてばかりいる。
「ほんと風呂屋も大変だよ。4時ごろ行くとガラガラでさー、こないだなんてあっちひとりだったからさー、わるいけど、気持ちよかったよー」赤目さんが難聴さんに聞こえるような大きな声で言う。
「それはいいことダア、歌でもうたったノ?」難聴さんは訛りがきつくてちょっと語尾が不明瞭だ
「ああ、そうだ、歌えばよかったよー。でもさあ、今の若いひとはほんともったいないってことしらないねー。それに片付けるってことができないねー。洗面器なんてほっぽりぱなしでさー」
「ホントに不心得もんが多いのよ。親が教えないからいけないんだよ。体洗いもしないで上がり湯ばっかりジャージャーかかけっぱなしでさ。誰かが止めなきゃずっとやってんだから。あれじゃあ風呂屋もたまんないよ」
「つぶれるわけだねー」
「若いもんだけじゃないよ。こないんだなんてさ、ばあさんがさ、湯船に杖ついて入って来たんだよ」眼鏡のおばあさんが憤懣やるかたない口調で言う。
「へー杖ーナノ?」難聴さんが驚いた。
「そうよ、平気で入ってくるのよ。だからわたし言ってやったのよ、そんなもん入れられたら迷惑だって。誰も言わないからいいと思ってるのよ。わたしが憎まれ役買ってやったのよ」
「えらいよー、そういうひとはきっぱりゆってやんないよわかんないんだよー」
「でもそしたらそのばあさんたら、今度は小さい方の湯船に杖ついてはいんのよ。わたしまた言ってやったのよ。こっちだっておんなじだよ、って。よく考えなさいよって。ほんと年寄りにはこまったもんよ」
「ほんとだねー」「ウンウン」聞いていた二人が大きく頷いた。
続きが、聞きたかったが、そこであたしの順番が来た。
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