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コンビニ横の坂を行くと、前を男性が歩いていた。ずんぐりとした背広姿。 薄くなった頭。 シルエットになったスボンの裾が妙に短い。
その足が一瞬、横にぶれる。 ああ、千鳥足だなと気付く。左手にビールのロング缶がある。 あれはアサヒスーパードライだ。 その銀色が街灯の光を反射する。
立ち止まって、そいつをくくくくと飲み干し ふぃーと息をつく。 そしてまた歩きだす。
その足取りは真っ直ぐいかない。 韜晦するようにうねる。 短い距離をどれだけ時間をかけて歩けるか、 そんなトライアルをしているかのように 体の重心をぐらつかせながら坂を上っていく。
休日の夜の帰り道 、背広を着た初老の男が 家に帰りたくない理由はなんだろう。
ああ、同窓会かもしれない、と思いつく。 聴きたくもない自慢話を聞かされて、今のわが身を振り返らされたのか。
昔は横一線に並んでいたものが、ゴール近くなると こんなにちがう位置に立つことになるのかと、また思い知らされる。そことこことは違うのだと。
この路を真っ直ぐ行けば、もう巻き戻せない時間が流れる日常だ。 ああ、帰るさ、そこに帰るさ。それでも、足は真っ直ぐには動かない。
ぶれる足取りはこうではなかったかもしれない自分、こうではなかったかもしれない暮らしへ
向っている……のかもしれない。
《以前書いたものに加筆》
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