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ふじむらさんを覚えている。
大学時代のクラスメートふじむらさんは、6・3・3・4年の学生時代にあたしが出会ったおんなのひとのなかで一番の美形だ。
もうもうダントツ、とびっきりのべっぴんさん。
大きな目で彫が深く、ちょっと日本人離れしたビーナス系の顔、長身で足が長く、スタイルもよかった。おんなのひとなのに、なんかどきどきするくらいだった。
しかし、友人になるには、ものすごくとっつきにくいひとだった。
決してお高くすましているわけではなかったが、どうも曰く言いがたい壁があって、親しく話した記憶がない。
愛想がないと言ってしまうとみもふたもないが、媚びることのないひとだった。容姿は目立つが行動は目立たず、いつも受身で、飄々と、なんとなく風に吹かれているようなひと。
ものすごくきれいなのに、ものすごくゆるく生きているような、ものすごくきれいなのに、かぞえきれないくらいため息ついているような、それはなんかもったいない感じだった。
倦怠とかアンニュイなんて言葉を、今なら冠するだろうな。
ただひとつ鮮明に記憶に残るシーンがある。
つまらない英語系の講義の時間のこと、あたしの前に座ったふじむらさんは、自分のストッキングに伝線を見つけた。
当時ミニスカートが流行っていて、伝線はむき出しの太ももの部分だった。
ふじむらさんは、あまりに退屈で手持ち無沙汰だったらしく、なにげなくその伝線部分を横に引っ張った。すると伝線はピピピと横にも縦にも勢いよく広がった。
ふじむらさんは一瞬その勢いに驚いた。
そして、それを眺めつつ講義を受けていたのだが
やっぱり講義はつまらないので、また伝線を引っ張った。
今度は引っ張り続けた。
伝線はじょじょに太もも全体に広がり、やがて縦の糸がなくなって横糸ばかりが残る。
ふじむらさんはそのさまが気に入ったらしく、しばらく見入り、それからおもむろに、膝から下までも伝線を広げた。
ピピピピピ、伝線が伝染していく。その手が止まらない。
講義の間中、ひそやかに、しかし内心嬉々として、伝線遊びをしていたふじむらさんは、講義が終わった後、トイレに直行した。
さすがにその極太伝線の足元は、誰が見ても、なんともかっこ悪かったのだけれど、そのときのふじむらさんの苦笑したような顔はいつになく人間臭かった。
たぶんそれはいっしょの学校に通った4年間のなかで、ふじむらさんを一番近くに感じた時だったような気がする。
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