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家なきひと
山手線に家なきひとがいた。
彼は硬いフランスパンの切れ端を齧っていた。
長く伸びた爪が嫌でも目に入る。
青みがかった墓石のような色をしたその爪は
指先から3センチは伸び、先に行くにしたがって羊の角のように丸くまがっていた。
その爪の時間を思った。
一日わずかずつしか伸びない爪が
そこまで伸びるまでの時間
そのひとは社会からはぐれているのだろう。
はぐれた一日一日が積み重なって
誰とも握手の出来ない手になっていく。
誰とも向かい合わなくなっていく。
どこにもたどりつかないそのひとは
ぐるぐる回る山手線で
フランスパンを齧っている。
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