子どもが豊かに育つ、椎葉の山風景
編集中のまま忘れていたこの投稿、開けるとすでに書き上げてあった!(なんで公開していなかったのか??)改めて読み返すと、山で育つ子どもたちへのラブレターみたい、と感じます。
福岡のおもちゃコンサルタントのお仲間と話していて、やっぱり子どもに育つのに必要な「間」(良く言われるのは、時間・空間・仲間)が今の子どもたちにないよねーと。都市部が悪いわけではないけれど、どうしても子どもの育ちが脆い部分があります。そして今後は田舎であっても失われていく「間」も多いと思います。意図的・組織的に「間」を意識した子どもの場づくりがどこにでも必要だなあと感じるこの頃です。
今さらこの記事を出すのは、やっぱり地域の方々や保育や教育に興味のある方々にも、山の文化ってすごいんですよーっと伝えたいからです(やっぱりラブレター)。
===ここから、2024年3月に書いていた投稿です===
今年初夏から始まった、子どもたちとの自然体験活動「チポリーノ」。
これまでに、約40回、延べ250人くらいの参加がありました。
夏には暑い中のお散歩やお出かけ、秋には木の実集めを中心に季節の恵みを堪能し、週末はワーケーションのご家族の受け入れもあり、賑やかに活動しています。
なぜ自然体験がいいのか、また椎葉で就学前の子どもたちを対象に活動することについて、実施して具体的にわかったことがたくさんあり、椎葉にお住まいの方も、自然体験に興味がある方にも、それから自分の住む地域のことを子どもに伝えたい方にも、共有できたら嬉しいです。
地域と四季を、身体で味わい、遊びつくす
主に、村内2か所で活動しています。その時の参加メンバーや人数、天候に合わせて、活動場所を選んでいます。
一か所は、椎葉の中心部で、交流拠点施設Katerieからも歩いて登れる裏山の遊び場「ひらっち」。
ひらっちは、まだ歩けない赤ちゃんから、お父さんお母さんまで楽しめる、森の中の「秘密基地」。身体を思い切り動かして遊べる「森のアスレチック」や、おにごっこやかくれんぼ。落ち葉のすべり台や、森の中での走りっこも大好きな遊びです。
クモや蟻など小さな生き物をじっくり見たり、落ち葉や木の実を使った遊びや、枝を積み重ねての手作りおうちごっこも楽しみました。
もう一か所は、美しい民家と棚田、周りの山々を見渡せる十根川集落。
歩くだけでたくさんの発見と感動があり、毎回2時間かけて集落の上までお散歩します。頂上に着く頃には、子どもたちのお宝袋がいっぱいに!
散歩道の途中にある神社では、手を清め鳥居をくぐるのも、お賽銭をあげて神様に挨拶するのも、毎回のルーティンです。
集落の上まで自分の足でたどり着くと、下にいる時にはてっぺんが見えなかった大杉がよく見えます。外でお昼ご飯を食べる時に見渡す景色も圧巻です。
この集落の景色は、子どもたちの感性を磨いてくれる風景だなあと思っていたところ、参加者からも「子どもたちが美しいという感覚を養える場所ですね。」という感想が!
自分も椎葉が好きで移住し、「自然も豊かで、文化や歴史が近い暮らし」という実感はありましたが、毎週子どもたちと遊んでいるうちに、改めて「子どもが遊べるお宝に満ちた、なんて素晴らしい環境なんだろう」という認識になりました。
「自ら育つ力」を伸ばし、遊び上手になる子どもたち
活動を始めた頃は、年長さんや1年生でも、リュックを背負って少しの坂道を歩く、という時に、「疲れたー」「リュック持ってー!」「抱っこ」と言って、不機嫌になったり、大人に「やらされてる」感もあった子どもたち。
回数を重ね、自然の変化や楽しい遊びを見つけるうちに、疲れより楽しさが勝ったのでしょうか。
「疲れた」と言わなくなり、荷物は自分で持つことが当たり前に。
今では自然への目が肥えてどんどん遊びを増やしていくので、散歩が長くなっていますが、毎回通る道でも、きれいなどんぐりを見つけてはしゃがんで拾い、枝や木の実に背伸びやジャンプをしてタッチし、斜面をよじ登って野いちごを採り、と疲れ知らずで、寄り道を十分すぎるほどに楽しみながら歩ききっています。
ゴールが目的ではなく、ゴールに至るまでの全ても、子どもの育ちにとっては大切で、こうした遊びの繰り返しの中で、身体の運動機能はもちろん、お互いを見て聞く力、相手への共感力や協力性、自分で遊びを考える発想力も育っています。
参加者は毎回異なる組み合わせで、年齢も性別も家族構成も住んでいる地域もバラバラの子どもたち。最初はぎこちなくても、一緒に歩いて見つけたものを共有するうちに、小さな子が大きな子の遊びを真似て挑戦してみたり、大きな子は小さな子を助けてあげたりと、大人がすべてリードしなくても子ども同士で遊べる関係性ができています。
室内でこれだけたくさんの利点(運動面や社会面での発達)を目的に活動を組もうとすると、かなり複雑ですし、どうしても大人の誘導やルールが増えてしまいます。
子どもたちが、楽しいことは大人が用意してくれるもの、という思い込みを外し、自分で見つける力を養い、遊び上手になっているのは、間違いなく椎葉の自然のおかげで、活動を提供する側にとっても自然の多様性に助けられています。
子どもの表情に気づき、自ら遊ぶようになる大人たち
チポリーノは、安全のために3歳以下は親子参加をお願いしています。最初は、参加に腰が重い大人も多かったと思います。
たとえば、お弁当を持っていくのが大変、小さな子と一緒に荷物も持って歩くのが大変、週末の貴重な時間を一日当てるのが大変、そんな声もありました。
椎葉で子育てする負担も知っているので、参加はその都度自由参加とし、様子を見ることにしました。
すると、自然の中で子どもが、目を輝かせて楽しむ表情、なんでもやってみようとする姿、友だちとやりとりする様子を、大人が1回2回と見るうちに、負担を乗り越え参加したいと思ってもらえるようになりました。
「集団の中で子どもを見る機会が少なく、ここで我が子の個性をたくさん発見できて面白い」「普段は怒ってばかりだけど、ここでは我が子の成長や新しい発見を楽しめる」「お出かけと比べても、子どもと一緒に過ごせた満足感が違う」という嬉しい感想もありました。
最初は、子どもと遊ぶ、自分が遊ぶというより、「子どもに(何かを)体験させたい」という気持ちが強かったのではないかと思います。
それでも、子どものペースで過ごすうちに、季節ごとの自然の美しさやその楽しみ方を知ったり、子どもたちの遊ぶ力に気づいたりして、大人自身も野外での遊びにはまってくれるようになりました。自ら面白いものを発見し、楽しさを共有してくれる大人を見て、子どもたちも楽しみ上手になり、笑い声が絶えない良い雰囲気の時間になってきています。
椎葉で、子どもたちが自然の中で遊ぶことの意味
活動の積み重ねで、子どもの育ちや子育ての面から、子どもと大人が得たもの・変化について触れましたが、もう一つ新しい発見がありました。
それは、椎葉の、子どもの育ちを支える自然や文化の素晴らしさを、村内外の親子と体感できたこと。
それは、「椎葉は自然が豊かである」「椎葉には伝統文化があって素晴らしい」という情報や概念、大人の「こうあってほしい」という希望を子どもたちに伝えて理解してもらうという意味ではありません。
身近な場所での遊びの中で、「発見」「感動」「共有」「挑戦」などのプロセスを集団で共有することで、子どもたちにとって、椎葉のあちこちが確実に楽しい思い出に紐づいた場となり、それを自分の体験・情景・感情・感覚としてリアルに思い起こせる状態を意味します。
これは、きっと椎葉育ちの人たちが、ふと、「椎葉がいいよね」と幼少期過ごした椎葉の景色や思い出を振り返るのに近い感覚ではないかと思います。
幼い頃の楽しい体験によって、自らのアイデンティティが椎葉で育ったことに結びつくほど、学齢期以降のふるさと学習の学びの土台となり、より具体的な気づきや好奇心に繋がる、そんなふうにも想像しています。
自然を思い切り楽しむ子どもたちを見ている保護者にとっても、椎葉のイメージが「自然はあるけど一人では連れていけないし、頑張って子育てする場所」から、「一見何もないのに、子どもたちが楽しみを見つけられる場所」「親子で自然や文化を楽しめる場所」へと変化しつつあるようです。
これからの時代の子どもたちに必要な環境が、椎葉にあった!
ワーケーションでご家族の皆さんは、「お子さんに自然体験をさせてあげたい」と考え、九州じゅうからはるばる椎葉まで来て、チポリーノ活動や椎葉滞在も前向きに参加してくださいました。
「特別なプログラムはないんです。ただ子どもたちの発見を共有する時間なんです」。
そんな説明に了承し、悪天候などいろんな場合に備えてたくさん準備をして来てくださった方々の、エネルギーや視点、活動を楽しむ姿に、受け入れ側の私たちも刺激を受けましたし、村内の親子にとっても新鮮な交流の時間となったようで好評でした。
多くの参加者さんから、椎葉のダイナミックな風景や、子連れのご家族を温かく迎えてくれる地元の人たちとの交流も含めて、椎葉やチポリーノについて「『第二の故郷』、『サードプレイス』として」「今後も来たい」そんな言葉をいただきました。
現代の暮らしでは、子どもが自然の中で遊ぶことが大事とわかっていても、自分の住んでいる場所で、そして家族単位ではやりきれない現実の厳しさがあります。それでも、一回体験した方は、きっとその楽しさや効果を感じ、ご自分のできる日常の範囲で、自然と子どもとの接点を増やしてくれるように思います。
そのきっかけとなる椎葉の「子どもが豊かに育つ場」としての強みや可能性を、地元の方や子育て中の方にももっと伝えたい、そんな思いでこれを書いています。
これからの時代の子どもたちに必要な育ちの環境ってなんだろう、それが椎葉にあるような気がする、、そんな思いでここ数年過ごしてきました。
チポリーノは小さな取り組みですが、椎葉の自然と文化と人々に助けられて、子どもたちが毎回楽しく遊びながらいろんな姿を見せてくれ、それを参加者と一緒に喜ぶことができていることが、嬉しいです。
そして、椎葉で過ごす子どもたちだけでなく、全ての子どもが、「今日もいっぱい遊んだ!!」、、やがて「子どもの時、あそこでたくさん遊んだよなあ」と温かい気持ちで振り返ってもらえる社会になることを願って、実践を積み重ねていきます。
写真提供:中川薫さん、上野諒さん、池田文
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