見出し画像

感じること、大人の在り方、自分自身をとことん見つめること。九州自然×子どもネットワーク第3回野外教育指導者養成講座に参加して


11月の週末に、久しぶりに阿蘇に行きました。第1回から行きたい!と思い続けて、やっと行けた学びの場です。野外教育指導者、と銘打っているけれど、野外教育に限らずすべての保育者や子どもに関わる大人にとって大切な話がたくさんありました。主催は、高森町で森のようちえんおてんとさんやいくつもの事業を運営している一般社団法人solです。

みっちり濃い2日間の始まり


「〇〇研修」というような、いわゆる知識を入れる研修とは少し異なり、「場」を大切にしているsolならではの世界観がありました。座学はもちろんですが、プレイバックシアターや懇親会、ワールドカフェなど、自分の気持ちに気づき、他の人の存在を感じる、様々な仕掛けにあふれていました。一度参加したら終わりという認定のための研修ではなく、「ともに学び続ける場」であったように思います。

書き出すと止まらないので、ここではメインの3人の先生方のお話から、私が印象に残ったこと、思ったことを紹介します。

1.「森側の話」上田融さんのお話


自然体験と称して、子どもや親が一方的に森を利用するのでなく、子どものための活動の前提として、環境破壊しない体制づくりを!というお話でした。上田さんのいぶり自然学校では、子どもが遊びとして体験することで森の整備に一役買う仕組みが作られているそうです。さらに非日常のイベント型としでなく、日常の暮らしをオープンにして実施しているということに、素晴らしいなと感じました。

「森のようちえん」活動の対象には、子どもだけでなく、保護者も含まれるそうです。野外で遊んだ経験がない人が子育てする現代、森のことや子どもたちの活動を十分に保護者と共有していくことの大切さも知りました。

森の成り立ちのお話では、「はじっこ」が面白いとのこと。パーマカルチャーも「エッジ効果」「エッジづくり」が多かったのを思い出しました。確かに、子どもたちがいろんなものを拾ってくるのも、はじっこです。
森の資源の価値が社会に理解され、森の整備にも繋がる、数々の小商いアイディアや、森の楽しみ方の展開にも、目からうろこでした!

2日目は、実際に森に入って、「棒人間」の存在を確かめた!


野外×子どもの活動を考える時、環境の負荷を減らすという点において、過去の再評価が大切で、日本の里山や少し前の世代の暮らしにヒントがあるのでは、というお話が出てきた時、すぐに思ったのは、椎葉村での暮らしが近そうということ。人が圧倒的に自然に近い場所で暮らし続けることで、日々の暮らしや文化に、森の循環利用が残っているからです。
ただこのままでは消えゆくものが多いので、子どもたちや自然体験を求める人に、上田さんのように「リアル」に開いていくことができれば、、ある程度大がかりな仕組みが必要そうだけれど、、なんて頭の中がいっぱいになっていました。

2.ずっと聞きたかった、中山千春さんのお話


千春さんのお話は「なぜこの講座をやっているのか、それはここにいる人に幸せになってほしい。そしてみんなが関わる子どもに幸せになってほしいから」という言葉で始まりました。

千春さんが「聞いて、持ち帰って、子どもに返してください」と、メモの取り方を説明している。


子どもに関わる大人に求められているのは、方法論や技術ではなく、「自身の在り方である」
という根底に立ち返り、参加者がそのことをよりリアルに自分事として感じられるように、たくさんの問いを立てながら話してくれました。

なぜ自然体験、野外教育が良いのか。巷にありふれた耳障りのよいワードではなく、作業療法士として保育者として、森のようちえんで子どもの「今」に触れ続けてきた千春さんの、聞いている人の頭の中に情景が思い起こされるようなお話から、印象に残っていることを並べてみます。

・自分が自然の一部であると感じる「溶解体験」を持てる子ども時代を。人は自らの身体と自然を体験し、自然観と人間観を養うことができる。
自然の良さは「突き抜ける(自分を超える)」体験をできること。時に子どもが混乱していても、大人は子どもの心に触れながら関わり続けること。大人の「こうさせたい」というエゴでなく、この子にどうなってほしいのか、この子がよくありたいと自身で願っていることを、頭に置いて関わること。子ども自身が決め、行動することでその子の感情も変わる体験を信じて関わる。
子どもも大人も「心と身体が一致しているか」と考える。「バラバラでもいいや」というくせをつけないように。
・気になる子ほど、森に連れて行ってほしい。多様性を求められる時代だからこそ、多様な森の中で、いろいろな物事に慣れておくことが大切。野外に連れて行くには大人の経験や技量もいる。
気になる子の理解のためには、定型発達もきちんと学ぶこと。幼少期の子どもたちには身体づくりと感覚づくりを。気になる子の気になるエネルギーの突出をとめさせるのではなく、エネルギーをまろやかに出せるように関わること。その子に伝わる声かけをし、その子自身が考えられる問いを立てること。脳の機能を理解すると、気になる行動を抑制するアプローチができてくる。

森のようちえん、親子の居場所づくり、わらべうたの子育て、自然体験イベント、療育など、様々な形でたくさんの子どもたちと深く関わってきた中山さんの言葉は、ずっしりと、鋭かったです。誰よりも子どもを理解しようとストイックに子どもと自分を見つめてこられたからこそ、子どもに関わる私たちにリアルな課題や要求、違和感もぱーんと突き付けるけれど、その言葉の意味を知りたい(子どもを知りたい、わかりたい)と願う私たちを信じて、自分で考え、感じられるような問いを投げかけ続けてくれました。

講座を受けていた部屋から。阿蘇の山々!


子どもの育ちには、目に見えるものと、目に見えにくいものがあります。


千春さんは、野外で子どもが自身でぐっと伸びる瞬間、一見目に見えないけれど確かに存在している、大人のその子への願い、その子自身のこうありたいという願い、その子を信じて働きかける大人の存在、その根底にある確かな子どもの発達の捉え方をたくさん共有してくれました。

保育や子育て支援の仕事で、目に見えない子どもの育ちの伝え方に悩み、あきらめかけていた私には、「支援者として子どもや親に関わる以上、自分がしていることを言語化して、(保護者や行政に)伝える必要がある」という千春さんの言葉が、心に刺さりました。

これは特別支援教育の中尾繁樹先生も繰り返しおっしゃっていて(中尾先生の場合は、「自分がやっていることの意図や効果をきちんと説明できるようでなければならない」と、少しニュアンスは異なるのですが)、わかってはいるけど自分が無力だなあと感じることも多かったのですが、千春さんの力のある言葉に、あきらめてはいけないー!と思い出したのでした。

3.オモシロい!薄井良文さんの自然体験での安全管理のお話


知識を自分の体験(感覚)を通して知ることの大切さを、クイズやリアルな設定を通して痛感しました。まるで劇場!さながらの面白い語り口なのに、なぜそうなのか明確な答え。いざ自分がやってみて「できない」「わからない」と困るところまでリアルな救助指導でした。そして、この場合はこう、その場合はこう、と全ての解が出てくるところに、数々の救命救助の現場をくぐってきた隊長の経験を感じました。特に印象に残っていることは、、

・事故を防ぐための対応は多くても、事故が起きてからどうするかの検証シナリオは少ないということ。
・周りも自分も守る救助であること。他人をリスペクトすること。
・救助にあたるプロたちは脳波をフェイズ3にあげて救助活動をしているとのこと。
*フェイズ3とは、脳波でいうとベータ波であり、精神活動が活発で、意識が明快・機敏な状態。通常の生活時やリラックス時のフェイズ2(アルファ波)より、注意力や目配りがきき、総合的判断ができるそうです。フェイズ0は睡眠や失神、フェイズ1はぼんやり、疲れている、フェイズ4は興奮や驚愕、パニック。

これらを使って、いろんな症状・怪我に対応する訓練を行いました。

素人にも子どもにもフェイズ3はあるのだろうと思います。普段、そういった状態を作れるのだろうか。火を扱ったり雨の中の活動時に、ちょっと緊張しながら活動する、あの感じかもしれないと思いながら聞きました。
野外活動は日々判断の繰り返しです。事故の場合のシュミレーションはもちろんですが、自然体験を「いいことばかり」「まるっきり安全」というサービスにするのではなく、「こういうことも起きるね」「危ないかもしれない」「どうだろうか」と感じる力、問う時間を探していきたいと思いました。


同窓会のような時間を経て、自分自身を取り戻す


年齢・性別も、住んでいるところも、職業も、家族も、異なる仲間が、子どものことを知りたい、と集まった今回の講座。はじめまして、でも、あまり緊張しない、そんな不思議で安心する空気がありました。

思いがけず、椎葉からも、延岡からも、美郷からも、そして長崎からも、久しぶり~!の仲間たちとの再会があり、一緒に学べることが本当に嬉しかったです。それぞれの場で皆さんが活躍し続けていることが、自分にとっても嬉しく励まされました(九州中の方との出会いや、若い世代の活躍を知れたことも)。
保育の話ができること、子どもの話ができること、それが自分の原動力にもなるなあと再実感。

長崎のおつるちゃんが撮ってくれた、美しい風景。

今、私は野外活動をしていないのですが、改めて小さな現場を持ちたいなという思いが出てきました。早速近くの山に入って、森を見たり、その中にいる自分を感じてみようと思います。「野外で算数」も再開したい!そんな思いを記して、今回の講座の感想を終わりにします。

今回の講座を主催している、一般社団法人solについて、気になった方はぜひHPを見てください!森のようちえんおてんとさんのページを貼っておきます。

私は、このページの「おてんとさんだより」の千春さんの文章が大好きです。

#九州自然子どもネットワーク
#野外教育指導者養成講座
#森と子どもを繋ぐ
#一般社団法人sol
#阿蘇青少年交流の家
#九州で学ぶ
#森のようちえん
#自然学校
#中山千春さん

いいなと思ったら応援しよう!