コント 「ホールへの試練」
「いらっしゃいませ!」
「ご機嫌よう」
「何名様ですか?」
「祖父母は100歳近くまで生きましたけど」
「いえ家系的に短命かどうかは聞いてなくて」
「ああそうなんですね!そういうコンセプトカフェに来ちゃったのかと思いました」
「だとしてもその質問で誰の何が満たされるのかよくわかんないですけどね」
「ですよね。で、何でしたっけ?」
「何名でお越しですか?」
「確かにお綺麗ですけど、コスプレまではしないですよー。やだなぁ」
「あ、檀れいの格好で来たかは聞いてないです」
「ああ、そうなんですね!そういうコンセプトカフェに来ちゃったのかと思いました」
「2回も同じミスしないでしょ。それにお客様Tシャツにジーパンですし」
「全然檀れいじゃないってか!」
「急に距離近いなぁ」
「で、何でしたっけ?」
「何名様ですか?」
「確かにミッチーもファンですけど、流石にコスプレまではしないですよー」
「だから檀れいの格好で来たかは聞いてなくて」
「ああそうなんですね!そういうコンセプトカフェに来ちゃったのかと思いました」
「お客様がそうおっしゃるんでしたら、私としてもロボットでないことを証明してもらわないといけないことになるんですが」
「構いませんよ!ほら、血!」
「怖いなぁ。あんま人に手首の内側見せない方がいいですよ」
「ほら、この薄いとこ血管見えるでしょ?緑の」
「あ、イエベなんですねお客様」
「金積んでブルベから転換しました」
「嘘つかないでください」
「フィリピンで」
「嘘に嘘を重ねないでください。もう一名様ですよね。入り口でずっと喋ってるのも他のお客様の迷惑になるのでお席ご案内しますね」
「そうですか。出来ればお店の中心に近いところがいいんですけど」
「珍し。窓際空いてますけどいいんですか?」
「店内の人流を見るのが好きなんです」
「初めてそんなこと言われました。小説とか書かれてるんですか?だから人間観察をしたい、みたいな」
「いえ、日々代謝産物の排出ばかりしていますね」
「同じぶんぴつ業でも全然違いましたね。文筆と分泌で。なんかすみません」
「お構いなく」
「爽やかな方だ。
では、こちらお席になりますね。お冷どうぞ」
「お冷ってありますけど、おあつってないですよね」
「そうですね」
「おぬるはもっとないですよね」
「そうですね」
「まぁおぬるはお冷を両手で包み続けてたら出来ますけどね」
「体温でね」
「この水、是非ともおぬるにしていただけますか?」
「さっきから淡々としてますけどなんなんですか?」
「お、その韻良いですね」
「どうでも良いんですよそんなの。メモも取らなくていいですから」
「おぬるは今回は見送るってことですか?」
「今回も何も」
「少し残念ですが、仲良くなったらまたお願いしますね」
「怖いなぁ。取り敢えずご注文伺ってもいいですか?」
「そうですねー。じゃあ、このフレンチトースト」
「こちらうちの看板メニューなんですよ」
「これをパン抜き、ご飯トッピングでお願いできますか?」
「それだとチャーハンになるんですけど大丈夫ですか?」
「いやご飯は別添えが良くて」
「それだと白米で作ったオムライスになりますが」
「それでいいです。お願いします」
「デザートはいかがですか?」
「じゃあこのフレンチトーストで」
「気持ち悪っ」
「だってこれおすすめなんですよね?」
「そうですけど。こっちのパフェとかじゃなくていいんですか?」
「パフェって最後の方になるにつれてお母さんの顔がフェードインしてくるからちょっと嫌なんですよね」
「ミルクボーイのネタをだいぶ引き摺ってらっしゃるんですね」
「いえ、母がケロッグの契約農家なんです」
「珍しいですね。北海道とかで?」
「東京です」
「あ、ケロッグって意外と都会のとうもろこし使ってるんですね」
「そうなんですよ。だからこの店のパフェ、ある意味地産地消ですよ」
「なんか良いことしてる気分ですね。では、ご注文お持ちしますので少々お待ちください」
「うぃ、任せとけい!」
「ご機嫌だなぁ」
「注文入りました。フレンチトーストのパン抜き、ご飯トッピング1つ、フレンチトースト1つです。はい。いえ、ご飯を卵に絡めるのではなく!そうですね、オムライスみたいな感じです!!はい?あ、あー。そっか。あー、はい。全然大丈夫じゃないですか?」
「お待たせ致しました。こちら、ご注文のお品になります」
「え、これ…」
「こちらは店長の好意で、通常カフェラテと付け合わせのサラダをご用意しているところを春雨スープとザーサイにしております」
「あの、私が頼んだのって白米仕立てのオムライスとフレンチトーストだと思うんですけど」
「申し訳ありません。うちの店長が中国出身でして、卵とご飯とフライパン見るとどうしても血が騒いでしまうみたいで」
「そんなことあります?」
「私もよくわからないんですけど、どう頑張ってもチャーハン作っちゃうんですって」
「だからさっきキッチンからあー!とか聞こえてきたんですね、あなたの」
「ええ、どうしても店長を止められなくて」
「そうなんですか。まぁそれは百歩譲っていいとしても、このフレンチトーストはなんなんですか?フレンチトーストって普通もっと食パン然としていますよね」
「こちらおそらくマーラーカオですね」
「それはどうしてなんですか?ノーマルフレンチトーストは普段ちゃんと作れてるんですよね?」
「ええむしろ一番人気のメニューです」
「これも中国の血が騒いだってことなんですかね?」
「おそらくチャーハンを作って調子ついたんでしょうね。今まで見たことない蒸し器を奥の方から出してきてました。そうなったらもう彼のことを止められなくて」
「ですよね。しょうがないと思います」
「大丈夫ですか?作り直しますか?」
「でも作り直ししたところで店長が腕を振るったらまたチャーハン定食とマーラーカオが来ますよね?」
「いえ、次は私も頭部を殴るなどして対抗したいと思っています」
「無駄ですよ。多分あっち中華包丁持ってますもん」
「でも…」
「大丈夫です。私も元々食にこだわりなかったのでこれ頂きますよ」
「本当ですか!ありがとうございます」
「いえ、お構いなく」
「本当に爽やかな方だ…」
「ご馳走様でした。本場とだけあって美味しかったです」
「良かったです。本日はすみませんでした」
「そうなんですか、今日のところは物件決めない感じなんですね」
「あ、ボンビーガールみたいなことじゃないですよ」
「やっぱり駅近でいくら安くても築年数がネックですよね」
「私上京したての女子大生じゃないんで。謝罪の言葉を述べただけです」
「謝罪なんてとんでもないです。では、ご機嫌よう」
「ご来店ありがとうございました!」
「ふぅ、大変だった。
というか、あの人食にこだわりないんかい!!あんなにトリッキーな注文するんだったらあるだろ普通!!やっば。あのときは店長のやばさで掻き消されてたけど、全然あの人の方がやばいな。
…あ!
あの人金払ってないじゃん!!うわ騙された…。めっちゃ策士だな。
よし一応、中華包丁腰に差して追いかけよ」