
「とんぶん雛」が告げる春
をとめ達 座敷で着付けし はしゃぎ声 ◉書生かるた 「を」
あっという間に3月。まもなく桃の節句ですね。
子どもの頃、お雛様をお迎えするのに、とても寒いけれど凛とした空気に包まれた座敷で、家族と準備をするのが嬉しく楽しく、また、飾られたお雛様を眺めているのも大好きで、よく座敷に覗きにいったものです。こうした時の座敷の空気感は、今も、春の記憶として肌に残っています。
それから、3月3日が近づくとお友達のお家に集り、お祝いをしたのも懐かしい。お誕生会とはまた違って、お雛様の華やかさもあり、思い出に残っています。
さて、文文先生は、桃の節句が近づくと、必ずお迎えする内裏雛がありました。
「とんぶん雛」です。「とん」は先生の亡き奥様、「ぶん」はもちろん文文先生の愛称です。これは、先生が結婚されたときに、ご友人の方々から贈られたもので、奥村まことさんのお母様の手づくり人形とのこと。ほんわりとした何とも穏やかなお顔は、まさに春の日差しのよう。だんだんと日も高くなってきて、光が差し込む玄関にお目見えすると、とたんに、あたたかな春を感じたものです。

また、記憶があまりないのですが、文文日記を読むと、他にもお雛様を飾っていた様子。一つは「旅行の際に求めたという大内人形で球形」、もう一つは「童子型の立ち雛」とありました。それぞれを玄関、茶の間、二階の階段の窓辺に飾られて、いずれも「亡き家内との思い出の詰った雛人形だ。」と『文文日記 日々是好日 Ⅱ 2003.4-2004.3 』に記されています。
私は、奥様にお目にかかったことがありませんが、お写真で拝見すると、とってもお綺麗で素敵な方。そして、こうした季節の節目に、奥様を思い出され、お雛様を飾られた先生。奥様に、お目にかかってみたかったなぁと思ったものです。
また、もう一つ、春を感じさせて頂けるのは、お餅搗きのとき、奥様へのお供えとして、どなたかが必ずお持ち下さる色とりどりの「アネモネ」のお花。こちらも、奥様が大好きなお花だったのだそう。先生は、これをとても喜ばれていました。
春は、奥様を思い出す季節だったのかもしれませんね。
少し切なさもありますが、そうした御夫婦の姿はとても素敵だと感じたものです。