箸休め編 佐田
私の職場には変わった男がいる。
軽く説明すると、雨の日にスニーカーで来てビショビショに濡れて次の日は天気にも関わらず、スニーカーが濡れてしまったと言う理由で長靴をはいてくるワンパク野郎だ。
決して悪い奴ではない。
寧ろいい奴だと思う。
しかし、イライラするのだ。
外人のお客さんの家と言う認識だけで、土足で家に上がり外人に土足で何故家に上がる?と説教された事もある。
車の中で隣でLINEをしている佐田に、年上の私が 次のお客さんは何時の予約? と質問をしたら
マジでそれはないからww
・・・え?何?それはない?
あ、ごめんなさい。LINEの相手とごっちゃになっちゃいました。
・・・気持ち悪いし怖いのでこんな時は決まってシカトである。
こんな彼にもいい所はある。
優しい性格の彼はいつもニコニコしている。
腰が低い。
以上だ。
いや、本当に以上なのだ。
これも正直、テメー何ニヤついてんだよ。の場面があるから困る。
いい所までも削ぐ男。佐田である。
でも、私は佐田が大好きなのだ。
こうやって佐田のお話が出来るのだから私にとってはプラスでしかない。
その場では本当にイライラして怒る事も多いが、帰ってからその事を思い出すと笑えてくるのは彼の特技かもしれない。
靴紐の結び方が下手で何度も指摘した。
靴紐ほどけてるよ。
あ、すいません。ありがとうございます。
靴紐またほどけてるよ。
あ、本当だ。すいません。ありがとうございます。
これをしっかり数えた日がある。
1日にぴったし10回このやりとりがあった。
ちゃんとありがとうを10回も言えるいい子だと思うしかない。彼の歳は36歳である。
次の日に新品のマジックテープタイプのスニーカーで登場した時は愛おしさまで感じた。
靴紐を結ぶ練習より、自分の出来ない事に無理に向き合わずに余裕をもっての行動なんだなと学ばせていただいた。
仕事中に雨が降ってきてカッパを着ようと車に戻ると ダボダボ のカッパを着た佐田が 俺マジ痩せたかもしれないッス と、ニコニコしていた。
無視をして自分のカッパを着ようとしたら一回りデカい私のカッパを彼は間違えて着ていたのだ。
何も言わずにゆっくり脱がせてやった。
こんな事が毎回起こるので怒っても無駄なのだ。
ここまでくると一種のバケモンである。
一つ言っておく。
信じられないかもしれないが、これは全てノンフィクションである。
こんな彼だからこそ、たまにからかいたくなる。
朝に車で一緒に出発するのだが、彼がトイレに行っている隙に彼の眼鏡をかけて待っていた。
戻って来た彼が一言。
眼鏡買ったんですか?
似合いますね!
自分が仕掛けたのにやっぱりイライラして彼の眼鏡をかけたまま無視をしてしまった。
1時間が過ぎ、昼休憩が過ぎ、1日終わってしまった。
彼は自分の眼鏡だと最後まで気づかなかった。
1日眼鏡無しで過ごせるなら眼鏡など何故持っているのかと腹もたってきた。
驚いたのはここからだった。。。
ねぇ、俺のかけてる眼鏡佐田のだよ。
全然気づかないから1日終わったよ。
え?俺のですか?
と、普通ならそこら辺を軽く探すのだがモンスター佐田は違う。
え?俺のですか?と、言いながら右手の人差し指でゆっくりと眉間辺りを触ったのだ。
肌に指が触れた瞬間 ッハ っとした顔でこちらを見て来た。
これは官能小説ではない。佐田の話だ。
彼はずっと1日眼鏡をかけていると思っていたのだ。
流石に怖くて ちゃんとしなさい と説教してしまった。
こんな愛しきモンスター佐田の話はまだまだ続く。