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第22回 「法隆寺貝葉写本」を読み解く・・・その5
今回は 「第4段 諸世界の属性」の現代日本語訳を紹介します。
この段では、彼岸世界に分散して存在する、諸世界の属性(特徴)について説かれています。
「第4段 諸世界の属性」のサンスクリット原文は、次の4行です。
iha Zaariputra
sarva dharmaa zuunyataa lakSaNaa
anutpannaa aniruuddhaa amalaavimalaa
nonaa na paripuurNaa
玄奘は、この第4段を、「舎利子。是諸法空相。不生不滅。不垢不浄。不増不減。」と漢訳しています。
文中、否定語「a」「an」「na」が計5回出てきますが、玄奘は、これらをすべて「不」という漢字一文字で漢訳しています。
しかし、正しくは、「a」「an」は「非」、「na」は「無」と漢訳すべきです。
1行目のサンスクリット原文は、次の通りです。
iha Zaariputra(イハ シャーリプトゥラ)
第3段の1行目と全く同じですが、ここでも玄奘は、iha(イハ)を全く漢訳せず、Zaariputra(シャーリプトゥラ=舎利子)だけを漢訳しています。
1行目の現代日本語訳は、第3段と同じく、「彼岸世界においては(iha)、シャーリプトゥラよ(Zaariputra)」です。
2行目のサンスクリット原文は、次の通りです。
sarva dharmaa zuunyataa lakSaNaa(サルヴァ ダルマー シューニヤター ラクシャナー)
玄奘は、この2行目を、「是諸法空相。」と漢訳しています。
sarva dharmaa(サルヴァ ダルマー)は、直訳すれば、「全ての(sarva)存在するものは(dharmaa)」という意味になりますが、「第2段 プロローグ」や「第3段 大世界と微細世界」で説かれているように、彼岸世界に存在するもの、すなわち、「諸世界」のことを指しています。
その諸世界の様相が、zuunyataa lakSaNaa(シューニヤター ラクシャナー)であると説いているのです。
zuunyataa(シューニヤター)は、「第3段 大世界と微細世界」で、「微小な毛穴や塵(ちり)のようなもの」、すなわち、「微細世界」と訳しました。
lakSaNaa(ラクシャナー)は、梵英辞書では、「形態=姿・形」と訳されています。
これらを総合すると、2行目の梵文の現代日本語訳は、次のようになります。
全ての(sarva)存在するものは(dharmaa)、微細世界の(zuunyataa)形態をしてい る(lakSaNaaH)。
つまり、彼岸世界(=ニルヴァーナ)に存在する諸世界は、全て微細世界の形態で存在し、大世界(=実体世界)の形態で存在しているものは一つもない、と説いているのです。
3行目のサンスクリット原文は、次の通りです。
anutpannaa aniruuddhaa amalaavimalaa(アヌトゥパンナー アニルーッダー アマラーヴィマラー )
玄奘は、この3行目を、「不生不滅。不垢不浄。」と漢訳しています。
anutpannaa(アヌトゥパンナー)を「不生」、aniruuddhaa(アニルーッダー)を「不滅」、amalaavimalaa(アマラーヴィマラー)を「不垢不浄」と漢訳しているのです。
ところが、東京外国語大学がインターネット上に公開している梵英辞書で検索してみると、aniruuddhaa(アニルーッダー)を「不滅」と漢訳できそうな訳語は見当たらないのです。
なぜaniruuddhaa(アニルーッダー)を「不滅」と漢訳したのか、実に不可解です。
私は、この3行目の梵文は、毛穴や塵のように微小な形態で彼岸世界に分散して存在している、「微細世界」の属性(特徴)を説いているのではないかと考えました。
そして、各単語の訳語を梵英辞書で詳しく調べた結果、3行目の梵文は、前後の文脈との整合性から、次のように翻訳すべきだとの結論に達しました。
探知されない(anutpannaaH)。限定されない(aniruddhaaH)。不透明でも透明でもな い(amalaavimalaaH)。
主語は、いずれも、「微小な毛穴や塵のような形態で彼岸世界に存在している諸世界(=微細世界)」です。
諸世界は、あるのは分かるが、「どこにあるのか分からない」ということを説いているのです。
金子みすゞの詩にある、「昼のお星さま」ですね。
4行目のサンスクリット原文は、次の通りです。
nonaa na paripuurNaa(ノーナー ナ パリプールナー)
玄奘は、この4行目を、「不増不減。」と漢訳していますが、サンスクリット原文通りに訳せば、「不減不増。」となります。
nonaa(ノーナー)は「少なくなることはない」、na paripuurNaa(ナ パリプールナー)は「満杯になることはない」という意味なので、4行目の梵文は、次のように現代日本語訳されます。
(諸世界の数は)減ることは(uunaaH)ない(na)。満杯になることも(paripuurNaaH) ない(na)。
彼岸世界に造られて存在している諸世界は、消えて消滅してしまうことはない、又、彼岸世界が諸世界で満杯になることはない、すなわち、彼岸世界の容量は無限大だということを説いているのです。
「第4段 諸世界の属性」をまとめると、次のようになります。
彼岸世界では、シャーリプトゥラよ
全ての存在するもの(諸世界)は、微細世界の形態をしている。
探知されない。限定されない。不透明でも透明でもない。
減ることはない。満杯になることもない。