「私」は、誰。
「人間椅子」の狂気と美:佐々木暁美が紡ぐ声の世界
佐々木暁美の歌声は、まるで江戸川乱歩の「人間椅子」のテキストが肉体を得たかのような迫力を持って舞台に響き渡った。彼女の存在感は主人公・佳子と重なり合い、その背後に人間椅子が実体化しているかのような錯覚すら覚えた。楽曲にはある種の狂気が漂い、まるで佐々木自身の内的物語が歌を通じて語られているような感覚を抱かせた。
「人間椅子」に描かれた恐怖や不気味さは、醜男の存在そのものが虚構であり、佳子が語る妄想であるかのような疑念を呼び起こす。しかし、佐々木の歌唱が加わることで、その幻想性は現実へと引きずり出され、観客は虚構と現実の境界を曖昧に感じ始める。結果として、私は文章世界が自分の中で新たに再構築される感覚を味わったのだ。
最後に放たれた「気味が悪い」の一言で舞台は暗転し、観客は不安と無の空間に取り残された。その瞬間、ただの語りではなく、醜男の存在が現実化したかのように感じられた。いや、まるで自分自身が人間椅子となり、その内側の暗闇に引き込まれたかのような感覚を抱いたと言ってもいい。小説は手紙形式であり、語りは醜男によるものだが、実際には佳子の視点を通したものであり、佐々木の歌唱が加わることでその虚構がまざまざと現実に押し寄せた。
その結果、佐々木の存在と共に新たな「私」が誕生し、無限の主体が現れるかのようだった。人間椅子となった「私」、それを語る「私」、手紙を読む「私」、そしてテキストを実体化する「私」。それら全てを目撃し、聞いていた「私」。果たして、私は誰なのだろうか?
「私」は、誰。Inspired by 『人間椅子』
【日 程】2024年9月15日(日)
【開演時間】18:00
【会 場】白読 東京都港区赤坂2丁目20−19 赤坂菅井ビル 1F
【出 演 者】佐々木暁美、清水史