クイーンにおけるジョン・ディーコンの楽曲成功率:数学的手法を用いた検証
背景
クイーンは1973年にイギリスで結成されたロック・バンドである。その独自性の高い音楽から本国イギリスや日本を中心に世界中で人気を博し、ボーカルであるフレディ・マーキュリーの死から30年以上経った今でも幅広い世代にその音楽は親しまれている。
そんなクイーンの1つの特徴ともいえるのがメンバー全員の音楽性の高さである。ボーカルであるフレディはもちろん、ドラムスのロジャー・テイラー、ギターのブライアン・メイもメイン・ボーカルをとることができ、ソロでも成功を収めている。以下の表1は各メンバーの演奏可能楽器を表したものである。
ベースのジョン・ディーコンを含め、メンバー全員がマルチプレイヤーであることがはっきりと見て取れる。
作詞・作曲も全メンバー可能であり、且つ全員がヒットを飛ばしているのも特筆すべき点である。
メンバー4人中ジョンを除く3人がソロで成功を収めていることからもわかる通り、全員の音楽性が高いゆえにしばしばメンバー間に軋轢が生じていたというのもよく知られた事実である。そんな時に間を取り持っていたのがメンバー随一寡黙な男、ベースのジョンである。
メンバーの中では唯一ボーカルも取らず、コーラスにもほぼ参加することがなかったジョンは作曲している作品の数もほかのメンバーに比べて少ない。最初の3枚のアルバムで採用されているのは1曲のみであるが、後の彼の作品にはヒット作も多い。
本記事では、「クイーン」として発表された曲の中でメンバーそれぞれの作品のチャート成績を数値化し、検証することでジョン・ディーコンのヒット率の高さ、バンドへの影響について考察する。
注意:本記事の目的は上に述べたように「ジョン・ディーコンはヒット率が高い」という命題を数学的に検証することのみである。検証過程ではクイーンの曲それぞれを数値として認識しているに過ぎない。音楽全般に言えることであるが、どのメンバーが、どの曲が、どのアルバムが優れている、という議論は個人の趣味であり、全く無意味であることを念頭におきたい。
方法
本来であればその根拠も含め、各項目について詳細に述べるべきであるが、簡潔化、及び明確化の目的で以下に箇条書きで示す。
条件
「クイーン」として発表された楽曲を検証する
カップリング曲、アルバム未収録曲を含む
リリースされていない楽曲(デモ音源等)は含まない
90年代以降の他アーティストとのコラボ名義で発表されたシングルは除外
EPは除外
明確な作者が不明な場合は、データから除外する
チャート再登場、リイシューは除外
シングルカットされたライブ盤、リミックスはオリジナルの作曲者の作品とする
作者が複数の場合は、インターネット上の資料を基に中心となったメンバーの作品として計算する
後期2作品 (The Miracle, Innuendo) のクレジットは全作品「クイーン」となっているため、可能な限りインターネット上の資料より中心メンバーを特定する。特定ができなかった場合は除外する
チャート成績のみをポイント化し、各メンバー間で比較する
チャートはイギリス、アメリカ、日本、オーストラリア、ドイツのものを使用する。それぞれ UK Singles Chart, Billboard Hot 100, オリコンチャート, Kent Music Report, GfK Entertainment charts
上記5ヶ国いずれでもリリースされなかったシングルは除外
ポイントの加算方法は以下の表2の通り
両A面シングルはそれぞれの曲をA面として計算する
計算はExcel, R上で行う
計算方法
「クイーン」名義の全楽曲について上記の条件に従ってポイントを算出する
楽曲を作曲者ごとに振り分け、それぞれのメンバーの合計値を算出する
それぞれの総ポイント数を曲数で割り、平均値を算出する
より高いポイント数はより良いチャート成績を示している
結果
以下の表3にポイント計算の一部の例を示す。
以下の表4は各メンバーの合計作品数、各楽曲の合計ポイント数、合計ポイントを作品数で割った平均値を表している。
フレディ・マーキュリーとブライアン・メイは他の2人の比べて倍以上の曲を作曲しており合計ポイントも多くなっているが、その分平均値は比較的低くなっている。
一方、ロジャー・テイラーとジョン・ディーコンの作品数は少ないながらも平均のポイントは前の2人よりも高くなっている。もっとも平均値が高いメンバーはジョン・ディーコンという結果になった。
考察
ジョン・ディーコンの作品数は19曲とメンバー間で最も少ないものの、メンバー間では最も高いヒット率を示した。
ただし、映画「フラッシュ・ゴードン」のサウンドトラックにおけるインストゥルメンタル曲やシングルカットされた楽曲自体が少ないごく初期の作品、アルバム未収録曲など、高ポイントを出しづらい楽曲にはジョン・ディーコンの作品数が他のメンバーに比べて少ないことも考慮に入れる必要がある。
また、今回計算したのはあくまでチャート最高成績であり、チャート入り合計週数は考慮していない。さらに、この5ヶ国以外でもクイーンは大きな成功を収めているため、算出されたポイントが単純に楽曲の成功を網羅しているとは言い難い。加えて、チャート成績のポイント化は恣意的に決められたものであり、違ったポイント化の方法では結果が異なる可能性がある。
特筆すべき点として、ジョンの作品にはフレディとの共作も多くみられる。これに関してはボーカルをとることがなかったジョンがメロディーラインをフレディと共に作り上げていた、という考察がなされている。他のメンバー間の共作も数多くみられるが、今回のデータにおいては主たる作曲者のみの作品として計算されている。
今回、ジョン・ディーコンの作品のヒット率が最も高いという結果になった背景にはジョンの寡作ぶりや、他のメンバーと異なる音楽的嗜好などが大きく影響していたと考えられる。クラシックなどに精通していたフレディ、メッセージソングやロックンロールの影響を強く受けていたロジャーなど、クイーンのメンバーはそれぞれ違った音楽的背景を有している中、ジョン・ディーコン作品の特徴として挙げられるのはブラック・コンテンポラリー等、ブラック・ミュージックの色濃い影響である。自身の作曲にしてバンドとして初の全米一位を獲得した「地獄へ道づれ(Another One Bites The Dust)」はその代表と言ってもいいだろう。このブラコン的側面は必ずしもバンドを成功に導いたとは言えないが、他のメンバーにはないもので、バンドとして時代を先見した一つの要素と言われている。
計算の結果、「ジョン・ディーコンのヒット率が一番高い」という仮説は裏付けられることとなったが、今回の前提には結果を大きく左右するバイアスが多数含まれていることにも注意する必要がある。最後に、前述のように今回の検証はあくまで数字を検証するのみであり、Queenというバンドの音楽性に関して検証したものではないことを強調しておきたい。
出典
画像:https://www.iheart.com/content/2018-10-30-where-is-queen-bassist-john-deacon/
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