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秋田

僕は秋田県と長野県のハーフです。と、たまに自己紹介することがある。

夏休み、お盆にはよく秋田県へ行って何週間か泊まった。いわゆる「おじいちゃんち」や「おばあちゃんち」というものだね。

生まれ育った長野県の実家は田舎だけれど、おそらくドがつくほどの田舎ではない。関東甲信越の気象情報では名前が出てくるほどの行政区ではある。記憶が正しければ。

秋田の家を形容する際には「ド田舎」という言葉はやや不適切のように感じる。「山間部」とか「集落」とかではなかろうか。一応ご近所さんはいるものの、車がなければ買い物にも公園にも行けない。車なしで行けるのは山、川、田畑のみである。あとお墓。

冬は何メートルも雪が積もる。ただし、冬に行ったことはない。幼少期から青春までそこで過ごした親は雪が大嫌いだった。そんな時期に帰省するのは選択肢に無いようだった。一度だけ、3月の終わりに行ったことがある。残雪が2メートルあった。

というわけで、秋田に関してはほぼ夏の記憶しかない。夏といえば秋田、秋田といえば夏である。夏といっても近年のように連日40度になる地獄の日々ではない。もちろん暑いけれど、それでも一日中外で遊べる暑さであった。

信じられないほどに青い空、緑の山、実をつけ始めた稲をなでる風、鯉の泳ぐ池、なぜか枝豆の葉っぱが好きなヤギ。

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小学生男子、ある朝早起きしたので外へ散歩へ行ってみた。パジャマを着たまま大人用のぶかぶかのサンダルであぜ道を歩いていたら足を滑らせ、片足だけ川に突っ込んでしまった。家に戻ると親はもう起きていて足を洗ってくれた。流れの速い川ではなかったので怪我もなく、泣いた覚えもないがそのことははっきりと覚えている。

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別の年だったか、早起きすると祖父も起き出してきた。
「一緒に行くか?」
のようなことを言われたんだと思う。どこに行くのかは知らなかった。祖父母は東北訛りが強かった。
何も分からないままついていくと祖父は家に隣接していた蔵の裏へ回り、突然大きな声をあげた。驚いていると、「キツツキが穴をあけるから追い払っているんだ」というようなことを言われた。見ると、確かに蔵の木の部分は穴だらけになっていた。

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1年に1回しか会えない祖父母、単純な回数でいえば20回も会っていないんじゃないだろうか。幼いころの記憶は思い出すことができないのでほんの数回しか会っていないと言われればそんな気もする。

今住んでいる場所は緯度も経度も日本とは全く違うけれど、おそらく気温や湿度の関係で日本の寒冷地と植生などが大変良く似ている。先月山へ行った際、水辺の近くを歩くとその匂いからふと秋田のことを思い出した。

もう秋田には冠婚葬祭くらいでしか行かないかもしれない。
あと何年くらい秋田の夏のことを思い出せるだろうか、とも考えた。

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