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猫
猫という動物が好きだ。動物としても、ペット、家族としても。
すぐ隣にある祖母の家には生まれる前から猫がいた。
もうすでに年を取っていて小さい子供には寄り付かないような猫たちだった。母猫と息子。小さいころに引っ掻かれた記憶はあるけれど、少し大きくなったら撫でさせてもらえるくらいにはお近づきになることができた。
星新一のショートショートに印象深いものがある。
地球に降り立った異星人。見つけた山小屋をノックすると住んでいた人間は扉を開けるなり失神してしまう。困惑する宇宙人に話しかけたのはそこに住んでいた猫。猫は異星人たちに地球では、人間は支配階級である猫に住処、食事、娯楽等を供給するペットである、と説明する。
という内容。オチは覚えていないが、その部分は妙に腑に落ちたのを覚えている。実際、そう言われても反論することは難しい。
15年ほど前、当時小学3年生。老齢の親猫は姿を消してしまった。猫は死に際を見せないのである。落ち込んでいる祖母を思って当時の友達から子猫をもらってきた。真っ白の子猫だった。
毎日学校が終わって家に帰るとその猫と遊んだ。非常に美しい猫だった。子供を産み、そのうちの一匹は今でも祖母と暮らしている。大変頭のいい猫で、生んだ子供たちに食事を与え、当の自分は小さいままだった。不妊手術を受け、ほとんどの子猫たちが里親に出された後でも、毎年夏になるとおもちゃにしていた人形をくわえたまま自分の子供たちを呼んでいた。
小さい体でよく痙攣を起こし、体調も崩していた。10年ほどで遠くへ旅立ってしまった。動物病院でつけられるカラーをしたままこちらへ来たそうにしていたのに少し面倒で撫でてやらなかった。数日後、父に促されて最後のあいさつに行ったが縁側でぐったりしたまま祖母に撫でられている姿を見て、何もできずにそのまま家に引き返して泣いた。
いつも遊んでいた畑に埋めた。もう好きなだけ食べられるので、大好きだった味付け海苔も一緒に埋めてやった。
昔から家にいたもう一匹の猫も全てを新しく来た猫に教え、何年も前に旅立っていた。
祖母は猫が死ぬたびにもう動物を飼うのはこりごりだ、と言う。
遺影でしか見たことがない叔父も猫が好きだったという。葬儀の後、家に集まった親近者一人ひとりの顔を突然現れた黒猫がじっくり見て、どこかへ消えたらしい。
母親は数年前猫を飼い始めた。死んだら悲しいなんて言っていたら何もできない、と父親に言われたらしい。聡明で慈悲深い父親とまた聡明で行動力のある母親らしい、と思った。
何年も経った今でもこっちへ来たそうに顔を向けたあの弱々しい姿を思い出す。終わりがあることを分かっていながら、ほんの少しの愛でも注ぎきることができなかったのが大変残念に思われて仕方がない。でももう自分を責めることはなくなった。
あと5秒だけでも、この腕に抱くことができたら何を手放しても構わない。でも、誰よりも別れの苦しみを理解している彼女はおそらくそんなことを望んでほしいとは思っていないのだろう。
閻魔様の裁きで自分の弁護人となるのは飼っていたペットだという。
その時、また会った時、再会を喜んでくれるだろうか。立派になったねと言ってくれるだろうか。