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【中国ラオス鉄道の旅】中国ラオス国境の巨大ゴーストタウン
2021年12月、中国の一帯一路政策の象徴とも言える、ラオスの首都ヴィエンチャンと中国雲南省昆明を結ぶ「中国ラオス鉄道」が開通した。ラオスにとって初の本格的な鉄道である。
アジア最貧国のひとつとも言われているラオスが、この鉄道によって中国と連結したことによる恩恵は計り知れないであろう。その一方で中国に多額の借金を作ってしまったことによる「債務の罠」に関して、深刻な懸念がされているのがこの鉄道を取り巻く情勢の特徴としてよく挙げられている。
中国ラオス鉄道は、いい意味でも悪い意味でも話題性抜群である。そんな鉄道に乗ってたどり着いたラオス側の最終地点、中国との国境の街ボーテン(磨丁)で目にした光景はあまりにも衝撃だった。
中国ラオス鉄道開通のニュースを見て
「今すぐに中国ラオス鉄道に乗りに行きたい」
2021年12月、鉄道開通の報道を見て真っ先に思ったことはそれだった。思い立ったらすぐに行動するのが自分のポリシーであったが、残念ながら当時はコロナの規制により中国ラオス共に観光目的での入国は不可能であった。残念無念。
そんなこんなで中国ラオス鉄道の乗車が実現したのは鉄道開通から約半年経ってからである。2022年7月、コロナ規制も緩くなったところで自分はラオスへ入国した。
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観光客も受けるその恩恵
この中国ラオス鉄道は、貿易面においてラオスにとって非常に有意義なものであり、その一方で観光客が受ける恩恵も凄まじい。ラオスきっての観光地、ヴァンビエンやルアンパバーンへ、非常に早く、そして快適にアクセスできるようになったのである。以前は、ハイエースなどで頭をガンガン天井にぶつけながら、ろくに舗装もされていない山道を何時間もかけて行く場所だったらしい、、
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だがしかし、ルアンパバーンのさらに奥(中国方面)の駅はどうなっているのかどうしても気になってしまう。
「ボーテン・ゴールデンシティ」
ラオス側最後の駅、中国との境界に「ボーテン」という駅がある。ここボーテンは2003年に経済特区に指定され、それから香港企業の投資による中国人向けのカジノが繁栄していたという。それが「ボーテン・ゴールデンシティ」である。ターゲット層のいる中国では賭博が禁止されているため、国境を超えてすぐのラオスの地が選ばれたわけだ。しかしカジノの繁栄による殺人・強盗の増加で治安の悪化が進み、それを受けた当局はカジノの閉鎖を実行した。それ以降手がつけられずに、山奥のゴーストタウン、中国的な言い方をすると、いわゆる「鬼城」となったのである。
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その後、習近平国家主席による国家プロジェクト「一帯一路」において地理的に重要なこの地は、カジノが閉鎖された2011年以降新たな大規模再開発が始まって今に至るのだ。
有名観光地ルアンパバーンから、辺境ボーテンへ向かう
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というわけで前置きが長くなってしまったが、自分は2022年7月に世界遺産の街ルアンパバーンでしっかり自然を堪能してから、終点ボーテン行きの列車に乗り込んだ。自分が乗っている2等車の乗車率は4割くらいだろうか。だいたい1時間ほどであっという間にボーテンの駅に到着する。
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現在旅客用の越境運行は行なっていないため、全員降りて出口へと向かっていく。この時ルアンパバーンから2等車に4割ほどいた乗客は、途中の駅で降りていき、終点ボーテンに着くまでには1割程まで減っていた。
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夢中で色々な写真を撮ってから駅の外に出ると、その不思議な光景に自分はただ呆然と立ち尽くしてしまった。というのも、駅から出ると一部の舗装されている場所を除き、切り崩された山を背景にトラックとコンテナが大量に泊まっているだけの場所が広がっていたからである。
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「ん?ここってもしかして来ちゃダメな場所?」
そんなことまで考えてしまうくらい異様な雰囲気であり、もはや工事現場の中に迷い込んでしまった気分だった。そんな中ポツンと建っている、採算性度外視とも言える立派なボーテンの駅舎には違和感しか感じない。流石である。
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中心地へ向かう
とりあえず例の国境まで行けるもんなら行きたいが、手段がない。自分と同じ列車でたどり着いた人たちはあっという間に車やバイクに乗って姿を消してしまったのだ。自分は辺境の駅で立ち往生する、怪しすぎる謎の外国人となってしまった。
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中心地までは、地図を見てみると5kmほどであった。歩けない距離ではないが、見知らぬ地で、しかも事実上中国の工事現場といえるような中を勝手に突っ切って行くのは、万が一のこともあるためなかなか不安である。おまけに日陰一つない炎天下だ。どうしようかと頭を抱えていたところ、バイクに座ったおっちゃんを一人発見。
いろいろ交渉した結果100000ラオスキープ(当時のレートで1000円ほど)で中心地まで連れて行ってあげるとのこと。ラオスのガソリン代の高騰具合は、ロシアのウクライナ侵攻以降、世界トップレベルで深刻である。この価格はまあ妥当なのか?相場なんて全くわからないので考えるのを止めてバイクにまたがった。
ちなみにそのおっちゃんはラオ語ではなく中国語を話していた。
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ということでおっちゃんの背中につかまって赤土が舞う道路を進んで行くと、道が途中から不自然に綺麗になっていた。するとどう見てもラオスらしからぬ光景が広がってくる。この時点でテンションマックスになってしまったが、これからもっと極端で面白い景色を目撃することになる。
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泊まったホテル
おっちゃんに頼んでバイクで連れて行ってもらった場所は、今日の宿だ。
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ダメ元で頼んでみたけど一応宿はあるんだな。google mapを見てもまともな宿情報が何もなかったため、とりあえず野宿は避けられたことに安心した。
中にいたおっちゃんはもちろん中国語を話し、宿泊代は人民元で請求された。出国してないはずなのに、、。もちろん今回の旅で人民元など持ってきてないため、ラオスキープで交渉。結果、一泊150000キープ(当時レートで1500円ほど)で泊まれることになった。
お金を支払うと、おっちゃんが部屋へ案内してくれた。
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値段に関しては、バンコクなどのドミトリーの値段と比較すると高い気はしたが一応個室であり、辺境のホテルにしてはリーズナブルであると感じた。
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ゴーストタウンの様子
ひと段落ついたので、とりあえずホテルに荷物を置いて散策を開始する。
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うん、予想通り非常に面白い。一見ただの中国の田舎町の光景である。しかし上を見上げるとハリボテのお城のような高層建築が立ち並び、簡体字とともに謎の廃墟もあちこちに潜んでいるというこの場所は、なぜかラオス国内なのだ。よくアニメや漫画で登場人物の夢の中で描かれる、不気味なしょぼいテーマパークにリアルで迷い込んだ気分だった。
とりあえず、喉が渇いたので飲みものを買いに行くことにした。
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一応ものは買うことはできるが、営業しているのかしていないのかよくわからない雰囲気の店が多い。とりあえず店の中に入って水を手にし、レジまでいく。
するとこの有り様である、
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水は2元
まあ人民元は持っていないことを伝えればラオスキープでも問題なく支払える。しかしそれ以上に衝撃なのは店内の様子である。
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もう自分の中では、完全に中国に旅行に来ている気分になっていた。
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実際にはこの仏塔みたいなゲートを越えてからが中国である。
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そして夜は怪しげに建物が光りだす。
モデルルームの見学
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ここについてから空っぽの建物を散々見てきたわけだが、どうも気になる建物がある。覗き込むと模型があったり、ポスターが貼ってあったりする。これは何か面白い情報が掴めるかもしれないということで早速潜入開始。
受付の人と、自分の拙い中国語で会話をしていたら、英語を話せる人がいるということでその人を紹介してくれた。これはありがたい。まずはここにある模型について色々と説明をしてくれた。
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そのあとはなんと上の階に連れて行ってもらい、将来完成予定のマンションのモデルルームの見学させてくれたのだ。
「君はどこから来たの?」
案内してくれる人にそう聞かれたので、日本から旅行できました!と元気よく言ったら、理解不能であるといった顔をされてしまった。まあそりゃこんなところに外国人が来るわけないよな。怪しまれても困るので、「大学で都市開発の勉強をしています!」と大ホラを吹いておいた。
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そこには色々なパンフレットなども置いてあったので、許可をもらって迷わず頂いてしまった。
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このパンフレットに中央にあるイメージ図がとても興味深い。現地の写真を見てもらうとわかるのだが、このイメージの建物の一部はすでに外観は完成しており、位置関係も完全に一致している。
ボーテン、というより中国企業は、本気でこの僻地ををラオス北方経済の中心地にしようとしているのである。地理的にも一帯一路の出発地点の一つであるため、開発後の想像が現状全くできないが納得はできてしまう。
このボーテンの大規模都市開発については、ネットで調べるとおもしろいイメージや記事がたくさん見つけられる。
帰路
面白い場所だったので、なんやかんやでボーテンは2泊した。それでは首都のヴィエンチャンに戻るとする。
中国ラオス鉄道のラオス区間は当時はまだオンラインでのチケット購入が不可能であるため、中心地から数キロ離れたチケット窓口まで直接買いに行かなければならないという、不便極まりないシステムであった。そのためチケットが売り切れたら困るので、最終日当日の早朝から徒歩で鉄道の駅まで向かうことにした。一人歩いて工事現場の中を突っ切っていく怪しい外国人になることに決めたのだ。
初日にバイクのおっちゃんに連れていってもらった時、道やら安全面を把握してきたので、歩いても大丈夫だという判断に至った。
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この写真の一本の木は鉄道駅と国境の間に位置しており、過去の写真をネットで漁っていてもこの木は存在するので、開発する上での目印になっていると予想している。
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相変わらず変な道である。
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中国のようなラオスのような、よくわからない土地で灼熱の太陽に1時間ほど照り付けられながら、工事現場の砂埃を浴びてなんとか駅に辿り着いた。だがしかし、そこには絶望が待っていた。
「今日のチケットはもう売り切れです」
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やらかした。
もう一泊このゴーストタウンに泊まるの?というか、また炎天下の中ホテルまで戻らなきゃいけないのか?
残念ながらどう喚いても今日ビエンチャンに戻ることができないらしい。初日にこの駅着いた時に、帰りのチケットも買っておくべきだったのである。こんな人の少ない駅でまさか座席が売り切れるとは思わなかった、、
現在このボーテンの駅ではそこまで人が乗ることはないだろうが、おそらく観光地のルアンパバーン、ヴァンヴィエンで大量に人が乗ってくるため、その予約でいっぱいになっているのだろう。
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仮にもここは中国の手によって大発展することになっているのだが、現状当日券買えなかったら今後どうなるんだろうか。ラオス区間は単線だから便数を増やすにしても限界あるだろうし、、
とりあえず明日のヴィエンチャン行きのチケットを購入し、カウンターを後にした。再びボーテンの駅舎の前で途方にくれていたら、初日に出会ったバイクのおっちゃんに再会した。まさかの再会で流石に笑ってしまったが、旅程崩壊してメンタルはボロボロだったので、お金を払ってまた乗せてもらうことにした。
そして翌日はなんとかビエンチャンに戻ることができた。
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ラオスの首都ヴィエンチャンと中国雲南省昆明まで繋がったこの鉄道は、当時の2022年7月時点では規制により観光客の越境移動はできず、ラオス区間と中国区間はそれぞれ別々に運行されていた。しかし貨物輸送など、貿易の面での越境運行は進行中であるという。
内陸国であるラオスにとっては、大国中国と結ばれたこの鉄道がどれだけの影響を及ぼすのかは、いい意味でも悪い意味でも計り知れないであろう。一方で中国側にとっても重要な、一帯一路の典型的なプロジェクトの一環である。その象徴であるとも言えるここボーテンは、今後どのように姿を変えていくのだろうか。更なる衝撃的な発展が見れることを期待して、数年後自分はこのボーテンにまた足を運ぼうと思う。