🏊‍♀️CRAWL🏊‍♀️レクチャーシリーズ｜レポート「決める係、会うことの自由形」（講師：和田ながら）【後編】

2024年9月7日 21:00

アートワーカー（企画者向け）オンラインプログラム CRAWLは、文化芸術のフィールドでさまざまな形で企画について考えながら、実践してきた方たちをお招きして、レクチャーを開催します。第一回目は「決める係、会うことの自由形」として演出家／したため主宰の和田ながらさんにレクチャーをお願いしました。7月19日に行われたレクチャーのレポートを前編・後編に分けて公開します。

前編はこちらから！

「決める」≒「演出家」≒「企画者」

演出家＝決める係、として話してきました。しかし、「決める」という機能はどこかに必要ですが、それが演出家でなければならない、ということではない。演劇にとって俳優は欠かすことのできない存在ですが、演出家は居なくても演劇はできると思います。だから「決める係」を他の職能、例えば俳優が担ってもいいのです。演出家がいなければ別の人がやる。あるいは個人が担うのではなく、コレクティブが決める行為を行う可能性もあり得る。演劇のスタンダードな分業スタイルはありつつも、それとは違ったオルタナティブなチームメーキングをして、どこに「決める係」を配置するか、というのも、面白い実験になるはずです。そして「決める係」を引き受けた人は、それが権力や責任を伴う仕事だということを、丁度よく自覚する必要がある。それは自覚が肥大しすぎても駄目だし、過小評価しても駄目だし、ちゃんと自分の「決める」役割をその正確なかたちと重さで自覚しないといけない。

演出家としての「決める係」は、「企画者」の役割にもそのままスライドできるのではないかと思います。上に挙げた例は、「企画者に必要な8つのこと」みたいに捉えることもできるかなと。逆に言うと、この8つの決める係としての役目が果たせるならば、その人はどんな肩書きの人でもいいはず。誰でも企画者になれる。例えばディレクター、プロデューサー、キュレーターのような、あらかじめそういう職業の人ということが重要ではなく、「決める係」を引き受ける行為によってその人が企画者になる。
これは自分のまだ生焼けの考えですけど「〇〇になりたい！」と、「〇〇をやりたい！」の「なりたい」と「やりたい」って何か近いようで、かなり違う考え方に思えるんです。例えば演出家に「なりたい」ってことと、演出を「やりたい」っていうのは、印象が違う。そして、どちらかというと「やりたい」を大事にした方がいいんじゃないかなって。「企画者」って、「企画者になりたい」ではなく「企画をやりたい」という欲望から発生する立場なのかもしれません。

「決める係」は演出家でなくてもよい

演出家という「決める係」の立場についてを踏まえて「UrBANGUILD」の話を再度伺う。

和田：「UrBANGUILD」という京都にある多角的アートスペースのブッキングスタッフとして、「3CASTS」というパフォーマンスシリーズを担当しています。ブッキングマネージャーのryotaroさんが既に取り組んでいた「FOuR DANCERS」というシリーズを参考にして、この「3CASTS」を考えました。「FOuR DANCERS」は、4人ないし4組のダンサーが、概ね20分か30分ぐらいのパフォーマンスをひと晩で上演するシリーズです。私が2018年にスタッフとして入った時には、既に「FOuR DANCERS」がかなりの回数やられていたのもあって、このスタイルを下敷きにして「3CASTS」を不定期開催でやり始めました。とはいえ演劇を1日に4本も観るのって大変なので、3人ないし3組の俳優にオファーをして、それぞれ30分ずつのパフォーマンスをひと晩でやってもらう、そしてそのあとに少しトークの時間をとる、というフレームにしました。
さきほど言った通り、誰でも企画者になれるはず、です。けれど演劇の分野では実際のところ、演出家・劇作家・プロデューサー、劇場やフェスティバルが企画者になることが圧倒的に多い。俳優は、企画側で作品の方向が固まってからオファーを出されてそれを受ける、あるいはオーディションに参加して出演の機会を得る、というように、受動的に作品に参加するパターンがほとんどです。でも、それなりの長い間、演出家として俳優と一緒に作品を作ってきて、俳優の方が演出家とかより遥かに（いい意味で）ヤバいことを考えてると思っていて。俳優が作品の出発点を担ったらずいぶんヘンテコなことになるのでは、という興味関心から「3CASTS」は始まっています。
「3CASTS」では、上演の中身は引き受けていただいた俳優に完全にお任せします。どういう名義で作品を出すか、どんな内容にするか、それが一人芝居なのか、共演者を呼んできて複数名でやるのか、など、作品の「決める係」は全部お任せしています。当日のリハーサルまでどんな作品を持ってきてもらえるか分からない。そこから何が出てくるかな？というのを楽しんでます。そして、企画するってことを、演出家とか劇作家、制作者に留めず、俳優たちの中から自由形として企画をやる人が出てきたらいい、「3CASTS」がそのきっかけになれたら、という願いもあります。
出演を引き受けてくださった方の中で和田を演出家として使いたいというリクエストがあったら、お応えします！というオプションを用意していたこともあります。そうしてできた作品がいくつもあります。演出家が俳優にオファーすることが頻度としては多いので、俳優から演出やってよと言われると燃えます。

鑑賞者に「決める」という事柄がどのように作用するのか

活動されている分野によって、観客ないし鑑賞者との関係、出会い方はそれぞれあるだろうと思います。一般的な演劇の考え方では、特定の本番日の上演時間に劇場に来ていただいて、客席に居ていただいて、上演に立ち会っていただく。
演劇は、劇場でリハーサルを何回もします。でも段取り的に本番と同じリハーサルを何回やったとしても、お客さんに立ち会っていただく本番は、全然違う。そうとしか言いようがないくらい、全然違う。誰かと一緒に同じ場所で、同じ出来事を目撃している状態が、観る側に与えているものはとても大きい。観客の反応、客席の緊張感、笑い声が上がる、あるいはなんかあったかい感じがするとか、そういうものをリアルタイムに感じ取りながら、舞台上で俳優のパフォーマンスが行われるわけです。舞台芸術に関わる人は、その本番の特別さが病みつきになってる、ということはあるはず。

客席の配置、あらかじめどういう情報を得てきてもらうか、どういうアナウンスをするか、そういう観客に対するアプローチも、演出家なり企画者なり制作なりが、決めることができます。決めておいたこと、準備されたことに対して、観客がそれに乗ってくれることももちろん起きます。同時に、必ずしもこちらが決めて予想した通りに乗ってくれるとは限らない。こちらが決めたこと、準備したことに対してはみ出したり、全く違う読み取りをしてくださったり、あるいは全然裏切るようなことがあったり。観客に「決める」という事柄がどのように作用するのか。乗ってもらえる時も嬉しいですが、意外な反応をもらえる時に、おお！ってなる興奮も、間違いなくある。観客と出会う方法も試したいからこそ、企画をやる、作品を作る、本番をやるって面もある。常に考えていたいことです。

「頼まれてもないことをやる」

KYOTO EXPERIMENTというフェスティバルの事務局で制作スタッフとして仕事をしていた時に、当時プログラムディレクターをされていた橋本裕介さんに、私の仕事の仕方に対してアドバイスないですか？って、聞いたことがありました。その時に「頼まれてもないことをやるってことじゃない？」と、おっしゃっていただいて。
それこそ、橋本さんは誰に頼まれたわけでもなく、自分がやるべき、必要だと思ったからKYOTO EXPERIMENTを始めた人です。もちろん誰かに頼まれて、誰かに依頼していただくことは大事です。ご依頼とかお声がけもらうこと、嬉しいです。そういう仕方でしか出会えないものは沢山ある。でも一方で、頼まれてもないことをやるマインドの重要さを忘れてはいけない。誰に頼まれてるわけでもないけど、自分が大事だと思う、面白いと思う、そういうことを大事にしながら、自分がアクションを起こすことを考えていきたい。
この橋本さんの言葉は折に触れて思い出しています。

質疑応答：「決める力」、これまでの仕事と今

質問1：「3CASTS」のオプションで、スケジュールが合えば、和田さんを演出家として使えるのは「3CASTS」の演目に関してでしょうか。もしくは「3CASTS」でのご縁で、他作品時にオファーできるということでしょうか？これに加えて「3CASTS」に出るためにはどうすればいいのでしょう。

和田：まず「3CASTS」に出演するためには、私からオファーが来たら、になりますかね。不定期開催のイベントですが、出演してくださる方は常に探しています。名乗りを上げてもらうのでも全然いい。和田を演出家として使えるオプションは、「3CASTS」に出演してくださる際に私がスケジュールに余裕があったら、という感じで常に可能ではないのですが。演出家としてこちらから出演してくださいってお願いすることが多いし、それはそれですごく好きでドキドキするし、醍醐味でもあるんです。でも一方で、演出家として俳優に使ってもらうのは、新しいタイプの驚きと喜びがあって、自分にとって重要な経験になったなと思います。実際に「3CASTS」でも、この機会に一緒にやってみたかった演出家と組んでやりますとか、作家に書き下ろししてもらいますとか、それまで思ってたことの実現に繋げていただいたり、それがまた別の場所で再演されたりとか、そういう展開を作ってくださってる俳優の方もいるので、このようなことがどんどん起きたらいいなっていうのは、常に思っています。

質問2：「決める」が不得意で、創作に関わるとき、あらゆる可能性を消去法で検討しないと、自信が持てずに決めるまでにかなりの時間がかかってしまって、周りに大変な思いをさせてしまうことがあります。「決める力」はどうしたら高めていけると思いますか？

和田：決めるってある意味では後戻りできなくなる、ということでもあるので、私もためらうことはかなりあります。解決方法としては、迷った時は思いついたことを全部やる、でしょうか。やってみると分かるというか。例えば、Aっていう方法を試した時に、なんか違うなって思うわけです。なんか違うなと思うというのは、Aは大正解じゃないということ。で、何が違うかが分かれば、次はもっとマシな回答が出せるはず。もう少しマシに練ったものをもう1回やって、もうちょっとだな～と思った時に、どこがもうちょっと？なのかを考える。それによって辿り着くこともあるかもしれない。でも、単に思い付いたからやってみよう！で、大正解にいきなり辿り着くこともある。だから試せるものに関しては、どんどん試してみた方が悩むより早い場合もあると思います。
自分1人で考えてると、自分の想像の範囲に収まってしまう。あらかじめ自分の頭で考えられることには限界がある。目の前で起きていることを自分が面白いと思うかそうじゃないか、そこは信じるようにしています。自分が面白いと思うことを信じてみるとか、面白いかも？ってことを1回試してみる。それでも分からんとなったら「ごめん、分かんないわ！」ということも含めて、周りに言ってみる。その分からなさに正直になるのも、もしかしたら周りの人たちが違う視点を提供してくれたり、じゃあこっちはどう？っていう提案をしやすくなるきっかけになるかもしれない。

質問3：UrBANGUILDでの企画、KYOTO EXPERIMENTの事務局、演出とは関係がないわけではないですが、お仕事ではない場での企画や事務局での仕事が、演出に影響したり、変わったということはありますか？

和田：例えばフェスティバルで仕事をしていると、いち観客として以上に、さまざまな作品のことを知ることができたり、情報が入ってきたり、アクセスしやすくなる。そういう意味ではすごい得をしている感覚はあります。
もしかしたら地域によるかもしれないですが、例えば京都とかだと、パフォーミングアーツやってる人口がそんなに沢山いるわけじゃない。そうすると、例えばマネジメントに誰かについていて欲しくても、なかなかそうはいかない。だからセルフプロデュースをしなければならない面が多かれ少なかれありますが、そういう時に例えばフェスティバルの仕事とかを通じて制作的な仕事の仕方をわかっていると、それをそのまま自分の企画の制作的な仕事に流し込めたりもします。
分業が発達している話はしましたが、もうひとつの実感として、都市部に行けばいくほど、分業ってエクストリーム化して、すごく細かくなる。規模の大きい公演があるから、そこに入っていく人材も豊富。例えば、東京という都市では分業ってかなり発達してる。一方で、地方では人が足りない。そうすると、一人の人が自然といろんなことができるようになってくる、あるいは、ならざるをえなくなってくる。小さな都市の劇場とかに行くと、スタッフさんが「私、音響も照明も舞台のこともわかるので」というマルチにできる方がお1人いらっしゃって、その方に聞けば何でもわかる、みたいな。いろんなことができる人が実は地方に居たりするって、面白い状況だなと。

質問4：頼まれてもないことをやるって決める！と決めた時、まず最初にどういう1歩目を踏み出すのでしょう。

和田：企画のド頭みたいなことですよね。作品を作るときは、結構シンプルかもしれない。例えばもうこれは私がやるしかないでしょう！というもの、例えばテキストやモチーフに出会ってしまった時は、もうやるしかない。すでにスイッチが入ってるので、もうひたすら転がっていく。
あるいは、まだ具体的じゃないけど何かもや～っとある、という段階で次のステップを促してくれるきっかけは、いろいろある。例えば劇場が作品を募集してる、とか、こういうフレームで助成金が出るかもしれません、みたいな。自分が行動に促されていくような情報になるべく意識的に触れるようにしておくのも実は重要かな、と。そういうので生まれてくる企画、急に現実化してくるプロジェクトって実は沢山あるんだと思います。

司会：頼まれてもないことをやるって決める！と決めた時、どういう1歩目を踏み出すか迷っていても、そのような情報に触れて想像力が掻き立てられることって大事ですね。和田さん、本日は大変示唆に富む貴重なお話をありがとうございました！

和田ながら
演出家／したため主宰
京都造形芸術大学芸術学部映像・舞台芸術学科卒業、同大学大学院芸術研究科修士課程修了。2011年2月に自身のユニット「したため」を立ち上げ、京都を拠点に演出家として活動を始める。主な作品に、作家・多和田葉子の初期作を舞台化した『文字移植』、妊娠・出産を未経験者たちが演じる『擬娩』など。美術、写真、音楽、建築など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2013年から2015年、Dance Fanfare Kyotoの企画・運営メンバー。2018年より多角的アートスペース・UrBANGUILDのブッキングスタッフ。2019年より地図にまつわるリサーチプロジェクト「わたしたちのフリーハンドなアトラス」始動。NPO法人京都舞台芸術協会理事長。

執筆・編集：藤林悠