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お得感が消えたブルーレート!?
今回はインフレ率が三桁を超える国アルゼンチンを訪れるなら必ず知っておきたい「両替」にフォーカスして、できるだけわかりやすく解説したいと思います。
この記事を執筆している時点でもアルゼンチンの両替事情は刻々と変化するため、予測が難しいのが現状です。あくまで現時点での目安にしていただければ幸いです。
アルゼンチンの通貨
まずアルゼンチンの通貨は「アルゼンチンペソ」です。表記が米ドルと同じ「$」のため、お店やレストランの価格表記に戸惑う日本人の方が多いです。
外国人がよく来る店の場合、稀に値札はドルで表記して会計の際にペソで請求してくるお店もあるので、よく見分ける必要がありますね。また値段において、カンマとピリオドの使い方が日本とは逆です。
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ちなみに「ドル化」や「中銀廃止」を公約に掲げるミレイ大統領が2023年12月に就任しましたが、これには数年単位の時間を要するとも表明しており、現時点で日常生活で米ドルを支払いのために持ち歩くということはほぼありません。
複数の為替レートが存在する?!
では本題に入りましょう。日本人の感覚では理解しにくいことですが、アルゼンチンは為替レートがいくつもある不思議な国です。
今回は主に二つのレートを取り上げます。一つは銀行の公式レート(Dólar Oficial)、そしてもう一つは通称ブルーレート(Dólar Blue)と呼ばれる闇市場の非公式レートです。
「闇レート」と言ってしまうと聞こえが悪いですが、アルゼンチンではごく普通のことで、新聞やニュースなどでは公式レートの隣に堂々とブルーレートが並べて表示されています。
ブルーレートのお得感が無くなった経緯
一般的に海外からの旅行者はドルを持ち込み、ブルーレートで両替を行うことはよく知られていました。なぜならその方が率の悪い公式レートで両替した時よりも、お得に買い物ができるからです。
例えば、昨年2023年10月の大統領予備選挙後は、公式レートとブルーレートの乖離幅がなんと214%に達し、ドル持参での旅行はお得感マックスでした。
例えで考えると、当時一本15,000ペソのアルゼンチン産高級ワイン「RUTINI」を買った場合、公式レート換算で43ドル(約6,400円)となりますが、これがブルーレート換算では13ドル(約2,000円)と、3分の1の価格で買うことができたのです!
その後、新政府のカプート経済相が12月に公式レートを50%以上切り下げ、1ドル=800ペソとすることを発表します。この影響で、今年最も乖離幅が大きかった7月時点でさえ62%まで縮まり、お得感が薄れてしまいました。
そして本記事を公開した2024年9月23日、二つのレートの乖離幅は26%まで縮まりました。(公式レート:1ドル=982ペソ、ブルーレート:1ドル=1245ペソ)
物価高騰もあり高級ワイン「RUTINI」は一年の間に30,000ペソと2倍値上がりし、公式レート換算で30ドル(約4,370円)となり、ブルーレート換算では25ドル(約3,450円)となりました。(※1ドル=143円で換算)
エコノミストによると、これはミレイ政権の通貨発行削減などの政策で現政権への信頼感が高まっていくことが背景にあるそうです。
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カード払いがしやすくなったことは朗報
ちなみに外国人観光客の利用する海外のクレジットカードには、2022年11月からブルーレートに近い電子決済市場レート(Dólar MEP)と呼ばれる優遇レートが適用されるようになっています(※1)。
旅行者にとってはクレジットカード払いで対応しやすくなったことは朗報です。とはいえ以前のようにお得に観光ができる魅力が激減してしまったのも事実です。
そして最近は海外事務手数料を値上げするカード会社が多いので、お得感を優先される方はカード利用か現地両替するかを比較考慮する必要があるでしょう。
もちろんまだまだ現金しか受け付けてもらえないという場面も多いため(チップやタクシー代等)、ペソに両替が必要になることは十分に想定されます。
日々変動する為替レートを随時チェック!
この先どのようにレートが変わっていくのでしょうか?アルゼンチンで両替される方は、下記サイトから日々変動する為替レートを目安として随時確認してください。「DÓLAR BLUE」がブルーレート、「DÓLAR OFICIAL」が銀行の公式レートです。
ブルーレートでの両替におすすめの場所は?
大抵の在住者は、お得意先の両替商や時には信頼できる友人などから換金していますが、旅行者の場合はGoogleマップで滞在先周辺の「Casa de Cambio」(両替所)を検索して、実際に行ってみて幾つかの両替所のレートを比較してから両替するという方法もあります。場所によっては100ドル札しか受け付けてくれない場合もあります。
ホテルでは換金対応していない場合が多く、せいぜい両替所の名刺を渡されて「あとは自己責任で」となるくらいです。
有名どころは、市内の歩行者天国フロリダ通りでの両替です。そこでは両替商たちが、「カンビオ、カンビオ!カサ・デ・カンビオ!」と叫んでいます。カンビオ(cambio)とは両替のことです。日本人が歩いていると「チェンジマネー!」と英語で近寄ってくることもあります。YouTubeでも見ることができますが、私は路上両替してもらった経験はありません。
このブルーレートでの換金文化は、非公式であるがゆえに完全自己責任ですので、日本のような感覚で立ち入れる守られた世界ではありません。
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もしドルをペソに両替したら使い切ることをお勧めします。ペソを持っていても価値はないので、滞在期間にもよりますが使い切れる量だけペソに両替しましょう。
海外送金もあり
ドルを持参することに不安を感じる場合は、日本から海外送金してアルゼンチンで現金を受け取ることも可能です。
例えばウエスタンユニオン(Western Union)はブエノスアイレス市内でよく見かけますし、こちらも優遇レートが適用されるので日本人旅行者で利用される方もおられます。ただドルでの受け取りはできず、ペソでの受け取りとなってしまいます。
なぜブルーレートが存在するのか?!
ではなぜ非公式レートが堂々と取り引きされているのでしょうか。ここからはアルゼンチン人の直面する問題を深掘りしたいと思います。
まず大前提として国民は自国通貨アルゼンチンペソや銀行を信用していません。これは過去に9度もデフォルト(債務不履行)を起こしており、国民が度重なる経済危機の歴史から学んでいるからです。
特に2001年の財政破綻によるペソ大暴落により「またペソが紙くず同然になってしまうかもしれない」という将来への不安があるのです。
そのようなわけで国民は信用のないペソを貯蓄するのではなく、安全なドルに換金して保有したいと思っています。
ただ前政権の2019年10月以降の緊急大統領令により、政府はペソの価値を保つために、個人が持つペソの口座から預金を目的としたドルへの購入に、1カ月につき200ドルまでという制限をかけています。
(中南米で最低賃金が月200ドルに満たないのはアルゼンチンとベネズエラだけです。アルゼンチンは国民の半分が貧困層であるため、そもそも毎月200ドル買える余裕のあるアルゼンチン人はそう多くないのが現状です。※2)
しかも外貨購入に課税される税金(通称PAIS税)は30%も課税されます(※3)。例えば10月時点の状況で考えてみましょう。
公式レート :1ドル=982ペソ
ブルーレート:1ドル=1245ペソ
単純に数字だけ見ると「公式レートでドルを買った方がお得」と思いがちですが、982ペソにPAIS税と所得・個人資産税が加わるので、60%ほどの課税となり、実際は1ドル買うのに1571ペソもかかってしまいます。
つまり月の上限いっぱいの200ドルを購入すると31万ペソ払うことになります。でもこれをブルーレートで購入すると、25万ペソで換金ができてしまいますよね。それに200ドルの縛りもありません。
もちろん公式レートでドルを購入した場合、消費の内容によっては所得・個人資産税の控除対象となるので、翌年に還付を受けることができます。
要するに「ドルを買えるくらいお金あるなら先に税金払ってください。もしあなたが高所得者じゃないことがわかったら、来年になったら30%返金しますよ。」ということです。
嘘のような本当の話ですが、あるアルゼンチン人の会社員はお給料をペソでもらうと、すぐにブルーレートでドルに換金しベッドの下に貯蓄します。
実際、国家統計センサス局(INDEC)の調査によると、アルゼンチン人は約2億5,785万ドルを、金融システム以外で保有していると報告されています(※4)。
もちろんこれらは旅行者には関係のないことですが、このような特殊で複雑な事情があるため、非公式でありながらブルーレートの方がアルゼンチン国民にとってはアクセスしやすく、支持されやすいということがお分かりいただけるでしょう。
ドル化宣言でもまだまだペソ新札発行
今年5月からは、最高額面紙幣の1万ペソ札の流通が始まりましたが、ブルーレートで換算すると最高額にも関わらず日本円で1,150円ほど(2024年9月現在)の価値しかありません。また今年の年末までに、さらに最高額紙幣の2万ペソ札が流通すると報道されています。
まとめ
今回はアルゼンチン旅行前に知っておきたい、両替事情について詳しくご紹介しました。この先ブルーレートはどのように変動するのでしょうか?または消滅するのでしょうか?
闇レートは経済の不安定さの象徴であり、信用と自己責任について考える機会にもなります。これらの現状を把握した上で、安全で楽しいアルゼンチン旅行を満喫していただければと思います!
(完)
参考文献
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/76aa3a73cd94b3ea.html
https://es.statista.com/grafico/16576/ajuste-de-los-salarios-minimos-en-latinoamerica/