「今日の着こなし素敵ですね」と言われて、ただ「ありがとう」とだけ言える人になってほしくて、国際交流サークルをやっています。
日本に住んでいた頃は、あまりにも当たり前過ぎて疑問にすら思わなかったが、カナダに13年住んで常々思うことがある。
それは、
日本語はややこしい。
ということだ。
「今日の着こなし素敵ですね」と言われたら、日本人は一般的にどう答えるだろうか。
「いやいや、安もんですよ!」とか、「こんなの適当ですよ!」とか、とにかく自分のセンスの良さや、褒められているという事実を否定するのではないか。
「お若いですね~」はどうだろう。
「化粧でごまかしているんです~」とか、「褒めたってなんにも出ませんよ~」とか、嬉しいのに、その気持ちをひた隠しにするのではないか。
日本人は遜る国民性だ。
余程仲の良い友達でない限り、本音を言葉にしないのが流儀だ。
どんなに嬉しくても、素直に「ありがとう」と言ってはいけない。
調子に乗っていると思われるからだ。
自分が褒められる側なら同じように答えるため、褒める側も、相手の回答が否定形でも何の疑問も持たないし、むしろ、否定形が『ありがとう』を意味すると理解している。
ちょっと苦手な食べ物を勧められた時はどうだろうか。
「くさや、食べます?」
「あ、大丈夫です」
この時の『大丈夫』はNOという意味だ。
くさやは食べたくないが、はっきりと「いりません」と言ったら角が立つので、「大丈夫」とふんわり言うことで、遠まわしにNOと伝える。
上司が部下に「この前頼んだ資料作った?」と聞いて、部下はこう答える。
「あー、資料まだ作れてないです」
この『作れてない』には、『作ろうと努力はしたが、時間的な理由や、その他にも重要案件があり、作りたいのに作ることができなかった』が含まれていると思われる。
「作ってない」と言えば、努力を怠ったと思われてしまうし、「作った」か「作ってない」の二択であれば、「作ってない」だが、それでは自分の過失のように聞こえるので「作れてない」と、何か不可抗力が働いたかのような表現にする。
このように、日本語はややこしい。
聞く側が相手の感情も含めて言葉を理解しなくてはいけないからだ。
なぜ日本語はこのようにややこしいのか。
ハッキリと言ってしまった後の、相手の反応が怖いからではないだろうか。
日本では、イキったり、マウントを取るのはタブーだ。
遜る国民性に相反するからだ。
だから、イキっているつもりはなくても、イキってると思われてしまいそうな言動は避けるし、ましてやマウントを取っていると思われるようなことはしない。
嬉しい時に「嬉しい」と言わなくても嬉しいと伝わる文化なのだから、敢えて言葉に出して、自分を窮地に追い込む必要はないということだ。
海外生活が長い日本人は、強気だと思われることが多い。
物事をハッキリと言う習慣が身に付いているからだ。
「今日の着こなし素敵ですね」と言われたら、「ありがとう」。
「お若いですね~」も、「ありがとう」。
「くさや、食べます?」は、「いりません」。
と言ってしまう。
分かり易いが、強気な感じ。
相手は自分を褒めているし、自分が嬉しいのだから「ありがとう」と言う。
自分が食べたくないものを勧められたので、「いらない」と相手に意思を伝える。
とてもシンプルで合理的だが、日本人からすると冷たい感じ。
これを日本でやってしまうと、『調子に乗った空気読めないやつ』になってしまう。
だから私は、日本の敷居を跨いだら日本人的な答えに切り替えるようにしている。
このスイッチがないと、海外で長く過ごしている日本人が、日本に馴染むのは難しい。
どんどんと日本に馴染めなくなっていってしまう。
空気を読むのは訓練がいる。
日頃から空気を読む訓練をしていない人が、いきなり空気を読もうとしても、簡単に読めるものではない。
読んでいない期間が長ければ長いほど、どんどんと読めなくなっていくのが漢字と空気だ。
では逆に、日本に住む日本人の皆さんのように、世界一空気が読める人が海外に行った場合どうなるだろう。
誰も空気を読んでいない中にポツンと、空気が読める人が入ってしまった場合、どうなるだろう。
『誰も私の気持ちを分かってくれない』
『みんな冷たい』
となる。
「今日の着こなし素敵ですね」と言われた日本人が、「いやいや、安もんですよ!」と答える。
「安物なんだね!」と返事される。
「お若いですね~」と褒められた日本人が「化粧でごまかしているんです~」と答える。
「へ~、化粧でごまかしているんですね!」と言われる。
上司が日本人の部下に「この前頼んだ資料作った?」と聞いて、部下が「あー、資料まだ作れてないです」と答える。
「あ、作ってないのね」と言われて終わる。
この反応に、日本人はショックを受ける。
口に出した言葉以上に意味があることを理解してもらえないからだ。
謙遜は素晴らしいことだし、空気が読めることはスキルに値する。
でも、時と場合によっては、引き出しに閉まっておいた方がいいこともある。
だから、海外に行く時に備えて、切り替えができるようになっておくとよい。
だが、これを日本でできるようになるのは難しい。
島国ニッポンは、ほとんどの人が日本人で日本語を話す。
外国人も日本語を頑張って話すし、コンビニで働く外国人の方は、日本語検定N3以上だけでなく、空気も読めなくてはいけない。
だから私は、中高生のためのオンライン国際交流サークルを運営している。
カナダの中高生は直球を投げてくる。
「かわいい服だね!」
「今日の髪型いいね!」
そんなコメントに対して、謙遜したいのをじっと堪えて「ありがとう!」とだけ言う訓練ができる。
この練習をすることで、ホームステイ先で食べ物の好き嫌いが伝えられるようになる。
この切り替えができることで、留学生の友達に気を遣い過ぎてストレスが溜まったりしなくなる。
空気を読まない練習が留学に役立つなんて、留学前の皆さんは夢にも思わないだろう。
単純なことのようだが、私は「今日の着こなし素敵ですね」と言われて、ただ「ありがとう」とだけ言える人になってほしくて、国際交流サークルをやっています。
続きは次回。ちょっとアピール。こんなことやっています。👆
スタエフもやってます🎶