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私と彼のこと(33)-塩川豊子さん-

塩川豊子(トヨ)さんは、私の妻(彼の祖母)の祖母に当たる。
したがって、彼の高祖母ということになる。
私と妻が勤める園の二代目の園長でもある。
ちなみに、私が四代目の園長で、妻が五代目(現園長)になる。

70年近く前に、環境を通じて子どもの主体性を育む保育の実践に着手し、「大地保育」という理念を提唱した。
園児や職員はもちろんのこと、保護者や近隣の方からも「おばあちゃん」と呼ばれ敬愛された、地母神のような、太陽のような方だ。

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豊子さんは根っからの実践者だったので、著作といえるようなものはないが、講演の記録や寄稿文、保護者へのお手紙などを収録した一冊は、今でも職員のバイブルとなっている。
もちろん、現代の保育・幼児教育に当てはめて、そのままには通用はしなくなってしまった部分もあるが、素敵な言葉がたくさん詰まっているので、ときどきここでも紹介していきたいと思う。

ひとりの子供が、赤ちゃんにしましても、もう少し大きい子でも、今日はあっちの方までおもいっきり歩いて行きたい、と思ったら、どこまでもどこまでも歩いているような、そんなことが夢でないような保育をしてきたい、大地保育とはそういう子供を育てることじゃないかなぁと考えるわけです。
で、子供がやりたちということを、熱心にやった時のそのエネルギーっていうものは目に見えないけれども、今日はこれをやりたい、紙なら紙を一日切っていたいというような時に、それを一生懸命やり通させる。そのエネルギーのようなものが、今度、もう一度体の中に深く入っていく、そういうことが自己確立とか、自己統制とかいうものに育っていくんじゃないのか。これはもう、全く、ゼロから出発した私の哲学のようなもので、学者が聞いたら、何をおかしなことを言うのだと、お思いになるかもしれませんけれども、私は子供が遊んでいる時のエネルギーが、もう一度心の中へ入っていった時に、本当の子供のエネルギーに変わっていくんだというふうに考えるわけです。そして、どんな厚い壁も突き破ってしまうような、幼児期の、自分を外へ出す、自己確立という時期に充分それをさせてあげれば、今度は、一生における一番輝かしい時期である思春期を大変楽しく、美しく迎えることが出来るのではないかなぁというふうに考えます。(『私の大地保育』塩川豊子/大地教育研究所)

乳幼児期の豊かな経験、特に内発的な動機付けを起点とした、環境への主体的な働きかけとしての遊びが、社会情動的スキルの基盤になる、ということを書いているのだと、私は思う。
現代の保育に通じる論理を、豊子さんは1980年代前半には既に看破していた、ということなのだろう。

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