私と彼のこと(445)-はじめの6歩-

1歳2ヶ月を2週間も過ぎた彼は、実はこれまで一向に歩こうとしなかったのだが、家族はそれほど心配していなかった。
…というのも、「その気にならないだけでしょ」と予想されていたから。

ここ数カ月で、高這いのスピードは上がる一方だし、伝い歩きは一流クライマーのトラバース並みに自由自在になった。
どこにも掴まらずしっかり立つだけでなく、何回も膝を屈伸したり玩具を投げたりするのを見ていたので、筋力も平衡感覚も十分に発達していることは判っていた。
要するに、「抱っこしてもらった方が楽だし、別に歩かなくてもいいや」とノンビリしているだけだろうと捉えていたのだ。

昨晩のこと、いつものように部屋の真ん中にスックと立ち、私を「おいで、おいで」と手招きするので、対抗して私も「おいで、おいで」と彼を呼び寄せてみた。
すると、ぎこちなさもなく平然と歩み寄ってきた。
その歩数、実に6歩。

家族全員のスタンディングオベーションに、満面の笑みで堪えた彼は、その後も数歩歩いて見せては、家族に要求するように自分で拍手していた。
何とも偉そうな彼なのである。

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