
ソリッド・エア
Ⅰ
目玉が動く
目玉が動く
こちらを凝視する
そこに宿る影は何者
目玉が動く
こちらを凝視する
空気を凝固する
比重の大きな灰色
沼へ 沼へ
頽廃の沼へ
何をも見えぬ愚かな君を
この沼へ誘い込む
ソリッドエア
ソリッドエア
ああ
彷彿として待ちくたびれた確固たる死の中へ

Ⅱ
脚が震える
脚が震える
大地が歪んでいる
身の投影の中に潜むのは誰
脚が震える
大地が歪んでいる
撓む地面に引き摺り込まれた
かりそめの水色
沼へ 沼へ
頽廃の沼へ
我楽多の戯言しか吐けぬ
愚鈍な君をここに歓迎してやろう
ソリッドエア
ソリッドエア
潤沢の空気を吸ったかと思ふ君
鼻腔に流れ込んだのは甘い甘いコンクリィトだ!

Ⅲ
空を見る
空を見る
事実はそこに見えるのは絶対の宇宙でなく
絶対の宇宙に見つめられた君
空を見る身体は脆く油断する
生存本能の欠片をもぎたぎたに駆逐する
降ってくるのはパルチザン
斬り広がった紅
壁へ 壁へ
韜晦の許されぬ壁へ
慰めを求めてやってきた愚かな蝿には
瞬間的な猛毒で存在を亡きものに
ソリッドエア
ソリッドエア
そろそろ見えてきただろうか
見えるはずのない人間の苦しみが

Ⅳ
謙遜をください
謙虚をください
立派をください
虚飾をください
憤怒をください
純粋をください
傲慢をください
怠惰をください
堅実はありますか
誠実はありますか
向上心をください
欲求もください
ソリッドエア
ソリッドエア
たくさんいただいたお返しに
あなたには呪縛を差し上げませう

Ⅴ
剥奪する
剥奪する
浮ついた強欲と慢心をその身体から
内側から綻ぶ最高の傑作
剥奪する
その笑顔を奪って見せる
こびりついた皮脂の下に潜む
弱く儚く脆く小さい夢を
沼へ 沼へ
頽廃の沼へ
残ったものは全て
光の届かぬ最奥の闇へ
ソリッドエア
ソリッドエア
あなたは多くのことを知りすぎた
その代償は甘んじて受けてもらおう

Ⅵ
浮遊する
浮遊する
誰にも見つからずに勝手にどうぞ
この私だけはいつもあなたを見つめている
歩け 歩け
秩序なく広がるこの地で好きなだけ抗え
身勝手な蹂躙の後始末は
ちゃんとあなたにやってもらうわ
壁へ 壁へ
韜晦の許されぬ壁へ
虚栄だけの向上心の果てにあるのは
目も当てられぬほど空虚な微笑
ソリッドエア
ソリッドエア
我が道を進むと同時に
道は恐ろしくも狭まってくる

Ⅶ
比重の思い空気の中で
身体は着々と融解されてゆく
最期に待ち受けるのは
抽象的に残ってしまったわけのわからぬ信念を
大いに嘲笑う世論だけ
ソリッドエア
ソリッドエア
どうかもう気づいてくれ
角はとれてこそ価値あるものなのだ
ソリッドエア
ソリッドエア
その貧弱な身体と精神で一体何ができるのかと
倦怠渦巻く個性のない闇の渦では
もう何もできやしない
ソリッドエア
ソリッドエア
あなたは多くのことを知りすぎた
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