映画『TENET』~ストーリーのネタバレ無しで考察~逆行する時間の中で生きることは不可能?
クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET(テネット)』やっと観てきました!
ずっと注目していた作品で、私のサイトで昨年末にこんな記事を書いています。
●「クリストファー・ノーラン監督『TENET(テネット)』予告編からストーリー考察」(主人公はタイムリーパー?)
2019/12/21 Back to the pastより
※ストーリー予想はいい線をいっていましたが、主人公が「タイムリーパー」という予想は見事に外れました(笑)。
さすがノーラン監督、想像を超える映画でした。
ちなみに初見は純粋に作品を楽しみたかったので、予告篇動画を見ただけ。予備知識なしで鑑賞しました。
ワーナー ブラザース 公式チャンネル映画『TENET テネット』本予告/YouTubeより
感想として、ストーリーは複雑・難解で、普通の人が1回見ただけですべて理解するのは無理でしょう。
でも映画としてすばらしい!
何回でも鑑賞して自分なりのアイデアを考察してみたくなる、ノーラン監督作品の真骨頂です。
映画を見た後すぐに帰宅して、さまざまな考察サイトや考察動画を見まくり、自分なりに考えた物語の答え合わせをしました。
ある意味、推理小説的な楽しみ方もできる作品です。
それともう1つ、「反粒子」とか「エントロピー」とか「対消滅」とか「祖父のパラドックス」とか、聞きなれない単語がちょくちょく出てきます。
タイムトラベルやSFに詳しくなければ、その時点で「???」となるかもしれません。
でも最初は深く考えず、女性の科学者がアドバイスするように「頭で理解しようとせず、感じて」見れば、未体験の映像世界を楽しむことができると思います。
さて前置きが長くなりましたが、複雑なストーリーの考察は他におまかせして、この映画のテーマ「『時間の逆行』する世界で、われわれは生きていけるのか?」を考察してみます。
われわれは「時間の逆行する世界」では生きていけない。
いきなり結論を書いてしまいましたが、理由を以下に説明します。
なお注意したいのは、「時間の逆行」現象は現実にも存在します。
われわれがその中では生きてはいけないだけです。
反粒子とは、通常の粒子(電子や陽子など)と質量などの性質が同じで、電荷のみが逆の粒子です。
この反粒子(負の粒子)が通常の粒子(正の粒子)とぶつかると、「対消滅」して消えてしまいます。
そしてアメリカの物理学者ファインマンは、反粒子を「時間を逆行する粒子」と指摘しました。
ファインマンがミクロの量子の世界を表現した「ファインマン図」をご覧ください。
下記の図は電子とその反粒子である陽電子が反応する過程を表わしています。
縦軸は時間で、横軸は空間です。
電子(粒子)と陽電子(反粒子)がぶつかって対消滅し、光子が放出されます。
この図は次のように書き換えることができます。
未来からやってきた光子が過去から来た電子とぶつかり、電子が向きを変えて未来から過去へとさかのぼっていく様子ともとらえることができます。
このような「時間の逆転」は、実際に量子コンピューターを使ったシミュレーションでも確かめられています。
●「時間の逆転が量子コンピュータで実現」(過去へのタイムトラベルが可能になる?)
2019/3/17 Back to the pastより
しかし、われわれが「時間の逆行する世界で生きていけるのか?」というと、話は別です。
【理由その1】時間の逆行する世界で「正」の物質は生きられない
重要なポイントは、われわれの体を含めたこの世界の物質は、「正」の粒子でできていることです。
「時間が逆行する世界」にわれわれが入っていったとしましょう。
実際に映画後半でもその様子が描かれており(詳しくはネタバレになるので避けますが)、その世界ではわれわれは酸素マスクを必要とします。
※予告篇の中に出てくる酸素マスクを吸引している主人公の姿がそれです。
「時間が逆行する世界」では、「われわれの肺が酸素を取り入れることができないため(肺に酸素を供給し続ける必要がある)」と劇中で説明されます。
いえいえ、実際はそんな生ぬるいものではありません。
逆行する世界ではわれわれの世界の因果関係がすべて逆転します。
こぼれた牛乳がコップへと返り、にわとりはひよこから卵へ戻り、死んだ人が生き返って赤ちゃんへと縮んでいきます。
もう少し具体的に表現すると、死者が蘇り肉体が再生されていく過程は、ぼろぼろになった骨がくっつき、内側からうごめく内臓や肉と皮膚が少しずつ再生されていく……正の物質世界にいるわれわれの常識では考えられない世界なのです。
確かに量子のようなミクロの物質なら、ほんの一瞬であれば存在できるかもしれませんが、われわれのようなマクロの存在が、長時間その世界で(酸素マスクだけで)生きることは不可能でしょう。
【理由その2】粒子と反粒子が出会うと「対消滅」する
劇中でもこの「対消滅」について指摘されており、「逆行世界のもう1人の自分と接触するな!」と注意されます。
ですが主人公は実際にもう1人の自分と出会ってしまいます。そこをどう切り抜けるかは映画をご覧ください。
※あるアイテムがキーになります。考察動画で指摘されている方もいますが、そのアイテム自体が物理学の常識を覆す驚くべき発明です。
しかも作品中では量産されている模様。
われわれの体はさまざまな「正」の粒子で構成されています。
だからもう1人の自分に出会う前、というか反粒子世界に一歩足を踏み込んだ瞬間、上のようなアイテムを使わない限り対消滅してしまいます。
なぜ今回作品のテーマを否定するような考察をしたかというと、私のライフワークである「タイムトラベルの実現性」を語る上で、時間の逆行する世界を利用したタイムトラベルは不可能という事実を説明したかったからです。
われわれ正の物質が生きられる世界は、正の粒子の世界しかありえません。
たとえ時間の逆行に成功しても、普通に考えれば自分の肉体や記憶まで巻き戻ってしまい、タイムトラベルの事実が消えてしまいます。
だから過去に戻ろうとするならば、「ワームホール(時空のトンネル)」を利用する方法や、「CTC(閉じた時間の輪)」を利用する方法など、正の粒子の世界だけで成立する方法を考える必要があります。
※タイムトラベルする方法について詳しくは、下記を参照ください。
●時間旅行入門
2018/9/27 Back to the pastより
最後に、時間が逆行する世界での生存は否定しましたが、『TENET』という作品が描く時間の「逆行」と「順行」が共存した世界はまさに「未体験の世界」で、連動する音楽とも相まって、すばらしい映画です。
映画館での鑑賞をぜひお勧めします。
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