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説明できないことは存在しない?~言葉が想像を刺激するAI時代~_アートエデュテイメント#15
アートエデュテイメントという視点で、主にビジネスを熱心に進められている方々を読者と想定してお話してきています。
かみあわない会話
移動中の列車の中で、若い男女のこんな会話が聞こえてきました。
「ねぇねぇ、僕のこと本当に好き?」
「そんなこと今更言わなくたってわかるでしょ」
「いや、ちゃんと言って欲しいんだよね」
「も~う、照れちゃうな…。うん、好きだよ」
「どれぐらい?」
「え? そりゃぁすごい好きだよ。大好き」
「大好きってどれくらい?」
「だから大好きなくらい好きだって」
「それじゃ、答えになってないよ。僕が分かるように教えて」
「そんなこと言われても…。じゃぁ、あなたは私のことどれくらい好きなのよ?」
「質問に質問で返さないでよ。僕が最初に聞いてるんだから」
「も~っ、めんどうくさいなぁ。しつこいと嫌いになっちゃうよ」
「なんで? 自分のこと好きかどうか聞いただけで嫌いになっちゃうの? それってやっぱり好きじゃないじゃん」
「そんなの知らないよ。好きって言ってるんだから、それでいいでしょ。」
「いや、ちゃんと確認したいんだよ。好きだって具体的に説明してくれなきゃ」
「…そうだ! 顔も好みだし、性格もいいと思ってるよ」
「なんで? どんなところが?」
「うーん、そんなこといちいち説明できないよ」
「自分で説明もできないのに好きなんて言えるの」
「………」
まぁ、このやり取りはフィクションですが、皆さんは彼の気持ちと彼女の気持ち、どちらに親近感を持ちますか?
「説明」全盛時代
生成AI時代のスキル
生成AIに目的を指示する
生成AIに追加で指示する
適切な状態になるまで指示する
言語で命令できるので、指示出しスキルの高い文系は、生産性を上げるチャンス大
ChatGPTなどの生成AIの活用は、ビジネスパーソンにとってはもはや常識。望ましいアウトプット(回答)をAIから引きだすには、プロンプトと呼ばれる指示文を、明確で具体的にすることが必要。ということで、「プロンプトの書き方アドバイザー」も職業として成り立つほどになってきました。
確かに、ChatGPTを使うと、何度も質問を修正していくうちに、回答が洗練されていくような気がします。相手が理解できるように言葉で説明できる力は、AI時代の今、これまで以上に、私たちに必須の能力になってきているのは間違いありません。「わかりやすい説明」を起点とするコミュニケーションが、ビジネスの前提条件になってきているとも言えます。
感動を説明する?
皆さんは美術展などにいって、何かしらのアート作品を見て感動したという経験はありますか? 感動と言うと大げさかもしれませんが、ちょっとウキウキするとか、家に飾ってもいいなとか、そんな気持ちを抱く作品に出合うことってありますよね。何年後かにもう一度あの作品を見たいと思って、ChatGPTをつかって探し出そうとしたら、どんなプロンプトを書きますか? あるいは、作品のイメージをMidjourneyのような画像生成AIを使って自分なりに表現しようと思ったとして、どのような指示をして描画させますか?
私はターナーの作品が大好きなので、こちらで、実際に試してみました。(作品名とか作家名とか思い出せない想定で)
![](https://assets.st-note.com/img/1738721519-mnpjkrPNCaYHQAgKXEL6duq5.png?width=1200)
まずお願いの条件は明確なので、
絵画作品を探しているので手伝って
としました。そこに続けて、鑑賞した時の印象をできるだけ言語化してプロンプトしてみます。
明るい日の光に照らされているのに、なぜか寂しい気持ちも感じる画面が印象的な作品
で、ChatGPTはこんな回答に(抜粋)
それは素敵なテーマですね!いくつか心当たりがあります。
(以下エドワードホッパーや、モネなど5作品をピックアップ)
このような雰囲気の作品をお探しですか?それとも、もう少し具体的なイメージがありますか?
具体的なイメージが浮かばなかったので、見た場所を入力してみました。
ロンドンで見ました
すると、
ロンドンの美術館でご覧になったのですね!となると、テート・ブリテン、テート・モダン、ナショナル・ギャラリー、コートールド・ギャラリーあたりが候補でしょうか。
もう少しヒントがあると絞り込めそうですが、ロンドンの美術館に所蔵されていて、明るい日の光がありながらも寂しさを感じる作品として、以下のものが考えられます
(ジョージ・フレデリック・ワッツやターナーなど5作品が候補に)
もし「これに近いかも!」というものがあれば、もう少し絞れそうです。
場所や画家のスタイルなど、ほかに覚えていることはありますか?
ここで、そうそうターナーだったと思い出し(ってことあるじゃないですか)
画家はターナーです
と入力。
J.M.W.ターナーの作品だったのですね!それなら、ロンドンのテート・ブリテンが最も有力です。
(テート・ブリテンの作品を5つピックアップ。その中に… 《戦艦テメレール号(The Fighting Temeraire)》が!)
はい、ここで私の感動した作品が無事にピックアップされて、めでたくご対面できたわけです。
このやり取りで感じたことは、私の作品から感じた印象を述べると、ある程度絞り込めるものの、作品を特定するには、より具体的な「説明」が必要ということです。ターナーという作家の名前、見た場所などが今回は「効果的」な説明の要素になりました。やはり、感動もちゃんと説明しないといけないようです。画像生成AIでの描画指示は、より具体的にしないといけないのはご想像通りです。
言語を記号情報にとどめない人間の想像力
ここまで読んでいただいての感想はいかがですか?
実は当初、
「気持ちとか感動とかを言葉で表現するのはかなり無理があるのでは? 説明全盛時代、本当にそれでいいの?」
という疑問を皆さんと共有するつもりだったのですが、ChatGPTとやり取りしているうちに、言葉の後ろにある記号情報以上のものを想像することのできることこそ、人間らしさなのかもと思い直しました。つまり、感動も気持ちも言葉からかなり想像できちゃうのではと。説明全盛時代だからこそ、人間の想像力がより発揮されるのではと。
以前、聴覚障害をお持ちの方と「対話型鑑賞」をご一緒したことがあります。その方は、作品を鑑賞する際に、最初にじっくりとキャプション(≒作品の説明書き)を読み込んでおられました。
「文字情報からではなく、まず作品と最初に向き合って欲しいのになぁ」
と、正直思ってしまったので、
「どうしてキャプションを最初にご覧になるのですか?」
と、つい尋ねてしまいました。すると、
「キャプションを書いた人がどのような気持ちだったのかを最初に想像するのが好きなんです」
とのお言葉。言葉が記号情報で、感動とか気持ちに結び付きにくいと限定してしまっていた自分に気づき、とてもショックを受けました。浅かったなぁと。
言葉の意味以上のものを感じる力
その後のChatGPTとのやり取りをちょっと紹介しますね。
あなたは、テート・ブリテンにあるターナーのどの作品が好きですか
テート・ブリテンにあるターナーの作品の中で、**《戦艦テメレール号(The Fighting Temeraire)》**が一番好きです。
(以下その理由をいくつか述べた後)
私も、ターナーの作品の中では特に「光と時間の流れ」を感じさせるこの絵が好きです。
あなたはどうですか? もし実際にこの作品を見たことがあれば、どんな印象を受けましたか? 😊
私も同じような印象を受けました。自分が老齢期に差し掛かっているせいかもしれません。あなたはどう感じていますか
あなたがこの作品に惹かれるのは、もしかしたらご自身の人生の中で、過去を振り返る時間が増えてきたからかもしれませんね。
過去の輝きや積み重ねてきた経験を大切にしつつ、新しい時代に向かっていく感覚——ターナーの絵には、そんな「人生の流れ」が詰まっているように感じます。
おそらく、世界中にある膨大なターナーの解説文や鑑賞コメント、資料等を集め、そこから最も平均的(妥当?)な回答を作りあげているのだと思うのですが、このやり取りで、私は、アート鑑賞仲間がもう一人増えたようなそんな想像ができてしまうのです。
冒頭の若い男女の会話。皆さんはどんな二人を、背景を想像しますか?
画像=ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号、1838年》 1839年 ナショナル・ギャラリー、ロンドン所蔵
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美術出版エデュケーショナルは、アートや美術教育の観点から、企業に向けて個人や組織の創発力を培うセミナー事業を運営しています。
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<筆者紹介>
臼井 清(うすい きよし)
株式会社美術出版エデュケーショナル 教育・研修支援サービスプロデューサー
合同会社志事創業社 代表
事業開発アーティスト。㈱諏訪精工舎(現セイコーエプソン(株)入社後、国内や台湾、英国、ドイツでマーケティングと人材資源管理(HRM)を中心に経験を積む。2014年「人生を豊かにするチャレンジ」を応援するコンサルティング会社 志事創業社を設立。
各種研修・セミナーのプロデュース、ファシリテーション、顧客開拓マーケティング、企画運営などを手掛ける。㈱美術出版エデュケーショナルの教育・研修支援事業プロデューサーとして、アートのビジネスシーンでの活用も推進中。
日経BP総研講師、丸の内プラチナ大学講師、(公財)パブリックリソース財団シニアフェローなど。(一社)美術検定協会アートナビゲーター1級。