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【伝えておきたいブルースのこと】⑪聖なる歌と悪魔の音楽

ブルースのすぐ隣にあるキリスト教

 「ブルースは悪魔の音楽」という言葉を聞いたことがある人もいるだろう。敬虔なキリスト教徒の中には、ブルースを歌うことは汚らわしいと考える人がいたのも確かだ。だが、チャーリー・パットン、ブラインド・レモン・ジェファスン他、ブルースで名を成したミュージシャンでキリスト教の宗教歌も録音している者は多い。

 黒人キリスト教徒たちが歌った宗教歌、「ニグロ・スピリチュアルズ(黒人霊歌)」は19世紀半ばから白人たちに注目されてきた。黒人のための大学として創設されたフィスク大学の資金を集めるため、1871年には黒人霊歌を歌うフィスク・ジュビリー・シンガーズがツアーを行なっている。

 デルタ・ブルースマン、サン・ハウスは元説教師で、彼の歌には1920年代にたいへんな人気を博した説教師J・M・ゲイツ師の影響が見て取れる。サンは1930年の〈プリーチン・ザ・ブルース〉の中で宗教とブルースの間で揺れ動く気持ちを歌った。

ああ、信仰を持ちます、主よ、今日にも
そう、信仰を持ちます、主よ、今日です
でも女と酒が祈らせてくれない

ルイジアナ州フォルス・リヴァーのアルマ・プランテーションにて、
教壇に立つバプティスト教会の説教師。
1934年7月撮影 Alan Lomax / Library of Congress

 盲目のギター伝道師、ブラインド・ウィリー・ジョンスンはそのスライド・ギターとザラついた歌声で、通りを歩く人々を惹き付けていた。ジョンスンはブラインド・ウィリー・マクテルと行動をともにしていた時期がある。マクテルはブルースもスピリチュアルズも歌ったが、ジョンスンには世俗の歌の録音はない。一方、同じ盲目のギター伝道師、ブラインド・ジョー・タガートはブラインド・パーシー&ヒズ・ブラインド・バンド名義でブルースも録音している。

 牧師の息子として生まれたトーマス・A・ドーシーは、ジョージア・トムの名で数々の世俗ヒットを出した。タンパ・レッドとの〈イッツ・タイト・ライク・ザット〉(1928年)は中でも有名だ。その後宗教歌の作曲に専念、〈プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド〉などを生み出し、最も偉大なゴスペル・ソングライターとなった。1920〜30年代にブルースを吹込んでいたロバート・ウィルキンスとルーブ・レイシーは後に牧師となり、二度とブルースを歌うことはなかった。

 このようにブルースと宗教歌の間を行き来した人の例はいくつもある。確かなことはアメリカ南部に住むほとんどの黒人にとってキリスト教と教会は生活の中で大きな存在であったこと。ブルースの歌詞にも、キリスト教の教えが見えるものもあり、両者は切っても切れない関係にあると言える。

ロバート・ジョンスンが眠るミシシッピ州グリーンウッドのザイオン教会。
2014年筆者撮影
Goodbye, Babylon
(Dust-to-Digital DTD-01) [2003]
CD6枚組の宗教歌(セイクレッド・ソング)集。1902〜60年の録音から、黒人、白人を問わず、ギター伝道師、ゴスペル・カルテット、カントリー・グループ、カリプソ・シンガーなど、様々なスタイルの演奏を収録している。1枚は説教集。200ページのブックレットには、全曲の解説・歌詞が掲載されている。ボックスには本物の綿花も封入

文:濱田廣也


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