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【伝えておきたいブルースのこと】⑰リストラで進化
華やかに浮上するリズム&ブルース
リズム&ブルースという言葉はやっかいだ。1949年に当時ビルボード誌の記者だったジェリー・ウェクスラーが、黒人音楽のレコード・チャート名「レイス・レコード」の代わりに付けたのが「リズム&ブルース」だった。その名から「リズムの強調されたブルース」を指す言葉として使われたり、広くブラック・ミュージックを指す言葉としても浸透している。非常に曖昧な言葉である。
ここで言う「リズム&ブルース」をおおまかに定義するならば、1940年代から登場した都市型ブルースとなる。そのスタイルは多種多彩であるが、アップテンポの曲は主にブギ・ウギのリズムを持ち、ジャズのハーモニーを用いた管楽器を含むバンド編成が多い。歌詞は都市黒人の生活を反映したウィットに富んだものもあれば、より普遍的なラヴ・ソングもある。文字通り声を張り上げるようにして歌う「シャウター」(ワイノニー・ハリス、ロイ・ブラウン、ビッグ・ジョー・ターナー等)や、ノイズに近い濁音や調子外れの高音まで吹き鳴らす「ホンカー」(イリノイ・ジャケー、ビッグ・ジェイ・マクニーリー、ハル・シンガー等)と呼ばれるサックス奏者もこの時期に頭角を現した。簡単には定義できない幅広さはあるが、総じて洗練された中にも過度なまでの熱気、黒人音楽としての躍動を感じさせる。
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(Bear Family BCD 16700〜15)[2004/06]
独ベア・ファミリー・レーベルによるCDコンピ・シリーズ。
1945年から60年まで、1年ごとにヒット曲、歴史的名曲を収めた構成は、リズム&ブルースの歩みを知るのに最適。一口に“R&B”と言っても、豪華なビッグ・バンドR&Bもあれば、泥臭いブルースもと、その多彩さが楽しい。各巻には70〜90ページに及ぶ、立派なブックレットが付く
そのリズム&ブルースを代表するのがルイ・ジョーダン(1908-1975)だ。チック・ウェブ楽団で頭角を表わしたルイは独立後の1939年にティンパニー・ファイヴ(5〜7人編成)を結成。ビッグ・バンドがまだ優勢だった時期にスモール・コンボで勝負に出た。ルイは1942年から51年までに57曲をR&Bチャートに送り、うち18曲をナンバーワンにした。映画にも出演するなど、トップ・スターの座に君臨する。サックス奏者のルイを含むバンドの隙のない演奏は、エンタテインメント精神あふれる曲を小気味よく仕上げ、その後に登場する小編成リズム&ブルースの手本となった。
北部、西部、東部の各地で起きたリズム&ブルースの波はレコードや電波を通して、南部のブルースにも影響を与えることになる
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1946/48年頃撮影。 William P. Gottlieb Collection / Library of Congress
文:濱田廣也