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【伝えておきたいブルースのこと】⑨ブルース整理術
スタイルや地域で捉えるブルースの多彩さ
1920年から始まったブルースのレコーディングは、1929年10月のウォール街の株大暴落にともなう世界恐慌までは順調だった。録音機材の進化により、機材を南部に持ち込む「出張録音」も行なわれるようになったことで、各地のミュージシャンの録音が可能となった。
この時代のブルース・レコードを整理するのによく用いられるのが、地域ごとの分類である。「ミシシッピ・デルタ・ブルース」「メンフィス・ブルース」「ジョージア・ブルース」「テキサス・ブルース」といった具合に、ミュージシャンが拠点としていた地域ごとに分けるのである。こうすることで、地域ごとに特色がみえてくることもある。
復刻レーベルの老舗ヤズー・レコードに『イースト・コースト・ブルース 1926-1935』という編集盤がある。ノース・カロライナ、サウス・カロライナ、ヴァージニア、ジョージアといった東海岸出身あるいは同地を活動拠点にしていたギタリストを収録している。そこで主に聴かれるのはフィンガーピッキングによる軽快なラグタイム・ギターで、この地域に根付いたスタイルと見ることができる。
より狭い地域で独自のスタイルが育まれた例も多い。ミシシッピ・デルタ地帯から少し外れた、ミシシッピ州ベントニアを拠点としたスキップ・ジェイムズのスタイルは、同地で小さな一派を生み出し、「ベントニア・スタイル」と呼ばれている。トミー・ジョンスンを筆頭に、イシュマン・ブレイシー、ウィリー・ロフトンらは「ジャクスン・ブルース」(ミシシッピ州ジャクスン)を代表するが、チャーリー・パットンやサン・ハウス、ウィリー・ブラウンのデルタ・ブルースとも共通する部分があり、両者の交流の痕跡をレコード上でも確認することができる。またミシシッピ・デルタやテキサスではフィールド・ハラー調のヴォーカル・スタイルがよく見られたり、ジョージア州アトランタでは12弦ギターの使用が目立つという指摘もある。これらは各地域で力を持ったブルースマンのスタイルがフォロワーを生んだと見るのが自然だろう。
また使用楽器の編成によって、「ストリング・バンド」「ジャグ・バンド」「ウォッシュボード・バンド」「ギター&ピアノ・デュエット」等と分類することもある。もちろん楽器編成は音楽スタイルの特徴に影響を与えてもいる。
時代とともにレコードの普及によって各地域の特性は徐々に薄れていく傾向にあった。ロバート・ジョンスンの作品には、彼の生まれたミシシッピ・デルタ以外のミュージシャンからの影響が色濃く出ていることは、よく知られている。1920年代の録音で見られた、地域による多様性が、しだいに失われていったのは確かである。だが、それによってブルース自体の魅力が薄まったわけではなかった。
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(RBF 15)[1966]
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(日本ビクター/RCA RA-5433~35)[1971]
日本のブルース・ファンのバイブルとなる編集盤。「初期のカントリー・ブルース」「メンフィス・ブルース」「ジャグ・バンド」などの分類がなされている
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(Magpie PY4411) [1979]
テキサス・ピアノのサンタフェ一派をまとめた編集盤
文:濱田廣也