陸上オタクな僕は蘇炳添(ソヘイテン)の走りに歓喜した
皆さん、東京オリンピックはご覧になっているだろうか?
私はオリンピック自体には、実はさほど興味がない。
しかし、陸上競技がオタクレベルで大好きなので、陸上競技だけは欠かさず見ている。
そんな折、令和3年8月1日、とんでもない歴史的なレースを目撃することになる。
男子100m準決勝3組目。
中国の蘇炳添(ソヘイテン)が、9秒83という常軌を逸した記録を叩き出し、決勝へと駒をすすめたのだ。
陸上オタク歴15年の私は、この蘇炳添の偉業を世間の人々に正確に伝わってないことが悲しく、今このnoteを書いています。
ぜひ皆さんに蘇炳添氏の素晴らしさを感じていただきたい。
そもそも陸上オタクの私が蘇炳添氏の存在を知ったのは、自分が高校生の時だっだと思う。
もちろん陸上競技部に所属していた私は、陸上オタク(予備軍)で当時も世界の選手を調べる日々をしていたと記憶している。
当時から蘇炳添は中国記録を所持していたこともあり、中国の代表的な選手としてしられていた。時を同じくして中国短距離界で活躍した張培萌(チョウバイホウ)・謝震業(シャシンギョウ)とともに、4継(4×100mリレーの通称)で日本を脅かす存在として注目されていた。
特に100mで10秒00を出した張培萌と10秒06を出した蘇炳添は、桐生祥秀をはじめとする日本短距離勢とともに、誰が黄色人種初の9秒台を出すのか、鎬を削っていた。
そんな中、2015年に蘇炳添は黄色人種初となる100m9秒台を樹立し、一躍アジア陸上界のスターとなった。
余談だが、蘇炳添をあえて黄色人種初の9秒台と記載するのは、「アジア初」ではないからである。
蘇炳添が9秒台を出す前にアジア人として9秒台を記録した選手は2名いた。しかし、どちらも他国から国籍変更である為、蘇炳添はアジア3人目、黄色人種初の9秒台となる。
その年、世界陸上北京では、蘇炳添は世界陸上でアジア人初の100mファイナリストとなり、4継では日本のアジア記録を超えた記録を出し、銀メダルを獲得するまで活躍を見せた。
その後、2017年世界陸上ロンドンでも100mでファイナリストなる。
また、室内大会でも好成績を連発、60mでアジア記録・世界歴代5位(室内)の記録も所持している。
2018年には100mの記録を9秒91まで伸ばし、アジア記録を世界レベルへと躍進させた。
正直、これまでの経歴でさえアジアの伝説的な陸上選手と言える。
が、しかし、私が今回話をしたかったのは、今年2021年東京オリンピックでのからの偉業なのだ。
東京オリンピック男子100m。
予選を難なく通過した、蘇炳添の準決勝。
号砲の刹那、明らかに他の選手から半歩以上前に出る。室内の60mで好記録を持つ蘇炳添の、スタートダッシュが決まる。
40mを過ぎたあたり、未だ先頭を走る蘇炳添の様子が変化する。
どこかキツそうな走り。
解説では疲労と表現されていたが、私個人の見解は違う。
もちろん疲労がなかったわけではないが、自分自身の会心のスタートのあまり、スピードに乗れ過ぎてしまい、脚の回転がから回っているように見えた
そう見えるほど、会心のスタートだったのだ。
気づけば蘇炳添の横に並ぶ、イタリアのジェイコブスとアメリカのカーリー。もちろんどちらも実力者だ。
蘇炳添はフォームが不自然な形に崩れながら、ラストの粘りを見せ、ゴール前でトルソーを突き出し、組一着で決勝へ進んだ。
陸上を普段見ている方なら共感いただけるだろうが、アジア人が100mを着順で決勝を決めるなんてとんでもない快挙だった、しかも1着で。
テレビの前で観戦していた私も、思わず歓喜の声をあげてしまった。
しかし驚くことはそれだけではない。
レース後、私の目線、いや、観戦していた全ての人たちの目線は、そのタイムへと集中する。
“9秒83”
“アジア新”
“世界歴代12位”
とんでもない記録が誕生する瞬間を目撃してしまった。
一時期はアメリカvs.ジャマイカの独壇場だった、あの100mの世界に、いちアジア人が堂々と名乗りを上げた瞬間だった。
ゴール後、正式タイムを見た瞬間、両の拳を天に掲げて、叫びながら仰向けになる彼の姿に、男ぼれせずにはいられなかった。
しかも、後半崩れてのあのタイム。
時期に9秒7台も夢じゃないと思わせてくれる走りだった。
蘇炳添の走りで僕が気になった点が2点ある。
1点目はスタブロに着いた際の、肘の角度である。
一般的にスタート時は、肘関節を目一杯伸展する。なぜなら自身の体重を大きくかけるため、つっかえ棒状にして身体を支える為だ。
しかし、彼は肘関節をやや曲げた状態でスタブロにつく。
皆さんも一度試してみて欲しいのだが、肘関節を曲げたままクラウティングスタートしようとすると、セットで腰を上げた体勢がかなりしんどい。
このしんどい姿勢をあえてすることに、あのスタートダッシュの秘密があるのではないか。
2点目は高く上がった腿だ。
陸上に馴染みのない方は、腿を高くあげるのは当たり前では?と思われるだろう。
しかし、陸上界ではそれは一昔前の論だ。
今は膝の位置は高くなくていいとされている。
特にアジア系の人種は、欧米人と骨盤の角度が違う為、脚を高く上げる必要がないのだ。(僕が現役時代の話で、今理論が進化して変わってたらすみません)
また、日本記録を待つ山懸選手も、数年前の取材で脚をもっと低く動かしたいと言っていました。
しかし、蘇炳添は腿を高く振り上げて、欧米人のようにダイナミックに走ります。
その姿は、僕の固定観念を激しく蹴飛ばすような感覚で、衝撃を覚えました。
準決勝で大記録を出した蘇炳添ですが、決勝では疲れが見え、準決勝ほどのキレがないまま6位となりました。
冷静に考えて世界6位って、ばりヤバいんだけども。
しかも決勝のタイムは9秒98。
あのメチャクチャな走りで9秒台かよってのと、1日に2本も9秒台で走れんのかよっていう、ダブルの衝撃でしたね。
ちなみに優勝したのはイタリアのジェイコブス、決勝で自己ベストを出して初優勝でした。
しかし、蘇炳添は準決勝ではジェイコブスに先着していて、しかもその時のジェイコブスはかなりいた走りでした。
蘇炳添は、もしかしたら今後世界でメダルを取る選手になるかもしれないという夢を、僕らに見せてくれました。
僕は今回の蘇炳添の走りに惚れ、タイムに歓喜し、決勝の善戦に感動しました。
今後、もっとたくさん大記録を大活躍を見せて欲しいと切に願っています。
それと同時に蘇炳添を超える日本選手が誕生するのが楽しみで仕方ありません。
僕はただの陸上オタクとして、その大記録誕生の瞬間をこの目にするのを楽しみにしています。
※100mの決勝を見て、いてもたってもいらず書き殴りました。選手等の情報、誤りがあったらすみません。