Rローズトゥロード TRPGリプレイ「ある語り部の物語」 その5
「遠い昔。まだこのギュノロンが小さな村であったころ」
「ここより北に1000里も行ったところに1人の人食いがいた」
「いや、1人という表現は正しくないのかもしれない。何しろその人食いは魔族だったからだ」
「かのものは、人を食うことを何よりの喜びとしていた。」
「村を襲い、男を食べた。女を食べた。子供を、老人を、、時には村1つを飲み込んだことすらあった」
「人を食べるごとに、魔物は力をつけ、知恵を手に入れた。人もそれに対抗しようと、武装して立ち向かったが」
「すべては魔物に飲み込まれることになった」
「やがて、人は、魔物にはむかうことをやめた。代わりに魔物に生贄をささげて犠牲者を減らすことにした」
「毎年、1人。村は魔物に生贄を捧げた。12の村がそれに加わり、月に1度、魔物のもとに贄は届けられた」
GM ここまでを語って、語り部はすっと息をはきます
語り部「この話、どう思う?」
レオノラ「どこかで聞いたようなお話だって思います。私も婆サマにそういう話、聞いたことがあるような……」
GM なるほど。確かに人食いの話はありふれておるの。」
プリム「生贄の人はみんな消えてしまったんです……?」
語り部「生贄がどうなったか、気になるか……それでは話を続けよう」
「魔物は、最初生贄に満足していた。出かけなくても食べ物が届けられるのだ。これは楽だと喜んだ」
「だが、次第に退屈するようになった」
「繰り返される日々、届けられる贄、それは新鮮味に欠け、退屈が魔物を蝕んでいた、そんな折」
「1人の娘が魔物のもとに届けられた」
「ガリガリにやせた、娘というより、少女といったほうがいい年齢の女であった」
「食べがいのないその姿をみて魔物は失望し、食べる以外にこの女に使い道はないかと考えた」
「だが、食べることしかしてこなかった魔物にとって、それを考えるのは難しいことだった」
「そこで、魔物は少女に問うた。自分はお前をどうすればいいかと」
「少女は物怖じもせずに答えた」
語り部「さて、ここで問題じゃ」
レオノラ「……うん?」
プリム「問題ですか……?」
語り部「少女はなんと答えたと思う?その1」
『早く殺してしまいなさい。そうすれば、貴方は次の食べ物にありつき、退屈をしなくなる』
語り部「その2」
『貴方は私を友達にすればいい。そうすれば、貴方は退屈しなくなる』
語り部「さぁ、どっちじゃと思う?」
プリム「その1でしょうか……?」
レオノラ「うーん。2かなぁ。生贄としてくるぐらいだから、時間稼ぎぐらいはしようと思うでしょうし、殺されたくはないでしょうし」
語り部「さてさて、どちらじゃ?答えを決めてもらおうか」
レオノラ「あら?答えってどっちかにしないといけないんですね」
語り部「間違えれば、それなりの罰がまっておるからの」語り部は怪しく笑います
レオノラ「罰ですか……?何だか変わった趣向ですね……??」
プリム「じゃあ、2です!」
レオノラ(きょとんとしながらも)「うん。じゃあ2でいきましょうか」
語り部「2人とも2でいいんじゃな」
プリム(こくこく)
レオノラ「はい」
語り部「ふふふふ」
語り部「然り!」
語り部「少女は言った、私を友達にすればいいと」
レオノラ「……あ。正解かぁ…」」
プリム「ふぅぅ……大分分かってきたです……。この物語の仕組みが……」
「そこから、魔物と少女の共同生活がはじまった」
「それは、魔族の集会であった。農村の平和な風景であったり、人間の魔法の力でもあった」
「二人は互いを理解するようになった。だが、魔物が食事をする時のみは、少女はいつも悲しみの表情を浮かべていた」
「なぜ、そのような顔をするのか。魔物は問うた」
「心が痛むからです。少女は答えた」
「魔物にはその答えが理解できなかった。魔物が人を食べたからといって、少女には何の害もない。魔物は少女に触れることすらしたことがなかった」
「触れてしまえば、脆い肉体しかもたない少女の身体は、壊れてしまいそうだと感じていたから」
「だが、少女はそれでも痛むという。しかも、心というわけの分からないものが、だ」
「魔物は悩んだ」
GM ここまでで語り部はすっと息を吐きます
語り部「そなたたちには分かるか?心がなにか?」
レオノラ「心ですか?うーん。あんまり考えたことないですね」
プリム「難しい質問です……」
レオノラ「笑ったり泣いたりさせちゃうものだってことなんでしょうけど、いっつも私、気がついたら泣いてたり笑ってたり怒ってたりしますから」
語り部「(レオノラの答えをきいて)なるほどな。そなた達に難しいのであれば、魔物にはなお、難しかったであろう……」
レオノラ「何って聞かれても、コレって答えることなんて無理ですよねー…」
語り部「話を続けよう」
レオノラ「あ、はい……」 何だかただのお話のはずなのに、不思議と引き込まれるようなものを感じて黙りますね。
プリム「はい、続けてください」
「魔物は悩んでおった。長い間悩み続けた。」
「あまりに悩んだ故に、魔物は仲間の魔族にそのことを話してしまった。」
「それに対して仲間の魔族はこう答えた」
語り部「さて、第2の問じゃ。答えはどちらであるか。その1」
『その答えなら俺はよく知っている。明日の日の出までここにいてみろ、答えをみせてやろう』
語り部「その2」
『そんなことなど考えるだけ無駄だ。それよりその娘を俺に食べさせろ』
語り部「さぁ、どちらであるか?」
レオノラ「うーん。どっちもありそうですよね。」
プリム「その1です」(即答)
レオノラ「……あ、じゃあ今回はプリムさんの答えでいきますね」
語り部「ほう、その1でいいのじゃな?」
プリム「その1がいいです。その2は嫌です」
語り部「なぜ、そう思う?」
プリム「え、えっと……理由が必要ですか?」
語り部「単なる興味じゃがな、理由がないならないでもかまわん」
プリム「ない、ということにしてください」
語り部「そうか。ではもう1度だけ聞こう。2人とも、その1でよいのじゃな?」
レオノラ・プリム『はい』
語り部「然り!」
語り部「仲間の魔族は答えた。明日の日の出までここにいろと。さすれば答えをみせよう」
「人食いは喜んだ。分かったここにいると。」
「長い彼の生きた年月の中で、あの時ほど日の出を待ち望んだことはなかったであろう」
「心が分かれば、魔物はより少女のことが理解できると思った。それは何よりもすばらしいことだ」
「故に魔物は待った。仲間が、心の正体をみせてくれるのを。」
「そして、日の出とともにそれは来た」
「仲間の魔族は手に何かを持っていた。小さな影、魔物は、それこそが心かと身を乗り出してそれをみた」
「そこにあったのは」
「少女の死体であった」
レオノラ「…………」息を呑みます
プリム (真剣に聴いている)
「魔物は声をあげた。どこまでも、どこまでも、世界の果てにまで届くのではないかという声を」
「そして、気づいた。それを知った。これが心かと。魔物が人を喰う時少女が感じていた痛み。それがこれだったのかと」
「気がつくと、魔物は仲間の魔族を八つ裂きにしていた。周囲には何もなく、すべてが破壊されていた」
「そして、魔物は人を食べることをやめた」
「食べることができなくなったわけではなかった。人の命は魔物の力だった。食べねば力はでぬし、無限と思われる命もすりへる」
「だが、それでも魔物は人を食べなかった。何故?と聞かれても答えられなかった。ただ、食べてはいけない」
「その想いだけが魔物を縛っていたのだ」
「そして、時は経った。弱った魔物は、故郷にはいられなくなった。弱いものは狩られる、魔族に同族意識など欠片もない」
「ましてや、彼は仲間の魔族を手にかけてしまった。そこにいては命が危なかった」
「魔物が隠れる先に選んだのは、遠く南にあった人間の村だった。そしてはるか昔に村でしかなかったそこは。気づけば大都市になっていた」
「だが、そこは安全地帯であると同時に、誘惑の宝庫であった。都市には多くの人間がいる。それは飢えとの戦い」
「気を紛らわすために魔物は、吟遊詩人についてまわったという。多くの唄を話を聞き、気を紛らわした」
「それは、かつての少女との対話のようで、魔物の心を和ませた」
「そして気がつけば魔物は、語ることを生業としていた。語るべきを語り、人を助けた」
「ある日も魔物は、酔っ払いに絡まれそうになっている人間をみつけた。旅の踊り子だ」
「強引な酒の誘いに、困った顔を浮かべる踊り子。連れの丘小人は食事に夢中で頼りにはならない。助け船を出そうとした時」
レオノラ「(………あれ?えーっと、何かそれって……?)」
「その人間は、彼の助けなしにそこを切り抜けてしまった」
「魔物は、打ち解けている人間らをみて感心した。他者を受け入れられる彼らをすごいと思った。人間(エンダラトス)は変わる。そうやって成長していく」」
「魔物はねぐらにかえる途中、自分のあとをつけるものがいることに気づいた。」
「そして、思いついた。ちょっとしたゲームを」
語り部「さて、最後の質問じゃ」
語り部「自分のねぐらに魔物は2人を招いた。そして、彼はこういった。その1」
『わしの飢えは限界にきてる。わしに食べられてくれないか?』
語り部「その2」
『わしの飢えは限界にきている。だからすべてを語った。もう思い残すことはない』
語り部「さあ、どちらじゃ?」
レオノラ「……プリムさん。この質問ってやっぱり……」不安そうにプリムさんを見つめますね。
プリム「………………」
語り部 語りべはだまって二人をフードの奥からみています
レオノラ「私はどちらの選択も嫌です。プリムさんは?どっちかでいいなんて思いますか?」
プリム「………………」(無言)
レオノラ「ごめんなさい。プリムさんを、危ないことに巻き込んじゃうかもしれません。でも、私に答えさせてください」
プリム「分かりました。レオノラさんに任せます」
レオノラ「ありがとうございます。答えを言いますね」フードの奥の語り部の目を覗き込もうとするように見つめます
レオノラ「答えは……その3です」
語り部「……」
レオノラ「……それで貴方は何て言いますか?変わることを望んで、ここに私たちを呼んだんでしょう?」
語り部「……ふ」
語り部「「ふははははははははははははははは」
レオノラ「Σ……!?」 びくっとします。
語り部「面白い、面白いぞ、エンダラトスよ。そこで答えを逆にわしに問うか」
語り部「自ら答えをみつけられず、その愚かさ故に、もっとも大切なものを失ったこのわしに、この場面において第3の答えをだせというか」
レオノラ「……だって、私にはわかんないです」
語り部「分からずとも、選ばねばならぬこともあろう」
語り部「だが、踊り子よ、エンダラトス、変わり行くものよ」
レオノラ「……はい」
語り部「答えを出せぬことが、おぬしの強さでもあるのだろう。」
語り部「それを知ることが出来たのは、最期としては悪くなかったかもな」
GM ここで、すっと明かりが差し込みます
GM 月や星の光ではなく
GM あたたかな、オザンのまなざし
レオノラ「最期……?語り部さん……?」
GM 天井にあいたあかりとりの窓
GM そこから差し込む朝日が語り部を照らし
GM ボロボロと彼の体は崩れていきます
プリム「語り部さん!」
語り部「然り!!」
プリム 手を差し伸べようとしますけれど、その言葉に立ち止まります
語り部「魔物は2人にこういった。わしの飢えは限界にきている。だからすべてを語った」
語り部「だが、思い残すことはまだある。だからこそ、次はエンダラトスに生まれて、かわりゆく人生を楽しみたいぞ」
GM そう語り終えると同時に、語り部の姿は綺麗に崩れて、灰となりました。
GM ぎーーー。 同時に、遠くで扉のあく音がします
レオノラ 「………消えちゃった」何となくだけれど、灰を集めておきますね。
GM 日の光のせいか、その灰はどこから暖かい
レオノラ 意味があるのかは分らないですけど、後でちゃんと葬っておきますね。「プリムさん、戻りましょうか」
プリム 「はい、戻りましょう」
GM では、宿に戻ると、ウェイトレスさんが、朝食を用意しています
ウェイトレス「おはよーございますー。今ちょうどシチューができたとこなんですー。おいしいですよー。あったかいですよー」
GM そういって、皿にもって二人に渡してくれます
レオノラ「あ、おはようございます。(ふわぁ……)シチューかぁ…。……う、でも、今食べても後寝ちゃうから、太るかも……」
GM 渡された皿からはあったかく、食欲を刺激するにおいが
レオノラ「……いただきますっ」
ウェイトレス「うんうん。いいたべっぷりですね。料理人冥利につきます!!」
レオノラ「……くっ。この誘惑を我慢するなんて無理……ッ」
プリム「いただきます……」(もぐもぐ)
レオノラ「……あの。プリムさん」
プリム「…………?」
レオノラ「“語り部”さんって、本当は優しい魔族だったのかもしれませんね」
プリム「……………」(無言でスプーンを動かす)
レオノラ「……うん。まあ、これ以上言っても私の感傷でしかないですね」
レオノラ とりあえず、私は食べる!彼の願いがかなうといいなぁと、思いつつ。
やがて食堂には客が降りてきました
行商人、傭兵
外からは職人が朝の弁当を買いに
日々は何事もなく過ぎていく
今までも
そしてこれからも
RtoLオンラインセッション
「ある語り部の物語」
End