私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #39 【37日目】一人だけど一人じゃないスペイン巡礼のゴール到着前日、オ・ペドロウソへ
こんにちは、ナガイです。今日はアルスーアからオ・ペドロウソ(O Pedrouzo)へ向かいます。
前回の記事はこちら。
天気予報(オ・ピノ) 雨 最高気温20℃ 最低気温13℃
5時半起床。今朝はここ最近では珍しく、すでに何人か起きて出発の支度をしている。
外は雨が降っているようだ。予報を見ると一日中雨が降り続くようなので、レインコート、レインパンツ、リュックカバーの完全装備で出かけることにする。
6時出発。巡礼路の矢印に従って町中を歩いていると工事中で通れない場所があったため、Googleマップを見ながら迂回して先へ進む。
町を抜けると辺りは真っ暗になる。iPhoneのライトを点けて歩く。
人間とは都合のいい生き物だ。昨日はレオナルドとのことでくよくよ考えていたのに、今日は昨日のクリストファーとの会話を思い出しては、次の旅行は和歌山に行こうかなどと考えている。でも、やはりレオナルドに一目会って話がしたい。彼は明日サンティアゴに着くのだろうか。
7時半前に高速道路の上に架かる青い橋を渡る。橋には巡礼者によるものであろう、たくさんのステッカーが貼られている。
巡礼路上では今日も犬や牛などの生き物たちを見かける。今ではすっかり見慣れた光景だが、日本に帰ったら間違いなく見なくなるものの一つだろう。
残り30kmを切った。
8時半頃にバルがあったので朝食を取ることにする。本当はもう少し早く取りたかったのだが、通りかかったバルがどこも閉まっていた。以前は7時頃であればどこかしらのバルが空いていたが、特にサリア以降は朝遅く出発する巡礼者が多いからか、バルのオープンも遅めのようだ。卵とベーコン、カフェコンレチェを注文。7ユーロ。レインパンツのみ脱いだ。
9時頃に再び出発。日が出てきた。結局雨らしい雨は降っていない。天気を読むのは難しい。
便意を催してきたため、9時半過ぎに再びレストランで休憩する。
自家製ジンジャーレモネードを注文。2.80ユーロ。トイレを済ませて外に出ると、ちょうどクリストファーがレストランに到着したところだった。同じテーブルに座り、話しながら休憩する。
ここからクリストファーと一緒に歩く。途中で道端にクレデンシャルのスタンプを押してくれる女性がいたのでお願いすると、その女性がスタンプ欄の順番をよく確認せずに押したため、残り3枠しかないスタンプ欄のよりによって一番最後に押されてしまった。日本オリジナルのクレデンシャルはスタンプを押す順番が分かりづらいようで、大抵の場合は向こうから「ここかい?」と押す場所を確認してくれるか、先にこちらから「Aquí(ここです)」と場所を指し示すようにしていたのだが、ここにきて油断してしまった。女性はこちらのリアクションを見て間違えたことに気づいたらしく、「ここに押し直そうか?」と正しい場所にもう一度押そうとするので、慌てて食い止める。こうやって良いことしていると思い込んで実は周りに迷惑を掛けている人、いるよなぁと思いながら、残り2枠しかなくなったスタンプ欄にさらに押されるという二次被害は防げたのでホッとする。たかがスタンプだが思いのほかショックが大きかったため、クリストファーに「F●CKと言いたい気分だよ」と愚痴る。ちょうど彼とスペイン巡礼は毎日学ぶことばかりだという話をしたところだったので、「本当に毎日学ぶことばかりだね」と言って心を落ち着かせた。
残り20kmを切ってから間もなくして、11時半過ぎにオ・ペドロウソへ到着。道端でシン、アンと遭遇する。彼らは今日もう一つ先のラバコージャ(Lavacolla)まで行く予定らしい。自分も今日はラバコージャまで行くか迷っており、「もしかするとまた後で会うかもね」と言って彼らを見送った。とりあえずバルで休憩しつつ、このままオ・ペドロウソに留まるか、ラバコージャまで行くかを考えることにした。コーラを注文。クリストファーが昨日のディナーのお返しにと会計をまとめて支払ってくれた。
クリストファーと話しながらダラダラしていたら13時近くになってしまい、再び歩く気力もなくなってしまったため、今日はオ・ペドロウソに泊まることにした。アルベルゲはすぐそこなので直接行っても変わらないと思うが、念のため休憩中にBooking.comで予約しておいた。クリストファーも今日はオ・ペドロウソに泊まるそうで、アルベルゲは違う場所だったので彼と別れてアルベルゲへチェックインしに行く。宿泊代は14ユーロ。
アニータから連絡があり、今日は予定どおりオ・ペドロウソまで来るそうだが、どうやら彼女は風邪を引いてしまったようで、気分が優れない中で歩いているので今日はかなりしんどいらしい。本当は彼女とウリーをディナーに誘ってレオナルドの件を話したかったのだが、彼女の体調が優先だと思い「君は明日のために今夜ゆっくり休んだ方がいいよ。明日はサンティアゴに着く大切な日だからね」と返信した。
洗濯は明日サンティアゴでまとめてすることにしてシャワーだけ済ませ、14時過ぎにランチを食べに出かける。ハンバーガーと水を注文。8.70ユーロ。
食べ終わってアルベルゲへ戻っている途中、カフェのテラスにガブリエレが座っているのを見つけた。彼も自分に気づくと満面の笑顔で立ち上がり、ハグをして再会を喜んだ。なんと彼はちょうど自分がやって来るのではないかと思って通りを眺めていたそうだ。「明日サンティアゴで会おうね」と言うと、「私はサンティアゴには月曜に行くつもりなんだ。日曜はミサとかがあって人が多いからね。人が少ない方が好きだから、明日は10km先まで行って泊まるつもりだよ」と言う。それが何を意味するのかをすぐに理解する。そう、彼と会うのは恐らくこれが最後だ。自分のスペイン語の語彙力では気持ちを言葉にすることができず、「一緒に写真撮ろうよ!」と言うことしかできなかった。まず自分のスマホでセルフィーを撮り、次に彼のスマホでセルフィーを撮る時に、彼がスマホの画面を見せてきた。バイクの写真のようだ。なんと彼はサンティアゴからイタリアまでバイクで帰ることを計画しているらしい。ちょうどサンティアゴで引き取れる中古のバイクを見つけたので、それを買おうかどうか検討しているそうだ。彼は本当に面白い生き方をする人だ。彼からは多くの刺激をもらったし、この巡礼で彼に出会えたのは幸運だったと思う。
彼に別れを告げて再び歩き出す。振り返ったら泣いてしまいそうだったので振り返るのを我慢して歩く。いつもこれが最後かもしれないというつもりで別れてきたが、今回が今までで一番寂しい。
アルベルゲに戻り、歯磨きしようと洗面台の前に立つがまだ胸騒ぎがおさまらない。そうだ、お守りを渡そう。すぐさまベッドへ戻ってバックパックからお守りの一つを外し、走れるようにサンダルからトレッキングジュースに履き替える。そしてアルベルゲを出て走って向かったが、先ほどのテラスにガブリエレの姿はもうなかった。仕方ない。渡せなかったお守りを手に再びアルベルゲへ戻る道を歩いている時、不思議と後悔はなかった。あのまま歯磨きを続けていたら、きっと後悔していただろう。やれるだけのことはやったのだ。
少し昼寝をしてから18時頃に再び町へ出る。近くに良さげなアイスクリーム屋があるので行ってみることにする。通りがかりのテラスにクリストファーや、少し前からよく会うようになってフォンフリアのディナーの時に初めて話した韓国人のヘイが座っているのが見える。知っている顔を見かけると安心する。アイスクリーム屋へ着くと、なんと中にガブリエレが座っているのが見える。なんという偶然だろう。店内に入って彼に話しかけ、少し待っていてくれない?とお願いして急いでアルベルゲに戻る。再びお守りを手にして店に戻ると、なぜかガブリエレが目を赤くして泣いている。なぜ泣いてるの?と聞くと彼はスペイン語で説明してくれて、ほとんど内容は理解できなかったが、彼が自分のしようとしていることを察してくれたのは分かった。彼には京都の八坂神社の黒いお守りを渡した。知的で思慮深い彼にはピッタリだ。すると彼がアイスをおごるよと言い、一度は断ったが彼が断られるとなぜ?と不思議そうな顔をするので、ここは素直に好意を受け取った方がいいと思い、ごちそうになることにした。ストラッチャテッラ、ヘーゼルナッツ、チョコレートのアイスを注文。おごってもらうなら1種類か、せめて2種類までにすべきだとも思ったが、どうしても絞りきれずに3種類頼んでしまい、結局は厚かましい感じになってしまった。
アイスを食べながら、ガブリエレの故郷である美しい自然のある村や昔飼っていた犬、そして彼のマイカーだという軍用の車両を流用したキャンピングカーの写真や動画を見せてもらった。興味深いことばかりで、彼ともっとスムーズに意思疎通できたら、もっと詳しく聞けるのになぁと思う。彼に「僕はもっとスペイン語を勉強しないといけないし、あなたはもっと英語を勉強しないといけないですね」と言うと、彼は本当にそうだね、という感じで笑ってくれた。自分の分も含めて会計をしてくれたガブリエレにお礼を言い、店の前で再び強いハグをして別れの挨拶をする。彼が「イタリアに来る時は連絡してね。寝るところも食べるものも用意するから。手作りのピザを食べさせてあげるよ」と言ってくれる。こういう時に自分の気持ちをうまく伝える言葉が見つからない。「ありがとう」以上の気持ちなのだが、「ありがとう」としか言うことができなかった。
一旦アルベルゲに戻ってから20時過ぎにディナーを食べに出かける。少し歩いたところにある教会の近くのレストランに入る。サンティアゴ到着前夜なので豪勢に肉を食べることにした。牛肉のグリル(Croca de vaca vieja a la parrilla)と水を注文。パン込みで19.30ユーロ。レストランにクレデンシャルのスタンプがあったので押す。先ほどアルベルゲにチェックインする際にもスタンプを押してもらったので、実はこれが最後の1枠だ。ついにクレデンシャルのスタンプ欄をコンプリートした。なんだかこれでサンティアゴ到着の心構えも出来た気がする。
食べ終わって外に出るとちょうど日の入りの時間だ。まるで間もなく終わる巡礼を象徴するような光景だった。
アルベルゲに戻ると、近くのベッドの巡礼者同士が話をしている。会話には加わらず、寝支度をしながら自然と耳に入ってくる会話を聞いていただけが、みんなそれぞれの理由を持って巡礼に来ていることが分かる。そうして集った巡礼者達が、日々出会いと別れを繰り返しながら、一つの共同体のように同じゴールを目指して歩く。一人だけど一人じゃない。そんなスペイン巡礼もいよいよ明日でゴールだ。
22時就寝。
歩いた距離
今日20.1km 合計761.4km 残り19.0km
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