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私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #45 【43日目】ついに本当の巡礼ラスト、900kmを完歩して最終目的地ムシアへ到着

こんにちは、ナガイです。今日はフィステーラからムシア(Muxía)へ向かいます。
前回の記事はこちら。

天気予報(ムシア) 強風 最高気温15℃ 最低気温12℃

6時起床。今日のアルベルゲはまた動物園のようないびきだったが、AirPods Proを耳栓がわりにする方法でぐっすり眠れた。やはりフィステーラからそのまま帰る人や延泊する人が多いのだろう、自分が出発するまでに他に出発の準備をしに起きてくる巡礼者はいなかった。

7時出発。明るくなり始めた空の光が海に反射してきれいだ。僅かだが道やビーチにはちらほらと人がいる。

昨日歩いてきた県道をしばらく逆走して歩くと、あった。ムシアへのルートを示す道標だ。正真正銘これが最後の巡礼だ。緩やかな坂道を歩いていく。海が次第に遠ざかる。

家々の間を通る道に入ると、海とはしばらくお別れだ。道は今までと比べると平坦で楽だが、フィステーラとムシアの間の道標には残り距離が書いていないため、休むタイミングなどは自分で地図や時間を見て判断する必要がある。

8時前にエルメデスソ(Hermedesuxo)を通過。右手の山の向こうから朝日が昇ってくる。

そして今日初めての本格的な山道に入る。巡礼路沿いにはムシアの方向を示す道標と、ムシアからフィステーラへ歩く巡礼者のためにフィステーラの方向を示す道標が両方ある。

雨が少し降り始めてきた。雨宿りする場所もないのでそのまま歩き続ける。しばらく歩くと目の前に再び海が見えてきた。この瞬間はいまだに感動する。

一旦山道を抜けたところで雨が強くなってきた。ちょうど雨宿りできるベンチがあったので少し休むことにする。ミックスナッツを食べ、人影がないのを確認して立ちションをする。フィステーラとムシアの間は店が少なそうなので食料と水は十分用意してきた。

雨はひとまず止んだようだが、念のためリュックカバーだけ取り付けて8時半過ぎに再び出発。明日の夜にはマドリードにいるのかと思うと、山道が急に愛おしいものに思えてきた。最後の山歩き、思いっきり楽しもう。

途中に寄付制の休憩所があった。休んだばかりだったので立ち寄らなかったが、雨で足止めされていなければここで休んでもよかった。

曲がりくねった道を歩いていると正面に太陽が現れたので驚く。なぜ驚くかというと、フランス人の道では基本的に東から西へ向かって進むため、日中は常に太陽を背にして歩くことになる。ところが、このフィステーラ・ムシア間は南北に歩くルートのため、道によっては正面に太陽が現れることもあるのだ。それだけのことなのだが一ヶ月以上も同じ方角へ向かって歩き続けた後だと、そんなちょっとした変化にも敏感になるようだ。

9時過ぎにカストレシェ(Castrexe)の村を通過。時折左手に海が見えるが、海は何度見てもいいものだ。

9時半前にパドリス(Padris)の村を通過。この頃から向こう側からやってくる巡礼者とすれ違うようになる。時間的にムシアから歩いて来たにしては早過ぎるので、30分ほど歩いたところにあるリレス(Lires)に泊まっていた人達かもしれない。フィステーラからムシアへ向かう巡礼者とは出発直後に女性3人組と会ったきりだったので、巡礼者に会うと嬉しくなる。そして、この道を歩いているだけあって全員が気持ちのいい挨拶をしてくれる。

10時過ぎにリレスの村へ到着。ホテル併設のいい感じのバル兼レストランがあるので休憩する。下手するとここからムシアまで何も店がない可能性もあるので、朝食と昼食を兼ねてがっつり食べることにする。パンコントマテ、卵、ベーコン、アメリカーノ、オレンジジュースのセットを注文。10.5ユーロ。きれいで店員の女性の愛想がよく、居心地の良い店だ。

たっぷり充電して10時半過ぎに再び出発。歩き始めてすぐに雨が降ってきたが、カメラが壊れそうなレベルの雨でなければレインコートは着ずにそのまま歩くことにした。

リレスの村を抜けてからも何人かの巡礼者とすれ違う。時間的にはムシアを朝出発してきた人達だろう。全員がいい面構えをしている。自分も彼らからそう見えているといいのだが。

気がつくと頭上を覆っていた灰色の雲はどこかへ去り、日差しが降り注いでいる。

もう残り半分を切ったところだろう。すれ違う巡礼者を見ていると、やっぱりみんな歩くのを終えたくなくてこの道を歩いているのだろうと思う。道中で度々見かけた、来た道を戻って歩いていた人達も同様だろう。でも楽しい時間も苦しい時間もいつかは終わる。自分にとっての巡礼の終わりはムシアだ。

そうやって心の整理がつくと、日本に帰った後のことを考え始める。それから今日ムシアでレオナルドに会えたら何を言おうか考える。レオナルドも今日はフィステーラからムシアへ向かう予定だと言っていた。

12時頃にモルキンティアン(Morquintián)の村に入ると、すぐに強い雨が降り始める。木の下へ避難し、数分じっと待っているとすぐに雨が収まってきたので再び歩き始める。ここにきてようやくスペインの天気との付き合い方が分かってきたかもしれない。

その後も通り雨が降ったり止んだりしながら、山道をひたすら歩く。

13時過ぎに山道を抜けてシュラランテス(Xurarantes)の村を通過。下り坂を降りていると三度海が見えてきた。山道を歩いた後に見る海は格別だ。

レオナルドから「もうムシアにいる?」とメッセージが来る。「いや、まだ歩いてるけど、あと20分で着く予定だよ」と送る。すると「一緒にランチ食べようよ。16時にタクシーに乗る予定だから、その前に岬に行きたいんだ」と返信がある。彼はすでにムシアに着いているようだ。

海沿いをしばらく歩き、13時半過ぎにスペイン巡礼の最後の目的地ムシアへ到着。フィステーラ・ムシア間の巡礼路は、距離が28kmとまずまずあるのに加えてアップダウンもそれなりにあったので、巡礼最終日にふさわしい道だった。

レオナルドに指定されたレストランへ行くと、彼とシカ、そして昨日会ったカレンがいた。このレストランは海鮮料理がメインのようで、昨日食べておいしかったLongueironがあればそれにしてもよかったが、ここメニューにはなかった。するとレオナルドが先にメニューの内容を調べていたようで、Navajasを検索したら見た目がLongueironに似ていたよ、と教えてくれる。レオナルドには昨日寝る前にLongueironがとにかくおいしかったから機会があったら食べてみて、とメッセージを送っていた。店員の男性に「NavajasとLongueironは同じものですか?」と聞くと、見た目は似ているが、Longueironの方が大きくて固く、Navajasの方が小さくて柔らかい、という違いがあると教えてくれた。せっかくなので食べ比べてみようと思い、Navajasとコーラ、パンを注文。16.50ユーロ。

スペインの飲食店ではたまにアペタイザーが付いてくることがあるが、日本のお通しと違って追加料金はかからないことが多い。ここのアペタイザーもサービスだった。Navajasは確かにLongueironを一回り小さくしたような見た目だが、味は正直Longueironの方がおいしかった。でもこれも一つの経験になったので食べられてよかった。

今日レオナルドが先にムシアへ到着していたのは、途中でシカが歩けなくなってしまい、やむを得ずタクシーで移動したからだそうだ。カレンがレオナルドとシカはチームだからね、と言っていたが、まさにそのとおりだ。レオナルドがシカのために歩くのを諦めたのはチームとして立派な判断だ。

14時半過ぎにレストランを出発してみんなで岬へ向かう。岬には小高い山があり、それを行けるところまで登ってから岬の先端の方へ行く。

岬の先端には教会が建っている。そしてその近くにムシアのゴール地点を示す0.000kmの道標があった。写真を撮ったり撮ってもらったりしつつ、最終目的地へ到着した喜びを分かち合う。

するとデービッドがやってきた。彼も今日はバスに乗ってムシアに来たそうだ。思えばデービッドも長く一緒に歩いてきた一人だ。教会と海をバックに全員で記念撮影をする。

ここでエネルギーが切れてしまったので、先に岬から引き返してアルベルゲへチェックインしに行く。宿泊代は18ユーロ。モダンできれいなアルベルゲだ。少し高いだけあって人が少なくて快適だった。

最後にレオナルドを見送ることはできなかったが、それは本当に体力が尽きてしまったのもあるが、彼にさよならを言いたくないという気持ちも少なからずあった。それは持ち前のあまのじゃくな性格が発揮されたのもあるが、彼に対する思いはあまりにも複雑で、それをうまく言葉にして伝える自信がなかったというのもあったように思う。

16時過ぎにレオナルドから先ほど岬で撮ってくれた写真と共にメッセージが来る。「直接さよならを言えなかったけど、君とカミーノを共有できて嬉しかったよ。君にとって何もかもうまくいき、輝かしい未来が訪れますように。Buen camino de la Vida(良い人生の旅路を)」。彼に対する返信を考えるには疲れすぎていたので「ごめん、君がここを離れる前にエネルギーを使い切っちゃった。多分だけど後で長めのメッセージを送ると思う」とだけ返す。するとレオナルドから「心配しないで、大丈夫だよ。君は疲れてるはずだから。君は全ての道を歩いたんだよ」と返信がある。そうだ、サン・ジャンからサンティアゴ、フィステーラ、ムシアまでの約900kmの道のりを、一度もタクシーやバスを使わず、全て自分でバックパックを背負って歩き通したのだ。巡礼に優劣はないと思うが、自分が知っている限りでは同じように全行程を歩いたのはミアぐらいではないだろうか。あらゆることから逃げ続けていた自分が、逃げることなく900kmを完歩できたことは今後の人生にとっても価値のある成功体験になったと思う。

ムシアの巡礼証明書はアルベルゲの受付でオスピタレイラが発行してくれた。これでサンティアゴ、フィステーラ、ムシアの全ての巡礼証明書をコンプリートした。

シャワーと洗濯を済ませてから昼寝をし、19時からの教会のミサに出席しようと思い、再び岬へ行く。先ほどは遠くから見ただけだった岬の教会は立派な建物だ。ミサはサンティアゴのような仰々しさはないが、それがかえって自分にとっては巡礼を締めくくるのにふさわしい儀式に思えた。0.10ユーロを寄付。

教会を出るとイタリアのルイージに会う。彼は巡礼の序盤に出会ったルイージとは別人で、2週間ほど前から度々会うようになった男性だ。彼も今日フィステーラからムシアへ歩いてきたらしい。また、彼もサン・ジャンからここまで歩き通したそうだ。「僕もだよ」と言ってハイタッチし、ハグをしてお互いを褒め称える。彼は明日バスでサンティアゴへ行き、サンティアゴの空港から飛行機でイタリアへ帰るそうだ。

強風が吹きすさぶ岬をしばらく一人で歩く。正直まだ巡礼が終わった実感が湧かないが、なんとなくの安堵感のようなものはある。

岬を離れ、明日のバス移動に備えてスーパーでお菓子とコーラを買う。6.37ユーロ。もう持ち運ぶ荷物の重さを気にしなくていいのだ。

ディナーはまた海鮮にしようかとも思ったが、良さそうなイタリア料理屋があったのでここで食べることにする。ピザもおいしそうだったが、セーで食べたばかりなので結局ベーコンバーガーとコーラを注文。13.40ユーロ。料理も接客もいい感じだ。

食事を終えて、一旦アルベルゲへダウンジャケットを取りに戻ってから、岬へ夕日を見に行く。

岬はフィステーラより人もまばらで、より旅情を誘う。雲の隙間から漏れる夕日の光が海面に反射して幻想的だった。昨日のフィステーラの夕日は寒くなって途中で帰ってしまったが、今日のムシアの夕日はいつまでも見ていたくなるものだった。これが自分にとっての夕日だ。さあ、そろそろ日本へ帰ろう。空にはたくさんの海鳥が風に乗って漂っていた。

日の入り時刻の21時50分まで見届けてから22時過ぎにアルベルゲへ戻る。

23時就寝。

歩いた距離
今日28.0km 合計897.9km


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