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ゴッホのひまわりには魔力がある。

長い梅雨が明けたのだろうか。晴れ間がのぞき、溜まっていた生乾きの洗濯物を干せる日がきた。遅めの夏を知らせる蝉の声が耳を貫く。じっとりと汗をかくのは変わらないが、青い空が見えるだけでこんなにも世界の見え方は変わるものかと思った。

東北や北陸の冬は晴れ間がでることが少ないことで有名だが、その地方の人たちの自殺率が高いのも納得できるような気がする。曇りや雨が続けば気持ちは落ち着かない。身体は自然に反応する。

去年の今頃だろうか。ぼくの住む街のひまわり畑を見に行った。お祭りも開かれるほど有名なひまわりの名所。近くに新幹線の線路が通っていることもあり、写真家がずらりとカメラを構えていたのが印象的だった。大地に根を張り、ひたむきに咲く姿に多くの人は魅せられる。自分もやはりそういう部分に惹かれるのだろう。

3ヶ月ほど前に東京に行った。目的のひとつに美術館があった。そこには日本で唯一のゴッホのひまわりが展示されている。もともとゴッホの絵を本などで見て、いつか見たいと思っていた。

美術館のほかの展示も見たがほぼ記憶には残っていない。それだけゴッホの絵の印象は強いものだった。最初は間近で眺めてみる。荒々しいタッチ、黄色と緑のなんとも言えぬ色遣い。はじめての"ひまわり"は吸い込まれそうな強烈ななにかを発していた。立ってみているのはしんどくなって、後ろにあった椅子に腰掛けてもう一度眺める。ひまわり畑でみた本物のひまわりとは違った。ゴッホの目を通して描かれた人を惹きつけるそのなにかを言葉で表現するのは難しい。"魔力"というのは陳腐だろうか。くらくらとして、このまま見ているのは気分が悪くなりそうだったので10分ほど眺めて、美術館をあとにした。

精神病に苦しみながらも表現活動は続けて、最後は自殺してしまうという数奇な人生を送った画家。彼はどんな思いで生きて、なぜひまわりを描いたのか、ひまわりの何に魅了されたのか。もし会うことができるならそんなことをゴッホに聞いてみたい。ぼくはいつかゴッホの生きたオランダの地に足を運び、彼が見ていた景色を眺めることを夢見ている。



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