仮面を外す場所
人は皆、孤独だ。
と、よく言われる。
今、ぼくがしている仕事はバー経営なのだが、これがたいせつな仕事なのではと思ったりする。
バーといっても様々なものがある。その中でも、自分の営むバーは特殊なものだろう。そう、ゲイバーである。ゲイバーと言っても、どんなものを想像するだろうか。テレビに出ている女装家の人たちのような方々が、煌びやかにお出迎えしてくれ、面白おかしく接客してくれるお店を想像する人が多いかもしれない。
自分の店は決して、そんなおしゃれでも、華やかな雰囲気でもない。ありふれたお店と言えばそうかもしれない。それでも、セクシャルマイノリティの集まれる少ないオアシス的な場所だ。
世の中には、先述したような別世界のような世界を生きるゲイも確かにいるが、それはごく一部の人間に過ぎない。一般的というと語弊があるかもしれないが、多くのゲイは普通の社会に馴染もうと、溶け込もうとして、身を潜めて生活しているのだ。
職場で「彼女は?」とか、「奥様は?」とか何気なく会話することがあるかもしれないが(いまどき、そんな会話も問題になるだろうが)、そんな言葉に何気なく耐えているのが、ゲイなのである。ゲイであることをオープンにすることができない人にとって、ゲイバーは自分を曝け出せるひとつの選択肢だ。
先日も、とあるお客様がはじめて来店された。ドアの前で、何度もどんな空間がひろがっているのか迷って、入るのをためらっていたそうだ。入ってみたら、同じように普通に社会で生活する"ゲイ"がたくさんいて、自分のことを素直に話せる場所を見つけたと思ってもらえたようだ。
世の中は、多様性だとか言われているが、そう簡単に変わりはしないし、変化を誰しもが望んでいる訳でもない。仮面を被って孤独を感じて生活しているゲイにとって、仮面を外すことのできる場所は必要だと信じて止まない。
そんなことでゲイバーを営むことも社会のためになってるのではと、前向きに思いながら、日々カウンターに立っている。