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思わぬ再会。
所用でショッピングモールに行った。思った以上に人がいて、驚いたが、そこで思わぬ再会があった。
大学の同級生。当時は親友だったと言っても、過言ではない。
ぼくは、大学の前半2年間は寮に入っていた。地方から見知らぬ土地の大学への進学だったため、親が心配して、寮に入るように言われた。
人見知りの自分としては、寮に入ってよかったと思う。すぐに友達ができたし、2人部屋で先輩と同部屋だったので先輩たちとも仲良くなれた。
再会した彼とは同じ学科で、寮も一緒だったのですぐに仲良くなった。やんちゃな感じな彼と大人しい自分は一見、不釣り合いなようだが、なんだか馬が合った。寮での生活は、夜中にこっそり鍋をしたり、友達が原付で田んぼに突っ込んだりと、楽しい思い出ばかりが思い出される。
寮を出てからの1年間もルームシェアすることにした。家賃も安くなるし、いいよねという軽い気持ちだ。
その頃からだろうか。少しずつ歯車が狂い出したように思う。大学生と言えば、恋愛も真っ盛りである。自分は一回しか参加してないが、合コンの話などもよくあった。大学の女子寮の子と仲良くなったこともあった。
自分は、ゲイだという自覚はとっくにあって、今のパートナーと付き合っていた。みんなにバレないように、隠しながら女好きで振る舞っていた。奥手なやつという印象はあっただろうが、ゲイだとは絶対バレていなかったと思う。
ルームシェアしている彼にバレたらという不安が、常にあった。ゲイだと皆んなに、知れたら居場所がなくなる。そんなことはないかもしれないけれど、信じきれなかった。
自分の思い込みかもしれないが、彼ともなんだか、ぎこちなくなっていった。ルームシェアは、1年で辞めようということになった。
それからは学校で、顔を合わすだけになった。自分はなんだかその頃から鬱っぽくなったり、ちょっとギャンブルに依存していた。
時間は流れ、卒業して、それぞれ別の道へ進んだ。それから、今までの10年ほどで顔を合わせたのは、彼のボクシングの試合と結婚式とかそのくらいのもんだった。
それもきっと自分が、ゲイだという後ろめたさも一部関係していたのは間違いないと思う。いつもいつも関わる人みんなに(ゲイでごめん)と思いながら、向き合っていた。そんな関係に疲れてしまうので、昔から、過去の友達との関係はシャットダウンしてしまう癖のようなものが自分にはあった。
そんな中、彼との数年ぶりの再会。彼が、ぼくに気がついて声をかけられた。仕事で近くに住んでいることは知っていたが、どちらからもなんとなく連絡を取らずにいた。
彼には奥さんと子供が2人いて、ぼくはパートナーとショッピングモールにきていた。たまたまパートナーは、別のところで自分の買い物が終わるのを待っていたので、存在は知られていないと思う。
1人で来てると思われただろう。なんだか会話はぎこちなかった。彼は、たぶん自分が、ゲイだと知っている。Facebookのハッシュタグに、LGBTなどをつけて発信することがあったからだ。
だから、近くに住んでいても連絡がなかったんだろうなと推測もしていた。だから、余計自分からは声を掛けることはしなかった。
普通なら、俺も結婚したんだとか、子供がさぁと会話するんだろう。ぼくは、そんな嘘もつけず、彼の話に合わせるだけだった。
「彼と一緒に来てるんだよね。紹介するよ」なんて、海外ドラマのようにはいかない。誤魔化し誤魔化し「じゃあ、またね」と離れた。
自分にとっては自分がゲイであることは問題ない。むしろ、パートナーと出会えて、幸せだし、生まれ変わってもゲイでもいいとも思っている。
それよりも辛いのは、やはりゲイだと周りに隠さないといけないことだ。テレビに出て、カミングアウトしている人たちはやはりまだマイノリティの中のマイノリティだと思う。親友だと思える相手にさえ、隠していたことへは申し訳なさがある。いつまでもこの葛藤はなくならないと思う。
「また飲みにいこうや」
そう言ってくれる彼からの誘いは、もうないだろう。もし、万が一誘いがあれば、ぼくは正直にカミングアウトできるだろうか。
そんなことをパートナーと温泉に浸かりながら、考えていた。