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【同人誌】理想の日常【サンプル】

【「理想のアイドル」

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の大神俊視点、イチャラブ新婚日常篇!】

――休日だろうが、仕事のある日だろうが、朝はいつも四時に目が覚める。
 仕事が入っていれば車を出す。
 そうじゃなければ、走りこんで、そのままジムに行く。
 みっちり鍛えてシャワーを浴びて家に帰ったら、朝飯を作る。
 今日は一人分だ。
 黒胡麻粥と作り置きのパンチャン(おかず)、プロテインと各種サプリメント。
 数ヶ月ぶりの仕事のない日。
 本当は、伴侶の陸斗さんと二人で囲むはずだった食卓。
 でも地方ロケが長引いて、今日中には帰ってこれなくなったとか。
 正直、寂しい。
 もうずっとすれ違い生活だ。
 次にいつゆっくり二人で過ごせるかも分からない。
 そもそも最近、陸斗さんは前より忙しい。
 あの動画が原因だ。
 俺と二人で、車の中で歌いながら撮った動画。
 あれで、陸斗さんの魅力が世界に拡散されてしまったのだ。
 両耳の付け根がキュッと寄っている、茶色の可憐なうさ耳。
 長い睫毛にふちどられた黒目がちな目。
 いつも口角が上がっている、ふっくらした唇。
 俺よりも小柄ながら均整のとれた、肉付きのいい身体。
 しかもあの時……「した」直後で、頰がほんのり赤くて。
 あんな無防備で、素の陸斗さんを見たら、誰だって彼に夢中になるだろう。
 本当は誰にも見せたくなかった。
 でも、陸斗さんは仕事が忙しくなって嬉しそうだ。
 ……ため息と共に飯を食い終わり、一人分の皿を洗い、昼飯の分の米をセットする。
 バニヲタにとって、休日といえども気を抜ける日はない。
 こんな時こそ陸斗さんのSNS巡回、出演した番組の録画チェックをして、雑誌の切り抜きを残す貴重なチャンスだ。
 つまり俺は今日一日、ずっと部屋にこもって「うさ充」することに決めた。

□ □ □
 
 俺の自室は、長年のうさぎコレクションで溢れている。
 枕も耳が生えてるうさぎ仕様。ベッドカバーもうさぎ柄だ。カーテンにもリアル調のうさぎ、その下にうさぎのぬいぐるみコレクションが並ぶ。
 それから基本的に、ファブリックのカラーリングは可能な限り緑だ。
 別に俺の好みという訳じゃない。
 グリーンがバニーボーイズ内での陸斗さんのイメージカラーだからだ。
 車もメタリックグリーンを買おうとして、社長に「目立つからやめろ」と止められた。
 別にプライベートで何をしようが自由だろうと思ったが、目立つのは本意じゃない。仕方なく内装に凝った。
 部屋の電気を付ける。
 見かけるたびにガチャを回して揃えた、世界のうさぎシリーズのフィギュアが俺を出迎えた。彼らはうさぎ関連書籍の本棚の上にきっちり二十五匹、整列している。内、七匹がアナウサギだ。
 二十五回目でシークレットのフレンチロップが出て、全種揃った時はホッとした。
 被りも捨てたり譲ったりする気にはならないので、二十五回で済んだのは幸運だ。
 ウルフのリーダー、[[rb:犬榧 > いぬがや]]から「メル○リで全種類揃っているのを買えよ」と言われたが、一度人の手を介したそれは俺の運命のうさぎではない。
 ワイヤレススピーカーをスマホと連携していつもの気に入りの曲をかけ、タブレット端末を手に、ベッドの上であぐらを組む。
 SNSのチェック。公式サイト個人ページのチェック。サーチ検索。
 基本的に三次元の推しはいつ何があるか分からない。突然の炎上に巻き込まれることもあるし、俺の知らない場所で事故に遭うかも知れない。なので、目を離すことができない。
 結婚して一緒に暮らしているのに何故と思うかもしれないが、同居というのは近いことへの安心感からか、メッセージのやり取りなどの接点がむしろ減りがちになる。油断は禁物なのだ。
 そしてSNSに上げられた写真は保存が基本だ。
 一通りチェックを終えて保存した後、今度は撮りためた出演番組の録画を見ていく。
 何度も一時停止してスクショを撮るので、十分程度のバラエティ出演でもかなりの時間を費やした。
 陸斗さんの笑顔が可愛すぎるので仕方が無い。全部コレクションしたいのだ。
 この作業も終えた所で、気づいたら昼過ぎだった。
 既に味付けしてある肉を冷蔵庫から何枚か出して焼き、炊いた米をどんぶりに盛り、作り置きのナムルと合わせてビビンパにする。
 黙々と食いながら、今日こそやり遂げるべき深刻な課題のことを思い出した。
 見てしまったら人生の楽しみの半分が失われる気がして、ずっと開封せずにおいた、実質的な解散コンサート――バニーボーイズ十五周年記念の最後のライブ映像、メイキング付き初回限定版。
 入手当初は、年を取ってからの楽しみにしておき、死ぬ前に見ようと思っていた。
 だが、最近になってだんだん考えが変わってきた。
 人生いつ何があるか分からない。
 明日交通事故で俺は死ぬかもしれない。
 それでなくても、俺が死ぬ間際には、DVDという媒体が滅びているかもしれない。
 その時俺はこの映像を見なかったことを絶対に後悔するだろうと。
 そんな風に思うようになったのは、陸斗さんと一緒に暮らしてからだ。
 陸斗さんと過ごす「今、このとき」の時間を何よりも愛するようになって、少しずつ、見ようかという覚悟ができてきた。
 簡単に昼飯の後始末をした後で、自室に入って扉を閉める。
 緊張しながら、高性能プロジェクターのホームシアターセットを準備した。
 窓の外のルーバー面格子を完全に閉め、陽光をシャットアウトしたのち、カーテンの前にスクリーンを下ろす。
 スピーカーは三百六十度のサラウンド方式で、臨場感抜群だ。
 そして、鍵付きの棚を開ける。
 ライブDVD――永久保存用と観賞用で、全く同じものが二つ。
 どちらも未開封のそれらのうち、片方だけを震える手に取った。
 合皮に箔押しの文字だけのシンプルな装丁。
 ピリ……とフィルムを破り、もう二度と後戻りできないことに心が揺れた。
 バニーボーイズは俺の青春の一部だ。
 陸斗さん本人も解散したことを泣くほど寂しがっていたけれど、本当にロスがひどいのは俺を始めとしたファンの方だ。
 未だに引きずっている。
 せっかく日本に住めるようになったのに、もう二度とライブに行くことが出来ないなんて未だに信じられない。
 グループの公式サイトのブックマークを解除できずに、何度も見に行く。
 もうポストに来ることのないファンクラブの会報を待ってしまう。
 今までのことはドッキリで、本当はまだグループは続いているんじゃないかと。
 ……一緒に歩いてきたはずなのに、まるで俺一人だけ時が止まったみたいに、置いてきぼりにされた気分。
 勿論、当事者の陸斗さんにはこんなことは言えない。
 ファンに嘆かれて一番辛いのは彼だから。
 憧れだった陸斗さんと結婚して俺の心は救われたが、ファンとしての俺の心までは、どうにもならない。
 ただ、時が癒やしてくれるのを待つだけだ。
 プリズムが走る銀色の円盤を見つめたまま、ずいぶん長い間固まってしまった。
 今日を逃したら、次はいつチャンスがあるか分からない。
 これは俺一人で没入して見たい。
 陸斗さんと一緒に居たら、陸斗さんの方が気になって全く集中して見られないことは想像がつく。
 俺は息を止めてDVDを取り出し、プレイヤーに投入した。
 リモコンで照明を切ると、ライブが始まる直前の、暗くざわついた会場の映像が鮮明になる。
 舞台のスクリーンにティザー映像と共に流し込まれる、三人の声と静かなイントロ。
 ……画面が切り替わり、今度は、バックヤードの映像になった。
 楽屋を出て最後のステージに向かう、白いシンプルなスーツ姿の三人が映る。
 沢山のスタッフ達とハイタッチしながら、元気いっぱいで舞台袖に入っていく彼ら。
 開演直前、肩を抱き合って最後の円陣を組む三人の健気な笑顔。
 もうそこで既に俺の涙腺が崩壊してしまった。
 まだ始まっていないのに号泣が止まらない。
 この時の三人が愛しすぎて。
 涙で画面がよく見えず、慌ててDVDを止めた。
 ダメだ。
 これを素面で見られるほど、俺の心の傷はまだ癒えてない。
 言っておくが、俺は別に涙もろい訳でもなんでもない。むしろ感情的になることは滅多にない方だ。
 そんな俺でもこんなことになるのは、バニーボーイズというグループが、本当に尊いグループだからだ。
 神の作った究極の造形、うさぎ。
 可愛いという言葉だけではとても言い表せない息の合ったダンス。
 三人の個性が滲み出るMC。
 ファンの質の良さ。
 どれをとっても最高の神グループだ。
 諦めてラストライブ映像は再び封印した。
 また、見られる日もいつか来るだろう。
 代わりに俺は、バニーボーイズのデビューシングルの懐かしい歌番組録画を見ることにした。
 気持ちが落ち込んだ時の定番だ。
 慣れた手順でホームシアターに動画をリンクする。
 ほぼ等身大の、十七歳の初々しい三人がスクリーンに投影された。
 デビュー当時の衣装は、ネットやテレビ番組でしょっちゅうネタにされているが、乳首までスケたシースルーの白いTシャツと、尻肉が見えそうなほどの同色のショートパンツという衝撃的なものだ。
 この一時期だけの過剰な露出度は、バニヲタの間で「伝説」と呼ばれている。
 今こうして見ても衝撃だが、中でも陸斗さんの愛らしさと言ったら筆舌に尽くしがたい。
 この姿が不特定多数のファンに見られたと思うと頭がおかしくなりそうな程だ。
 まだ若いせいで、今よりも少し脂肪分が多めの肉質なのがハッキリ分かる。
 今は今で、少し柔らかくなった最高に好みの肉質だが、この頃の張りのある陸斗さんも食べてみた……いや、魅力的だ。
 当時から三人の中で一番群を抜いて美味そ……可愛い陸斗さんだが、パフォーマンスは既に完成している。
 それなのに、曲の合間に素に戻るといかにも恥ずかしそうなのが尊い。
 網状になってるシースルーのTシャツに透けているしっかりした胸筋と、明らかにぷっくりと飛び出したエロい乳首をもじもじと隠す姿が嫌でも目に焼き付く。
 パンツは尻からわざと尻尾を出す仕様になっていて、そこもけしからんポイントだ。
 しかも陸斗さんだけ布地が異様にパツパツで……見るたびに頭が沸騰する。
 売れ出してからはすぐにこの衣装は封印されてしまったが、それは良かったと思う。
 この動画は好きだ。だが、俺以外にはなるべくこの衣装の陸斗さんを見られたくない。尻が下半分丸出しだしな。
 ああ、胸が苦しい。
 可愛すぎて、全身が発光して見える。

『みんなーっ! 来てくれてありがとう! 愛してるぜーっ!』

映像の中の初々しい陸斗さんが全力で拳を振り上げる。
 俺はコンサート会場にいる気分で、画面の向こうの陸斗さんに向かって遠吠えを上げた。

――俺も愛してる! 一生愛してる……!

そんな本気の思いを込めて、ロケ先まで届きそうな渾身の声量でウオオオオと叫んだ瞬間、ガチャリと背後のドアの開く音がした。
「俊っ、防音あるとはいえ、家で遠吠えすんな」
 前と後ろからサラウンドで陸斗さんの声が聞こえる?
 余りにも突然で、リモコンに飛びつくことも忘れてその場に凍りつく。
「ってか、ただいまー、って、おいいいぃ! ちょっ、何見てんの⁉︎」
 激しい音を立ててドアが閉められた。
 陸斗さん、帰ってきたのか。
 それにしても、まるで他人の自慰を見てしまった時のような反応だ。
 いや、文字通りに近いが。
 慌ててリモコンで映像を停止し、俺は平静を装って静かに自室を出た。
 陸斗さんはソファの上で膝を抱えて三角座りをしている。
 泊まりの仕事帰りだからか、オーバーサイズのTシャツにデニムのラフな服装。
 黒目がちな垂れ目と視線が合った瞬間、動悸がおかしくなって危うく心臓麻痺を起こすかと思った。
 何故、わざわざそんな可愛い座り方をする。
 これが骨の髄まで染み込んだアイドル力。それとも、うさ力。
 うさ力なら仕方が無い。
「陸斗さん……今日は帰らないはずでしたよね」
 心臓が痛いのを我慢して聞く。
 すると、陸斗さんはこれまた無自覚の上目遣いで俺を見た。
「思ったより早い飛行機に乗れたからさ。俊、今日休みだろ? 少しでも一緒に過ごしたくて急いだんだけど……かえって迷惑だったか?」
 ああああ!
 片耳を折りながらその言動は!
 反則!
 と心の中で叫んでいたら、普段は隠している俺の尻尾がズボンから飛び出し、勝手にブンブン回り始めた。
 俺の荒ぶる尻尾を見やりながら、陸斗さんが膝に顔をうずめる。
「てか、俊、なんであんな古いの見てるんだよ。あの衣装、ほんとに恥ずかしかったんだよなぁ。今でもうちにあるけど」
「……? うちに、ある……?」
「ん? ああ、ここ、事務所のマンションだろ。ここのウォークインクローゼットは、うちの事務所の保管衣装で満杯なんだ。俺のデビューした頃ぐらいの衣装も何着かあって。見たことなかったか?」
 なんてことだ。
 探していた青い鳥、はたまた、求めていた幻の財宝は既に自宅にあったのだ。

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