あいが足りないから間違うのではなく 「アイムベリーベリーソーリー」感想
シャニマスのイベント「アイムベリーベリーソーリー」のコミュを読んだので、ざっくばらんに思ったことなどまとめ。
とにかく、毎度毎度アイドルが水着着て「ヤッホ〜イ!!」ってやることだけが夏じゃないんだよ、と訴えかけてくるシャニマスの精神がとても好き。
本編は大きく三つのストーリーに分かれている。花屋の職場体験をする真乃たちのストーリー、本番に向けレッスンを重ねるSHHisの二人のストーリー。そしてその全員が共有する「恋鐘が出演するゲーム」のストーリー。
本イベントのキービジュアルを見た時、アイドル達の服装から何から妙にバラバラで気になっていたのだが、まあ実際にバラバラの話だったのだ。
イベントの予告を文字に起こしたものがこちら。
日焼けした肌が ちりちりと痛みを生むように
長すぎた午睡が 涼風とともに後悔を運んでくるように
夏空の下に残ったのは 乾かない傷
「けれど」
それを治せるのは あなただけ
「だから」
探しにいきましょう あなたがなくしたもの
この夏が終わるまでに
『ふふふっ・・・!』
後悔・・・乾かない傷・・・とは・・・?
予告でこのあたりを聞いた瞬間、絶対に重い話だと直感していた。些細なボタンの掛け違えから人死にが起こる話なのでは!?誰が死ぬの!?と思ったものの、なんということはなく。
人は死ぬ。けれどもそれは劇中劇での話で、アイドル達がリアルにヘビーな目に遭う話ではなかった。
「アイムベリーベリーソーリー」この言葉が示す深い弔意と謝罪は、つまり恋鐘が演じたヒロインの感情を表しているーーーー
だけでも、なかった。コミュを読んでいくと、花屋組の話でもシーズの話でも、小さな間違いと謝罪が頻繁に発生しているのが分かる。
日常的に発生する間違いと謝罪
ということで「謝罪」の場面をざっと拾い集めてみた。
ファーストソーリーは真乃。帰りの電車でうたた寝してしまったことを霧子に謝る場面。霧子は全く気にしていない様子で、いつものように慈愛1000%で真乃に微笑みかけている。
花屋での昼休み中、恋鐘が出ているゲームで遊ぶ摩美々のスマホ画面がつい目に入ってしまった智代子。そして気にしていない摩美々、チェーンメールみたいなことを言う。
店長の留守中に常連の妊婦さんが来て、対応がわからず焦る真乃と霧子。二人も謝るし、妊婦さんも謝る。戻ってきた店長の第一声も「ごめんねー!」だった。
その後、帰りながら話す二人。霧子の言葉の主語を勘違いした真乃、やさしく訂正されて謝る。ここでちゃんと訂正するあたりに霧子の人柄が出ていると思う。
ダンスレッスン中のにちかと美琴。少しでも美琴のレベルに追いつこうと練習を重ねているにちかだが、道のりは険しい。ミスをする度に謝り通しのにちかに対して特に責めも励ましもしない美琴は、粛々と練習を促す。
仕事終わりの現場で食事に誘われた智代子。唾を飲みながらも(多分)お断りしている。前々から思っていたが、智代子の物腰と敬語には社会人三年目の貫禄を感じる。「そんななんですけど」みたいな抜き方といい、ガチなフレッシュにはできない芸当。
何らかの理由で1分遅刻して注意される摩美々。このスタッフの「一応そういうことなんで〜」みたいな真っ向から言わない感じの言い草も妙にリアルだったのが心に残っている。
にちかとの練習の中で、精神的に色々キてそうな感じのルカを回想している美琴。前のユニットで上手くいかなかったことについては、美琴の方でも色々と考えている模様。
たくさんリテイクした話をする恋鐘。文中に謝罪の台詞は出てこないが、ここに並べてみる。恋鐘は役柄の気持ちを理解することはできなかったが、時間をかけて寄り添っていたことが分かる。
レッスン場に、にちかと美琴を車で送りながら話しているシャニP。時と場合によって謝罪の重さは様々だが、このシーンはあらゆる意味でダントツに軽い。あと、常にこちらに好意的で絶対何を言ってもキレない年上の男の人に好き勝手なことを言うにちかの感じ、だいぶ妹ムーブ出てる。
トラブルで予約の花を用意できなくなった花屋を助けるために動く真乃。にちかと美琴を送る途中のシャニPの車に拾ってもらう。ここが台詞で見える範囲ではラストソーリー。恐らくは「断るほどの理由もないから」程度の気持ちで同乗をOKしたにちかと美琴は、真乃と短い会話を交わす。
ざっと見て、何も劇的な間違いは犯されていないことが分かる。ちょっとしたすれ違い、ちょっとした迷惑、ちょっとした気遣いは日常に溢れているもので、その分謝罪も日常的に行われている。
悪意があったわけでもなく、配慮を欠こうと思っていたわけでもないけれど、間違ってしまうことがある。単純に慣れていないからでもあるし、巡り合わせが悪かったとしか言えないこともある。
そうして謝った先には、また次の会話が始まるのだ。新しい日は必ず訪れて、自分が間違った分も誰かに何かを与えられる機会は巡ってくる。
「あい」によって成り立つ社会
続いて考えたいのが「あい」について。
ゲーム中で貨幣の役割を担っていた「あい」だが、実際の世界においても、人と人との間をやり取りされるものという点で「愛」は貨幣と同様であるように思う。
真乃たちの職場体験のストーリーは、お金のやり取りをするための機械であるレジの操作から始まる。
いつもは意識することがないバックヤードの作業を体験しながら、彼女達はときおり店長とお客さんとのやり取りを垣間見ることになる。
仕事というものにどうしても不慣れな女子高校生の彼女達は、いくつか小さな間違いを経験するが、それを通して自身の内でより深く思考することになる。
自分の仕事の先にあるものは何なのか。それを考えた時、彼女たちは走り出す。トラブルで手配できなくなるかと思われた緑色のトルコキキョウは、お客さんの元に無事届き、どこかのアイドルの復帰祝いのために飾られる。
この一連のストーリーに関して、私は生活を成り立たせているのが仕事であり、仕事を成り立たせているのが「愛」であるというメッセージのように思った。
トルコキキョウの件が解決に向かったのは、真乃たちの働きだけでなく、他の花屋がその日もいつも通りの仕事を続けていたから、という理由も当然だけれど大きな部分を占めている。
町の花屋にはいつも色とりどりの花が並んでいて目に美しい。それは、日々十分な種類の新鮮な花を入荷して古い花を処分しているからだ。
店先に並んだどんな綺麗な花でも、売れないときは売れない。それでもそこに並んでいることに意味がない訳ではなく、必要とされる機会は思いがけず訪れたりする。
そのきっかけは、アイドルを応援するファンの愛であり、ファンとアイドルの気持ちを思う真乃たちの愛であり、花を必要とする人のために働いている花屋の人間たちの愛なのである。
真乃が川沿いの道を花を持って走っている時、すでに十分な量の花は集まっている。だから彼女がその時持っている花がフラスタのお客様の元に届くことはないのだけれど、それを意味がない行動だったと誰が言えるのだろう。
寡婦の贖罪
あらゆる嗜好が詰まっている寡婦のストーリーについて。というか、なぜ「寡婦」という言葉が出てきたら我々ユーザーが喜ぶと思ったのか問い詰めたい。大当たりなんですけど(個人の感想)。
若い時分には歌い手になるという夢があった女性。しかし、時と共に夢は色褪せ、かつて互いの夢を語り合った男との関係も冷えていく。そうして、嵐の夜に起きた諍いをきっかけに彼女は寡婦となり、ひとり喪服を纏い骨董店の商いを細々と続ける日々を送ることとなる。
ストーリーではこの寡婦に起きた出来事と、「私」が彼女に与えたもののこと、彼女がカモメから「あい」を受け取るようになったことが描かれる。寡婦の心情については詳細が語られることはなく、最後まで「分からなかった」と言い続けている恋鐘と同様、我々も想像してみるしかない。
「何を探しているのかも分からない」と言いながら、雑多なものを引き取り手持ちの「あい」と交換し続ける寡婦。それはきっと、彼女なりの贖罪のつもりなのだろうと想像する。
結局は骨董店に頼って生きるしかない虚しさを味わい続けること。歌いもせず、笑いもせず、色を無くした世界にとどまり続けること。男の夢を傷つけ永遠に葬ってしまった代償として、自身の夢や色彩をも過ぎた夏に置き去りにすることが、彼女なりの謝罪の方法だったのだと思う。
カモメに餌をやることで、空から降り注ぐ「あい」を受け取るようになった彼女の笑う声が最後に聞こえる。いつか再び、彼女は歌うだろう。そうしてその時、ようやく彼女は本当に「ごめんなさい」と言えるのかもしれない。
その他雑感
(綺麗にまとめられない・・・!)
・ゲームDLする件。恋鐘も真乃もSNSの設定とか他の人にやってもらったんだろうな。あと事務所の無線Wi-Fiちょっと重い説出てきたか?
・「にちかの基礎見てあげて!」と言われた時の美琴、「はい」の声が低過ぎて笑った。やることはやるけど腑に落ちない感じがすごかった。SHHisの二人、緊張感は相変わらずだけど何かが変わっていっている気がする。
・摩美々が遅刻した時の智代子の慮り方が凄まじかった。たぶん事情は智代子の推測と概ね合っていて、その上で摩美々の良心を実物の3割増しくらいで見積もっていたんじゃないかと思う。やばー。
・みんなで交互にゲームのモノローグ読む表現が良かった。ダウナー気味の演技が思ったより全員映えていて聴き応えがあった。というか、美琴は何を言っても真に迫るから迫力があり過ぎた・・・。
・職場体験めちゃくちゃ良いと思ったけれど、プロデューサーがプロデュースする領域が広すぎるのでは?と思わなくもない。人生全部この男に変えられてしまうぞ・・・多分良い方向にな!!
・シャニマスで産声を聞くことになるとは思わなかった。
最後にこのイベントで一番好きなシーンを。
霧子が「あり」って言った!!!!!やば!!!!!!!