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あの夜を忘れたくないんだ:玉井詩織 Billboard Live Tour 2024 in 横浜 1部

もう半年以上ずっと何も書いていない。「idola」や「風とロック芋煮会」について書きかけたけど続かなかった。でも、玉井さんのビルボードライブだけは、絶対書いておきたい。自分の言葉で刻印しておきたい。まさしく、音を全身で浴びたという感覚。すべての曲に、曲ごとのグルーヴがあり、素晴らしい音のシャワーだった。いつもなら、ライブ後に音源を聴くのが怖い。なぜなら、ライブが音源で上書きされそうだから。でも今回は真逆。音源を聴くと、あの夜のグルーヴが蘇る。音源を上書きするライブ。そしてフラッシュバックのように、玉井さんのギターを弾き語る表情や、爪弾く指先の動きが、瞼の奥に映し出される。弾きながら、客席を見て、微笑みかける優しくて楽しげな表情が……

2024年11月26日(火)玉井詩織 Billboard Live Tour in 横浜 1stステージの夜を、絶対に忘れたくないんだ。

夢の世界のセットリスト

1. Another World
2. 暁
3. Yum-Yum!
4. Spicy Girl
5. We Stand Alone
6. Sepia(ギター、新マーチン)
7. 月色Chainon
8. L.O.V.E
9. HAPPY-END(ギター、新マーチン)
10. …愛ですか?(ギター、新マーチン)
11. 空のカーテン(グランドピアノ、スタンウェイ)
En. 日常(ギター、旧マーチン)

バンドメンバー
音楽監督・ピアノ:宗本康兵
ドラム:柏倉隆史
ギター:木下哲
チェロ:原川梓
コーラス:おかのやともか

音楽的な解説は、Billboard Japanのレポートがとても参考になる。カタカナの音楽用語も検索で把握した。ありがとうございます。

夢の世界の開演

下手袖からバンドメンバーがステージに入ってきて、最後に玉井さんがステージに登場する。玉井さんの衣装は、青いドレスに黒のジャケット。ジャケットの背中は下から大きく切れ込みが入っていて、ドレスの背のレースをチラリと見せていた。

1曲目の「Another  World」で、夢のような別世界の始まり。玉井さんの歌声は力強く、冒頭からとても調子が良い。とても丁寧な歌唱だなぁ。「風とロック芋煮会」の元気がはち切れるような登場の仕方とは異なり、落ち着いてしっとりとした、それでいて自信に満ち溢れた始まりだ。

次の「」の激しい曲調も安定した歌声で聴かせるし、高音も綺麗。気づいたら玉井さん、この楽曲すっかり歌いこなしている。そして、ギターとドラムに圧倒される。すっかり、ビルボードの音の渦に引き込まれた。

食事ができる会場に合わせて選んだという、ももクロ楽曲「Yum-Yum!」はライブで聴くの初めてだったかもしれない。玉井さんはステージを左右に移動しながら、会場全体を見渡して、クラップしながら盛り上げる。食事のプレートを持ち上げてアピールするお客に、親指を立ててグー!とレスを送る玉井さん。途中、歌詞を忘れて、真ん中のチェアの前に置かれたiPadを確認しにいく照れ笑いも素敵で、一気に場が和み、親しみ深い空気感になる。実はあまり聴き込んできてない曲だったけど、このノリかなり気に入った。

もしかして次の「Spicy Girl」も、スパイスだから食事つながりだったのかな。コケティッシュで蠱惑的な玉井さんがビルボードの雰囲気に合う。とても良い。流暢な英語歌詞がほんと耳に心地よい。ソロコン「いろいろ」の時の手の振り付けが一段と蠱惑度を高める。

We Stand Alone」はイントロのバンドがすごかった記憶。次に何の曲が来るのか期待させる曲間のつなぎは、「いろいろ」の時と同じでワクワクする。芋煮会を経てすっかり定着したクラップ曲。ビルボードライブでは、玉井さんがクラップを常にリードしてくれて、一緒にクラップできる。ダンスがないことの利点かもしれない。とはいえ、前方席でクラップ1発目を逃すという失態…… ま、いいでしょう、次回に向けてクラップ練習の楽しみができたなと。

MCで新しく買ったギターのお話。「みんな、私がギター買ったこと知ってるでしょ。今日は初めてお披露目します」的なフリがあって、ステージ袖から運ばれてくるマーチンOM42! ビジュアルがめちゃめちゃビルボードに映(ば)える。

そして「Sepia」の弾き語り。ほんの少し、ピアノで聴きたい気持ちもあったが、結果ギターの方が席が近く、間近で玉井さんのギターの指運びを目撃できたのはまじで夢かと思った。この曲のギター弾き語りは、2023年10月3日のフォーク村第149夜「しお番」以来2回目。いつも画面を通して見ている玉井さんの指。バンドの中にあっても、コンパクトな会場だけに、玉井さんのマーチンが生音で聴こえる。最初はアルペジオで、途中、マイクスタンドに挟んでいた「いろいろピック」をサッと取ってストロークに移る。その後、玉井さんの手からピックがハラリと床に落ちた。一瞬ヒヤリとしたものの、実はそこからまたアルペジオに戻るという、さりげない仕草。それをこの目で見ている不思議。「Sepia」は、玉井さんのどこにこんなに美しくも悲しい物語が潜んでいたんだろうと思わせる曲だけど、ビルボードではなんかとてつもなく柔らかく優しい表情で歌ってくれて、玉井さんの暖かさに包まれた。いつまでもこの中に浸っていたい。

続いて、ももクロ楽曲「月色Chainon」。玉井さんのソロで聴けるとは、全くもって贅沢で、選曲のセンスを感じる。情感たっぷり。掬い上げる玉井さんの指先が、ライブ後も時々フラッシュバックしてる。

個人的に再発見だったのは、ももクロ楽曲「L.O.V.E」。何だろう、このめちゃくちゃノリノリの曲は。Billboard Japanのレポートによると「ゴスペルやソウルのエッセンスをふんだんに盛り込ん」でるらしい。なるほどヨコノリのわけだ。ダンスを排して、曲をじっくり聴くのも、曲そのものに向き合える良さがある。村長の意味とは少し違うけど、ある意味、曲を裸にしている。玉井さんのL.O.V.Eハートを肉眼で目睹してしまった。

今回セトリの中で自分的に一番原曲の印象が変わったのが「HAPPY-END」だった。ソロコン「いろいろ」の爆発的オープニングで一皮剥けた曲だけど、今回はビルボードアレンジでまた一つ違う魅力を醸し出していた。意外といろんな顔がある曲。このようにして、SHIORITAMAI 12Colorsの楽曲たちは、ライブごとに育っていくのだ。

そろそろ終盤に差しかかり、ここで「…愛ですか?」のギター弾き語り。玉井さんがこの曲を入れる理由は何だろう。この曲に籠める想いは何だろうか。自分は聴きながら、ビンビンに歌詞が刺さっていた。背伸びしても届かなくて、両手伸ばしても届かなかった場所。そもそもその場所に何があるかも知らず、何を求めているのかもわからなかった。それでも懸命に手を伸ばし続け、今ここにいる。リリース当時16歳の玉井さんが思いもしなかっただろう音楽とのがっぷり四つの取り組みを経て、今、ソロでビルボードに立ち、弾き語りで聴かせてくれている、大人になった玉井さん。「その先」にあったものの正体は音楽、「音楽が楽しくてここまで来たよ」と、穏やかに嬉しげにそう言っているように聴こえて、一人ぐっときてしまった。

静かにステージを降りていくバンドメンバー。残された玉井さんも静かに立ち上がり、舞台袖へ。と思ったら、ピアノに腰掛ける。右足でペダルを確認する玉井さん。照明はほぼ落ちた。そこからももクロ楽曲「空のカーテン」のピアノ&チェロのデュオ。そしてコーラス。粉雪の舞う光の演出。チェリストとのアイコンタクト。玉井さんの伸びやかなボーカル。いやもう最高としか出てこない。

フェイドアウトでライトが落ちた状態から、明るくなり、万雷の拍手。再度バンドメンバーと玉井さんが登場し、満面の笑顔でアンコールの「日常」。ギターをネイビーのマーチンから、ノーマルなマーチンに持ち変えて、明るく日常へと戻っていく。玉井さんは我々を非日常(Another  World)まで運び、また日常へ戻る道筋も示してくれるのだ。なかなか日常に戻してくれるアーティストもいないと思う。おそらく卓上のペンライトを見つけて、振ろうと言ってくれる。会場をくまなく見渡して、みんなが楽しんでるか、一つ一つ確認しているような玉井さん。確かめつつギターを掻き鳴らす。そして時々、チラチラと目が合う。玉井さんがビルボードライブの手応えを感じていることがびしびし伝わるから、こちらも満面の笑みで応える。これこそ、ビルボードライブのコールアンドレスポンスだ。

夢のような距離感

開演前、同じテーブルの人たちと、ステージの信じがたい近さについて興奮気味に話していた。およそ最前テーブルなど、ステージとの距離は5センチくらい。「でもたぶん、玉井さんはこっち見ませんよね」「きっと目線は奥の上の方ですよね」と言って笑い合った。でもそんな定説は見事に外れた。全然違った。近い近いって恥ずかしがってる割に、近めのテーブルもよく見ていた。目も合った。もちろん客席満遍なくよく見てた。それも単に見るだけじゃなくて、訴えかけるような、「どう?」と問いかけるような目だった。こちらも「はい!最高に楽しんでまっす!」と目で応じたつもり。それがきっと伝わって、玉井さんをますます焚き付けて、昂揚させていったと思う。

それは意図的ないわゆる「レス」ではないかもしれない。「レス」ではない、何かもっと親密なもの。玉井さんがいつもライブで、ステージ上のメンバーと楽しげに視線を交わして踊っている姿、後方を振り返ってバンドメンバーとアイコンタクトを取る姿、あれだ。あれがビルボードでは客席との間で交わされたんだ。「音楽って楽しいね!」玉井さんの喜びに満ち溢れた目がそう語っていた。

日常への帰還

ほぼ半日を過ごした馬車道の街に出て、ビルボードライブ初体験が終わった。喧騒の中、自分がこのライブに行けたことの意味、人生の中にもつ意味について噛み締めた。

玉井詩織さん、あなたの音楽と存在が、自分を後押しする光です。素晴らしい音の空間と時間を、本当にありがとうございました! できればまた、ビルボードでお会いできたら嬉しいです。

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