乳がん治療におけるエンハーツ　　　　抗HER2抗体薬物複合体（ADC）であるトラスツズマブ デルクステカン（T-DXd）とは？

最近乳がん治療に使われるエンハーツという薬があります。抗HER2抗体薬物複合体（ADC）であるトラスツズマブ デルクステカン（T-DXd）という薬の商品名です。最初はHER2タイプの乳癌に使われる薬として開発されています。ハーセプチンに、リンカーを介してトポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するカンプトテシン誘導体を結合させた抗体薬物複合体（ADC：Antibody Drug Conjugate）です。トラスツズマブによるHER2シグナル阻害や、抗体依存性細胞傷害活性（ADCC活性）の誘導に加え、HER2陽性細胞内でリンカーが加水分解されて遊離したカンプトテシン誘導体が、選択的にDNA障害及びアポトーシスを誘発することにより、抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。カンプトテシン誘導体は本来副作用が強く、抗がん剤としては非常に使い難い薬です。それをハーセプチンにくっつけることにより少量でも効果が出るように工夫されているのです。現在この薬の試験が下記のごとく様々に行われ結果が出てきており順次使われるようになって来ています。

DESTINY-Breast01試験　　単群、非盲検、多施設共同のフェーズ2試験
濃厚な前治療を受けた進行HER2陽性乳癌患者に対し、抗HER2抗体-薬物複合体製剤トラスツズマブデルクステカン（T-DXd）は、臨床的に意味のある持続的で高い奏効を示すことが示された。

DESTINY-Breast02試験　　　無作為化フェーズ3試験
T-DM1投与を受けたHER2陽性進行乳癌患者を、無作為にT-DXd投与群と医師選択治療TPC（トラスツズマブ/カペシタビン、ラパチニブ/カペシタビンから選択）投与群に2対1に割り付けで行われた。T-DXd群では、TPC群と比較して、統計学的にも臨床的にも有意なPFSおよびOSの改善がみられた。

DESTINY-Breast03試験　　 無作為化フェーズ3試験
HER2陽性の既治療の再発・転移性乳癌に対して、抗HER2抗体薬物複合体
トラスツズマブ デルクステカン（T-DXd、）が、T-DM1（トラスツズマブ エムタンシン）よりも有意に全生存期間（OS）を延長できることが明らかとなった。両剤を比較したOSに関するアップデート解析の結果示された。T-DXdは死亡のリスクを36％低減させていた。

DESTINY-Breast04試験　　 　無作為化フェーズ3試験
化学療法既治療のHER2低発現の切除不能かつ/または転移を有する乳癌患者ホルモン受容体（HR）陽性患者で医師選択化学療法よりも増悪または死亡のリスクを49％、死亡のリスクを36％低減させ、HR陰性を含む全患者で医師選択化学療法よりも増悪または死亡のリスクを50％、死亡のリスクを36％低減させていた。

DESTINY-Breast05試験　　　無作為化フェーズ3試験
術前療法を経た手術後に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有するHER2陽性乳癌患者のうち、再発リスクが高い患者をトラスツズマブ デルクステカンを投与する群とトラスツズマブ エムタンシンを投与する群に1対1に割り付けて行われる。臨床病期T4、N0-3、M0またはT1-3、N2-3、M0の手術不能だった患者、臨床病期T1-3、N2-3、M0またはT1-3、N2-3、M0の手術可能患者で術前療法後の病理学的リンパ節転移陽性（ypN1-3）の患者を高リスク患者とした。現在進行中である。

DESTINY-Breast06試験　　無作為化フェーズ3試験
今年の米国臨床腫瘍学会（ASCO 2024）では、第3相DESTINY-Breast06試験の結果、内分泌療法を受けたホルモン受容体（HR）陽性かつHER2低発現、およびHER2超低発現の化学療法未治療の進行乳癌に対し、T-DXdは医師選択化学療法よりも有意に無増悪生存期間（PFS）を延長したことが発表された。

現在の状況としてはエンハーツはHER2陽性進行再発乳癌で2次治療の標準治療に使われています。効果は高いですが高価で副作用も多いです。約６か月ほど効果発揮します。
またHER2低発現進行再発乳がんでホルモン陽性乳癌ではホルモン治療耐性となりかつ1次化学療法治療例で使うことが出来るようになっています。HER2低発現triple negative乳がんでも試すことはできます。