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乳がん治療のホルモン剤を正しく理解しましょう



タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤はどう使い分けられるのか?正しいホルモン治療を受けましょう。と前回投稿しました。その根拠を今日は説明します。


前回の記事

ホルモン剤を投与されている人は多いと思います。
ホルモン剤はどのように効くかというと女性ホルモンの働きをブロックすることで、乳がん細胞の分裂を抑制する、止めるわけです。
乳がん細胞の中には女性ホルモンで増殖スイッチが入るものがいて、女性ホルモンが枯渇すると増殖を止めてしまうものがいます。乳がん患者さんのほぼ6割以上がそうであるとされており、女性ホルモンを抑えるための薬を飲んでおられるのはそのためです。

ホルモン剤は大きく分けて2種類あります。

1)SERMと呼ばれるタモキシフェン
2)アロマターゼ阻害剤と呼ばれるアリミデックス、アロマシン、フェマーラ(この3種類のうちどれかを飲まれていると思います)です。

ここでSERMとは”選択的エストロゲン受容体調整薬”の略語です。SERMは同時に骨粗鬆の治療薬も薬もあります。(エビスタ ビビアント等)
このことで分かるようにエストロゲンは骨に関係が深く、エストロゲンの働きを抑えれば骨はもろくなり、刺激することで骨は丈夫になります。

SERM タモキシフェンは女性ホルモンの働きをブロックするはずですが、骨に対しては女性ホルモンのようにふるまうのです。したがってむしろ骨は丈夫になる働きをします。

ではアロマターゼ阻害剤では骨は丈夫になるでしょうか?
アロマターゼ阻害剤では骨はもろくなり、骨粗鬆が進みます。
なぜそのような違いが生じるのでしょうか?


女性ホルモンのレセプターは骨、子宮、乳腺にあり、3者のレセプターの構造が微妙に異なっているのです。女性ホルモン(エストロゲン)はレセプターにくっつくと刺激がそれぞれの臓器を構成する細胞に入り、増殖が始まります。

SERM、タモキシフェンは大変特殊な働きをします。女性ホルモンに似ていますが、微妙に異なる構造で骨や子宮は刺激しますが、乳腺(乳がん)では刺激をブロックします。
エストロゲンがやってきても、タモキシフェンがレセプターを塞いでいるので、乳がん増殖は始まりません。
タモキシフェンは女性ホルモンの1000倍以上の強さをもって乳腺のレセプターに入ってしまってこれをエストロゲンからブロックしてしまうのです。

ではアロマターゼ阻害剤はどうなのでしょうか。

女性ホルモンであるエストロゲンは主に卵巣で作られます。若い女性(閉経前女性)では、卵巣で作られるエストロゲンの働きでがんが大きくなります。

閉経後は、この卵巣からのエストロゲンの供給がほぼなくなりますが、それによって女性ホルモンがなくなるか、と言えばそうではありません。副腎という小さな臓器が男性ホルモンをつくっており、それが脂肪細胞によって女性ホルモンに変換します。これによってエストロゲンが体には供給されているのです。
脂肪細胞に存在し、男性ホルモンから女性ホルモンを作り出す物質がアロマターゼであり、これをアロマターゼ阻害剤はブロックするのです。
これによって閉経後にわずかに供給されていた最後の製造場所を絶たれたエストロゲンは、体の中で”枯渇”します。タモキシフェンとはレベルの違う女性ホルモンの抑制が起こるのです。骨も、子宮も、乳腺も、エストロゲンが枯渇しているわけですから、刺激が一切来なくなります。

アロマターゼ阻害剤は、脂肪細胞におけるアロマターゼの働きを阻害しますが、卵巣は抑制しません。そのため、閉経していない、つまり卵巣が働いていれば、全く効果がありません。
逆にタモキシフェンは女性ホルモンが卵巣から供給されようが、脂肪細胞から供給されようが、ブロックできるのです。

したがってアロマターゼ阻害剤は閉経後、それも間違いなく閉経していることが条件となります。
そしてタモキシフェンは閉経前であっても、閉経後であっても、効果はあるのです。
アロマターゼ阻害剤では骨粗鬆症になりタモキシフェンでは骨が丈夫になります。これが使い分けのポイントです。


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