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乳がん部分切除後放射線治療 3週間が標準に
今回は放射線治療に関するお話です。
乳がんで部分切除手術を受けられた後、残存している乳腺に放射線治療を受けられた方は多いと思います。以前は2Gyずつ25回、合計50Gy。5週間かかっていました。患者さんに大きな負担でした。
Gyというのは1回あたりに照射する線量のことです。最近ではこれを寡(=回数が少ない)分割照射といって2.66Gyずつ16回、42.56Gy当てるという方法が世界的には主流になっています。
基本的にがん細胞を殺す効果は線量に依存しています。つまりたくさん当てないとがん細胞は死なないか、生き残ってしまう。だからある程度の量は当てないといけない。
そしてもう一つは間をあけて少しずつ当てるよりも、短い期間でどっと大量の線量を当てた方が効果は高くなります。だから短い期間で当てた方が総量で見たら少なくなります。
この二つの方法は全く効果に差がないことがわかっており、同時に副作用にも差がありません。なので現在の標準治療は5週間よりも3週間で終了できる寡分割照射に移行しつつあります。(世界では標準です。)
ただこの方法にはまだ未解決の問題がありました。
乳がん術後の放射線治療の目的は大きく二つあります。温存術後の残った乳腺内に残存しているかもしれないがん細胞を絶滅させる、そしてもう一つは腋窩や乳腺周辺のリンパ節にもしかしたら転移しているかもしれない小さながん細胞を絶滅させることです。
乳腺に当てる放射線治療は寡分割照射で問題ないことがわかっていたのですが、リンパ節を標的にする場合には腋窩(わきの下)や、鎖骨の周辺から頸部(首周辺)まで放射線を当てないといけません。
以前からこうした場合には、治療後に上腕のリンパ浮腫の副作用が発生することがわかっていました。
このリンパ浮腫はなかなか厄介で、程度の差こそあるのですが、ほぼ3割近い方に発生することがわかっています。(結構多いです。)
リンパの流れはたくさんあって、どこかが損傷しても他を流れる。けれどもがんの治療だからその流れをできるだけ残さずたたこうとする。そしてリンパの流れがほぼ半永久的に破壊されて発症することから、いったん発症するとなかなか治癒させる方法がないことがわかっています。リンパマッサージ等で対応するのですが、一過性だったり、現状維持で精いっぱいだったりしてなかなか対応が難しいです。
今年、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表されたデータによると、乳がん患者のリンパ節領域を照射する場合、3週間の寡分割放射線療法は、通常の5週間分割に劣らないことが判明しました。HypoG-01と名付けられた試験の5年間の結果で、両方のレジメンで腕のリンパ浮腫の累積発生率が約33%であることが示され、差がないことが明らかになっています。これによって、寡分割照射ではなく、通常の分割照射を行う理由がなくなりました。今後はリンパ節照射を必要とする乳がん患者のすべてで標準治療が変化する可能性があります。
今後
HypoG-01 試験関係の先生はリンパ節照射を含む乳がんに対する低分割放射線療法を支持する確固たる証拠が現在もう確立していることを強調しました。
「5 週間のリンパ節放射線療法はもはや適応ではなく、3 週間のリンパ節放射線療法が国際標準治療である」と主張しました。
日本でも3週が主流になりつつありますが未だ5週を施行している施設もあります。(私もかつて当施設で5-6年前放射線治療の先生がなかなか3週にしてくれなかった苦い思い出があります。)
今から放射線治療を施行する方は3週でお願いしますと勇気をもって言ってみましょう。(放射線治療の先生は気難しい人も多いので気を付けて)
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