高齢の方でホルモン陽性乳がん患者さんは放射線治療はうけない選択肢もありです
乳がんで乳房温存手術を受けた際には、術後に放射線治療が必ず必要とされています。
2023年にNew England Journal of Medicineという世界的に有名な医学雑誌に、乳がん術後の放射線治療の有無による、乳房内再発の結果や、遠隔転移の有無、生存率の結果が発表されました。
この研究は65歳以上の患者さんで、ホルモンレセプターが陽性、腋窩リンパ節に転移が無く、腫瘍の大きさが3cm 未満の比較的早期で、術後の予後良好なグループの患者さんが対象です。いわゆるルミナールタイプです。
放射線治療を通常どおりに行うグループと放射線治療を加えないでホルモン療法のみのグループとで、術後の乳房内の再発や遠隔転移の有無、10年生存率を両グループで比較検討したものです。
患者さんの総数1,326人がこの研究に登録されました。
放射線治療を受けたグループは658人で、放射線治療を受けなかったグループは668人でした。患者さんの平均年齢は71歳、腫瘍径が2cm以下の患者さんは全体で約88%でした。観察期間の中央値は9.1年で、10年間で放射線治療受けなかったグループは9.5%、放射線治療を受けたグループでは0.9%と、有意に放射線治療無しのグループで乳房内再発が増加していました。遠隔転移は放射線治療を受けなかったグループは1.6%に対して、放射線治療を受けたグル-プは3.0%と放射線治療を受けたグループに遠隔転移が多かったのですが、両グループ間での有意差はありませんでした。10年生存率は、放射線治療無しのグループでは80.8%、放射線治療を受けたグループでは80.7%で、両者の間で生存率に差は認めませんでした。放射線治療を省略すると、比較的高齢で乳がん再発リスクの低い患者さんでも、乳房内再発は有意に増加しましたが、遠隔転移や、生存率に差は認められなかったというのが今回の報告です。
私はイタリアに留学していましたがイタリアの手術は乳がんぎりぎりで本当にがんのみ切除して後は放射線治療でお願いねという治療でした。
日本では手術は乳頭中心に広範に切除するのでもっと成績は良いと思います。
放射線治療は非常に副作用の多い治療です。受けなくてよければ受けないほうがお元気です。肺炎の可能性も高く、心臓に当たれば心不全にもなります。高齢者では命にもかかわります。高齢者は他の疾患のリスクも増えます。基本の体力を温存することが大事です。
当院では70歳以上で腫瘍径が小さく、ホルモンレセプター陽性なら、放射線治療はなしで、ホルモン治療単独で経過観察も可能という選択肢もあると説明して診療しています。