カワルセカイ
どんな人でも幸せな気持ちにさせるのでは、そう思えたのは、初めてお会いした海岸の展望台。
姫乃いつき。
知らないはずなのに、なぜか懐かしい。
理由があって、どうしても誰かを撮影したかった日。
初めての方が、望ましく、その時の私にとっては、いずれにしても初めてになる、そんな消去法。
流石に、珍しいぐらい緊張。
初めて参加する東北ポートレート主催の撮影会でもあり、スタッフに撮影前の注意事項を聞き、私も、撮影スタイルというか進め方を、お二人に話す。
ちょっと固い人だなと思われたな。
そんな感覚を持つ一方で、小柄で、流行りというよりこだわりなのだろう、金髪のポニーテール姿のモデル、姫乃さんの陽なオーラに、私の緊張が和らいでいることに気付いた。
「初めての参加ですが、どちらでお知りになりましたか」
私がその立場でも同じ質問をするし、それに関しては、ちゃんとした動機があった。
その頃私は、Shooting Sendai所属モデルの二階堂心春さんを撮影することが多くなっていた。前の記事で述べた理由はもちろんあるのだが、撮影タイミングが割と合うスケジュールであったことも、頻度の高さに繋がっていた。
二階堂さんも参加する撮影会に予約し、撮影が終わって、次の撮影モデルさんを待つ間に、聞こえてきた声。
その日は、時間差スタートの撮影で、二階堂さんを撮影している方の声だったのだ。
高いトーンに、柔らかく、穏やかな話し方。
私とは真逆。それも、尋常のないほどに、甘く、安らぎさえ覚える、立ち居振る舞い。
それから一週間ぐらいして、私は二階堂さんに古民家での撮影を依頼して、あの方は?と、思わず聞いてしまっていた。
それから別なモデルとの撮影でもその方についての話をして、誰に対してもそうなんだと、知っていった。
神である。
その方が、姫乃さんを撮影している。
それで、私は姫乃さんに興味が沸いたのだ。
そう、スタッフと姫乃さんに話した。
その瞬間に、お二人の空気が一瞬で安心に変わったのには、驚いたし、その方に感謝であった。
あれ。
景色が、明るくなった。
視野が、広がっていく実感。
そして、上手く撮ろうとか、光がどうとか、すっかり忘れ、私は、目の前に居る姫乃さんを、ただただ、写真に収めたいと感じていた。
いつもならクールな表情を求めてしまうのに、話すままの笑顔、全身で表れている明るさ、それだけで、良くなっていた。
そのままを、撮りたい。
この人を、撮りたい。
技術、テクニック、レンズ、カメラ?
それ、何?
そういう興奮。
初めてカメラを持った小学生のように。
ただシャッターを切って、切って、切って。
永遠で、一瞬のときを経て。
あの時、私は幸せを感じていたのだ。
ただ。
さすがに写真としては・・・。姫乃さんに申し訳ない。
そして、直後の撮影会に、申し込んでいたのだった。
後ろからの斜光で、影がまんべんなくなるように撮っているのは、実は、私にとっては珍しい。
とにかく、基本に忠実に、姫乃さんが綺麗に写ることだけを考る。
私の撮影スタイル?そんなもの、どうでもよいこと。そう思わせてくれた。
変わる視点と変わる景色。
変える力と変わらない笑顔。
世界が、違って映る。
カワルセカイ。