釣り餌用ドバミミズ飼育に際して、与えるべき「ミミズの餌」について
本記事は、釣り餌用ドバミミズ飼育シリーズ記事の3番目である。最初から読まれたい方はこちらから。
この話題を記事にするにあたっての背景
「ミミズの餌」というキーワードでweb検索を行うと、ヒットする多くの情報がミミズコンポストに関するものである。これは、主にツリミミズ科のミミズ、通称シマミミズの餌に関する情報であり、生ごみや牛糞を与えれば食べて増えるという内容が中心である。シマミミズは生ごみ処理に適しており、そのため家庭用のミミズコンポストで広く利用されている。
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当記事シリーズ最終章の「ドバミミズの飼育方法」を公開したので告知。これを理解するためにも、シリーズ記事は全て読んでほしい。
一方で、私が過去7年間にわたり飼育実験を行ってきたフトミミズ科のミミズ、通称ドバミミズについては、これとは異なる結果が得られている。ドバミミズは生ごみと呼ばれる形態のものを食べず、反応を示さなかった。私の7年間の飼育実験においてドバミミズが食べて、さらに墳塊を残したのは、腐葉土を粉砕したもの、腐葉土そのもの、また腐葉土とケト土を混ぜたものであった。ただし、牛糞は一般住宅での室内飼育や庭に置いておくことが難しいため、詳細な調査は行っていない。とはいえ、調査と採集の結果から、ドバミミズは主に植物の腐敗物を食べていると考えることができる。
しかし、この観点からドバミミズがどのように栄養を得ているのかを理解するためには、目に見えるものを文字通り目視で観察するだけの飼育実験だけでは限界がある。より良い飼育方法の確立には、文献調査も併せて行い、ミミズにどのような餌を与えると効果的に飼育できるのかを考察することが必要である。特に、ドバミミズの栄養摂取に関する情報を得るためには、ミミズの消化器官や消化酵素、腸内微生物に関する文献を調査するのが良いだろう。ここでは再現性の高い飼育方法に特化した内容を述べていくので、詳細な消化機構、機序については参考文献を参照されたい。
ドバミミズは何を食っているのか
ミミズの栄養源
さっき腐った植物を食っていると言ったではないか、と突っ込みが入りそうであるが、その通り、見た目には腐った植物、つまり発酵した落ち葉などを食べている。しかし、目に見えない生化学的な調査を行った文献にあたれば、腐った植物以外のものも栄養にしていることがわかる。下記文献では、ミミズの食性に関する広範な調査がなされ、ミミズがどのような食物を摂取し、どのように栄養を得ているかについて詳細に説明されている。
"The Earthworm Diet – What food do earthworms eat?" The Worm People. Accessed July 7, 2024. https://thewormpeople.com/the-earthworm-diet
きわめて簡単に要点をまとめよう。ただし、この文献の調査対象はツリミミズ科のミミズであるため、同じ食性であると言い切れるわけではない。あくまで「目に見えない物も栄養源にしている」ということを述べるのに参照していると思ってほしい。
ミミズはデトリタス食として知られ、主に腐敗した有機物を摂取する。彼らの栄養源は多岐にわたり、以下のような有機物を含む。
植物残渣: 地上に落ちた枯れ葉、草、果物、野菜、などを食べる。これらの植物残渣は腐敗が進んでいるものが好まれる。
動物残渣: 腐敗した動物の死骸や糞もミミズの食物源となる。
微生物: ミミズは地中の菌類、細菌、藻類などの小さな微生物も摂取する。特に、根圏で共生する菌類は一部のミミズ種にとって重要な食物源である。
このような感じである。注目したいのは、微生物を消化吸収しているという点である。他の文献(たとえば下記)にあたれば、ミミズの種による食性の違いに関して考察が可能だ。ミミズの消化酵素の活性に関する調査と、ミミズと微生物の相互作用について触れている文献である。
"Activity and origin of digestive enzymes in the gut of the tropical earthworm Poiitoscolex coretlirurus" by Zhang B. G., Rouland C., Lattaud C., and Lavelle P. (1993)
"The feeding ecology of earthworms – a review" by Curry JP and Schmidt O. (2007).
このような文献を読んでみると、多様なミミズの食性の違いについて、以下の2点によるところが大きいと考察できる。
1.ミミズ自身が持つ消化酵素の違い
2.ミミズの消化器官に存在する微生物の組成の違い
シマミミズとドバミミズの食性が大きく異なること、そしてドバミミズのうちでもその種類によって好んで食べるものが異なるのは、おおざっぱに考えるとこの2点で説明できると思えばよいだろう。
これは我々人間や哺乳類に置き換えても別段不思議なことではない。人間に消化できないセルロースなどの食物繊維を草食動物は栄養源にしているし、その消化を手助けしているのは腸内微生物が出す酵素であったりする。人間だって腸内微生物や食品から得られる微生物を消化吸収している。見た目には腐葉土を食べているドバミミズも、微生物を栄養源にしている。これは大切な観点だ。
最初に参照した文献に挙げられているミミズの餌のうち、ドバミミズに関しては植物残渣の一部、そして動物残渣は消化能力が無いか、極めて低いために食べられないのだと考えればよいだろう。
ミミズが食べている物に関する考察:腐敗のステージ
ミミズは自然界では有機物の分解において重要な役割を果たしており、その種によって異なるステージの有機物分解を担当していると考えることができる。
・ツリミミズ科のミミズ(通称シマミミズ)
ツリミミズ科のミミズは、主にコンポスト(堆肥化)に利用されるミミズである。これらのミミズは、生ごみや新鮮な植物残渣を好み、初期の分解段階にある有機物を摂取する。生ごみや新鮮な有機物は、完全には分解されておらず、これらのミミズの消化活動によって細かくされ、分解が進みやすくなる。
コンポストにおけるツリミミズ科のミミズの役割は、有機物の消化と分解の促進である。彼らの活動により、有機物は微細化され、微生物によるさらなる分解が進行しやすくなる。この過程を通じて、堆肥の生成が効率的に行われる。
・フトミミズ科のミミズ(通称ドバミミズ)
一方、フトミミズ科のミミズは、主に土壌中や腐葉土に生息するミミズである。これらのミミズは、部分的に分解された植物残渣や腐葉土を好み、中期から後期の分解段階にある有機物を摂取する。腐葉土や部分的に腐敗した有機物は、すでにある程度分解が進んでおり、これらのミミズの消化活動によりさらに分解が進み、安定した有機物である完熟の腐植が生成される。
餌として微生物を飼育容器に入れなければいけないのか?
ミミズが栄養源にしているのであれば、ミミズ飼育のために微生物を手に入れてきて飼育容器に入れる必要があるのでは、と考える人もいるだろう。しかしこれについては筆者に策がある。基本は腐葉土だけ与えれば、ドバミミズは飼える。実は筆者は魚を水槽で飼育するアクアリウム趣味も持っている。アクアリウムの環境づくりは、微生物を増やす作業であると言っても過言ではない。その考え方を応用していけば、ミミズの餌たる微生物は簡単に手に入るし、わざわざ与える必要はない。具体的な方法ついては、今後公開する飼育方法の記事にて書いていくことにする。2024年夏のうちに公表予定である。公開を待ってほしい。このシリーズ記事の次の記事はこちらだ。
ドバミミズ飼育シリーズ最終章、「ドバミミズの飼育方法」はこちら