料理初心者向け・ブラックバスの捌き方
はじめに・ブラックバスって食えるの?
ブラックバス釣りを含む淡水での釣りが趣味の人は、釣った魚は食べないという人が多いだろう。これは、スポーツフィッシングにおいてキャッチ&リリースの文化が存在すること、そもそも淡水魚を食べることになじみのない人が多いこと、ブラックバスが不味いというイメージを持つ人が多いこと、さらには魚の捌き方や料理方法が分からないという理由があるからだと考えられる。
しかし、ブラックバスが日本に移入された経緯には、「釣って楽しい」と同時に「食べておいしい」という側面も強調されていた。ブラックバスが不味いという言説が日本に根強いことには、生態系を壊す害魚としての悪いイメージや、高度成長期からの極度に汚染された内水面(池や川)のイメージなどが影響していると考えられる。これらにより、ブラックバスを食べることに対して消極的な人が多いのが現状である。
だが、前述のようにブラックバスは海の対象魚と同様に食べておいしい魚である。特定外来生物ブラックバスのリリースを禁止する自治体もあり、遵法精神をもってバス釣りを楽しむには、「食べる」という選択肢を排除しないでおきたい。釣ったら食べるというバスアングラーが増え、それらが情報発信されることで、バス釣りに対する風当たりも和らぐ可能性が(少しは)ある(かもしれない)。リリース前提の場合であっても、釣り自体が魚に致命傷を与えることはあるため、その際にブラックバスの捌き方を知っておけば、持ち帰っておいしく食べることもできるだろう。
ここでは、魚を捌いたことがない人向けに、不器用かつ料理が下手な筆者でもできているブラックバスの捌き方を紹介する。筆者も経験があるが、魚の捌き方を調べたら「三枚におろす」「あばら骨をすき取る」「皮を引く」などとさらっと書いてあって「どうやって?」と思ってしまう。動画で観ても、「そんなのいきなり真似できない」と思うような動画が山ほど出てくる。ここではそういう事が起きにくいように、下手くそなりに丁寧に説明するのでやってみてほしい。何度か捌いているうちに魚の体の構造が分かり、他の魚も捌けるようになって、食べるためにいろいろな魚を釣りたくなってくるだろう。ブラックバスは捌きやすいので練習にはもってこいだ。
ウロコ取りと下処理
まずは鱗を取ろう。鱗取りにはスチールたわしやペットボトルキャップを使う方法などいろいろ情報があるが、100円ショップに鱗取りが売っているのでそれを使うのが簡単だ。
これで尾から頭に向かって擦ってやると鱗がバリバリと取れる。背中や腹、ヒレの後ろなどに取り損ないが残りやすいので気を付けよう。鱗が結構飛び散るので、シートや新聞紙などを敷くか、庭のある人は屋外で行うことをお勧めする。
ブラックバスは体表のヌメリに独特のニオイがある。臭いと言われてしまう原因である。鱗を取った後に塩を手に取って揉んでやるとヌメリが取れてニオイが和らぎ、滑りにくくなって料理もしやすくなる。大胆にたくさん塩を手に取って揉んでやろう。特にヒレの部分はヌメリが多く滑りやすいので入念に塩で擦ってやると良い。背ビレにトゲがあるので刺さらないように注意しよう。
捌くときに用意するもの
魚を捌くときに使うものは、以下のものがあれば良いだろう。先ほど使用した鱗取り、皮引き用の刃の薄いペティナイフ、キッチンバサミ、メインのシースナイフ(これは三徳包丁でもよい)、そしてシャープナー。シャープナーは数回魚を捌いたら1度使うくらいでよい。下に敷いてあるのは長さ45cmのまな板、薄い用途別まな板、キッチンペーパーだ。キッチンペーパーはたくさん使うので引き出せるタイプのものをキッチンに置いておくと良い。
上の写真のうち、鱗取りとキッチンバサミ、薄い用途別まな板は100円ショップのものだ。ペティナイフは皮引きに使うので、刃が薄い物であれば安いものでもなんでもよい。メインで魚を捌くナイフは、「BOKER MAGNUM エルクハンター」を筆者は使っている。使っている理由は、小さくて扱いやすいからというのと、ヒルト(刃の付け根の部分)の出っ張りが大きいので手が滑ってもケガをしないから、そしてナイフの背に厚みがあるのでもう一方の手で押さえて固いものを切るときに手が痛くないからである。
シャープナーは以下のものだ。ナイフ以外にも、家の包丁が研がずに放置の人は、この数百円で冗談抜きで世界が変わるので持っておいて損はない。
頭と内臓を取る
まずは頭と内臓を落とそう。この時肝に銘じておきたいのが、「内臓を腹の中でつぶさない事」である。これをやると身の味や香りに影響が出るし、拾って片付けるのが大変だからだ。
まずは頭側の、エラ蓋の先端と腹ビレの後ろを結んだ直線上を切る。背骨はまだ残っていて構わない。
魚を上下逆さま向きにして切ろう。
背骨を切らなくていいので、そんなに力は必要ないだろう。これで背中側は下まで切ってしまう。
次に魚の上下を元に戻して、腹側を切っていくが、こちらは内臓を切らないように、ナイフの先を切れ目に入れて引くようにして、身だけを腹ビレに向かって切っていく。
魚をひっくり返して、反対側も同様にして腹びれの後ろまで切り、背骨と内臓だけで頭がつながっている状態にする。次はキッチンバサミで腹の切れ目から肛門までを切り進む。内臓を傷つけないようにしよう。
ここでやっと背骨を切る。関節の部分を刃先で見つければナイフでも切れるが、慣れないうちは内臓を一緒に切ってしまう可能性があるのでキッチンバサミで切るとよい。キッチンバサミで背骨の関節の継ぎ目の部分を探し、刃で挟んだら力を入れながらハサミを左右にクイクイと軽くねじると骨が切れる。
切ったら、魚を左右に引っ張るのではなく魚を折り曲げるように頭を手前に引くと内臓が出てくる。肛門の部分は排泄物を出さないように注意しながら腸の終端部分を持って千切るか、これもキッチンバサミで切り離してもよい。こうすることで、頭と内臓を同時に取り除ける。
この時黄色い卵を持っていたら儲けもので、カラスミや煮付けにするとおいしいので内臓から引きはがしておこう。
アラを料理にしないのであれば、頭と内臓はこのまま破棄する。これで頭と内臓を取る工程は終了だ。
三枚におろす
頭を取ったバスの腹の中、背骨の脇のところに大きな血合がある。これを背骨に沿って(画像の青い点線部分)ナイフで傷つけて、ボウルにためた水の中で腹の中を丁寧に洗って血合をしごいて血を出し、まな板を洗ったあと身も流水ですすいでキッチンペーパーで水気を取る。
ここから左右片方ずつ身を剝がしていく。頭側の背中から刃を入れて、中骨に沿って切り進めていこう。この時、真横から水平に刃を入れるのではなく、斜めに刃を入れて中骨にぶつかったところで中骨沿いに刃を何度か通して切り進めていくイメージを持ってやってみよう(下図青線)。
このようにするのは何故かというと、背ビレと脂ビレの付け根のところに骨があって邪魔なのと、確実に中骨に沿って刃を入れるためである。刃を何度か通すというのはどういう事かというと、ナイフを入れて一回では図の背骨のところまで一気に切るのが難しいので、中骨に沿わせるように何度か刃を通してあばら骨にぶつかるまで切り進めようということだ(下図の青線のようなイメージ)。
この画像で言う左側の部分はあばら骨に刃が当たったらコツコツと感触を感じるようになるので、そこまで進めたらあばら骨は切らずにおいて、次は尾のほうを切っていこう。背中側からあばら骨がなくなっている部分から先を切り、尻ビレの上に刃先を出すイメージで貫通させる。
刃が貫通したら腹側の空間と切れ目をつなげてしまい、次は腹側から刃を図で言う右向きにして入れ、尾ビレに向かって背骨に沿って切り進めていく。そのまま横に切り抜いても良いし、尾ビレの手前で上から刃を入れて切ってしまってもいい。
ここまで進んだら、バスの半身はもうあばら骨だけを介してつながっている状態になる。あばら骨はナイフでも切れるが、慣れていない人はキッチンバサミで切ってしまおう。
これを両方の身でやれば、三枚おろしが完成する。背骨は手でへし折ってしまえばコンパクトになる。
あばら骨のすき取り、血合骨の除去
次はあばら骨をすき取っていく。刺身で食べるわけでもないので、料理によっては別に取り除かなくてもいいのだが、「バスは浮袋周りの脂が臭い」という人もいる(著者は感じたことがない、水域による?)のでそれと一緒に取ってしまおう。取り除きたいあばら骨は以下の部分だ。
ここでもやはり、三枚おろしの切り始めと同様に、「身に刃を入れてから骨に沿わせて切っていく」というやり方になる。今度は刃の下ではなく上にある骨に沿わせて切っていくことになる。どういう事か、断面図で見てほしい。
このイメージでナイフを入れていくとあばら骨に沿って刃が進んでいく。
なお、きれいにあばら骨を取り除いても、下の図の四角で囲った部分は浮袋の脂と同様に臭い部分であると言われているので最後まで頑張って骨をすき取らなくてもある程度は切除してしまっていいだろう。
あばら骨を取った身が以下だ。この身には、血合骨と呼ばれる小骨が残っているので、次はこれを除去する。
この血合骨は以下のように①→②の順に切ることで除去できる。こちらはあばら骨と違って非常に簡単だ。
切り取ったのが以下の写真だ。身を触ってチクチクしなければ成功だ。
皮引き
「ブラックバスは皮が臭い」とよく言われる(筆者はそんなに臭いバスを食ったことがないので本当のところは知らない)。確かにバスのヌメリは臭いので、そう言われるのかもしれない。刺身で食べない魚の皮の除去の必要性はともかく、魚全般を捌くようになって手こずるのは上述のあばら骨と、ここで話す皮の除去だろう。これもコツを掴めばできるので紹介していく。
使用するのは、刃の薄いペティナイフがいいだろう。三徳包丁でもできるが、筆者はメインに厚めのナイフを使うので皮引きにはペティナイフを使う。
これを身の尾っぽ側の端から1.5cmくらいのところに刃を入れて斜めにしていき、皮まで到達させる(まな板の感触がある状態でナイフを前後に動かさなければ、皮まで切ってしまうことはないだろう)。
この左に写っている身の端っこをつまんで前後(写真で見た上下)に動かすと皮が取れるのだが、これには決定的な3つのコツがある。身の端は滑らないように乾いたキッチンペーパーで掴むこと、人差し指をナイフの側面に置いて下向きに押さえ、ナイフを前後に動かさないこと。あくまで身の端っこを掴んで、そちらを1秒に1往復くらいのゆっくりなペースで前後させること。コツがわかるまで、このようにしないと慣れていない人は皮を途中で切ってしまい、また「端っこ」を作り直すことになる。
皮を引いたら、あとは料理に合わせて切るだけの状態になる。ここまでくれば、ブラックバスの身には見えないだろう。
このような状態にすることを「柵にする」「柵取り」という。基本的に魚を柵にする手順はブラックバス以外でもこれと同様にできるので、覚えていこう。ブラックバスはサイズに対する可食部が非常に多いので食べ応えがあり、クセのない味なので様々な料理に使える。50upのブラックバス1匹でこの身の量である。
おわりに
以上で、ブラックバスの捌き方は終わりである。事業でも趣味でもネイチャーポジティブが求められる時代である。ブラックバスは美味しいし、日本ではリリースせずに食べればそれだけで生態系保全に貢献できる。ぜひ挑戦してみてほしい。
今後はシリーズ記事として、料理初心者でもできるブラックバス料理を執筆していくので続きを待ってほしい。
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